【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅱ.体に優しいお野菜編

13.俺は、これまでにない変化を感じる②

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 俺とケビン、そしてデュランは道端時代から共に過ごし、一緒に孤児院に保護された最も古い昔馴染みだ。

「デュランは俺と違って家の都合もあるし、竜騎士候補としての立場があるんだよ」

 デュランはその竜気術や剣術の才能から、早々に裕福な神官の家に引き取られ養子となった。

 神官の家に引き取られたと言っても、所詮は元孤児だ。
 優秀でなければ価値が無く、粗があれば徹底的に非難される。
 俺たちと親しくすることだって、快くは思われない。

 もともとつんけんした奴ではあったが。意欲に溢れて、何かと頼りになる、頼られれば満更でもない。そんな奴だった。

 俺が神官になった時に神殿で再会したものの、その時にはデュランは既にそれなりの立場があった。

 デュランも苦労しただろうし、人一倍努力したんだろう。

 何の後ろ盾も無い俺と、同じ孤児院の出身だという理由で比較されれば面白くないのも、まぁ、当然のことだ。

 そんなときにユーリが現れた。
 そして、デュランを青銀竜の竜騎士の候補として指名した。 

 つまり、今やデュランは竜の神子ご推薦の、竜騎士候補の一人というわけだ。

 デュランは確かに実力を兼ね備えた竜気術を行使する剣士だ。
 最も竜騎士に近い存在だと言っても、誰もが認めるだろう。

 それなのに、デュランはいつまでも俺のことを意識し続けた。

 どんな思惑があるにせよ、ユーリは何かと俺に絡んできていたこともあって、デュランはあからさまに俺を敵対視するようになった。
 
 竜騎士になる旅で同行し、共にいる時間が増えたのに反比例して、関係は一層冷え込む一方だ。

「ま、ヴァル兄だと気を使わなくていいんだけどさ」
「俺も一応神官だぞ」
「一応、ね」

 ケビンの言葉に、俺はくっと喉の奥で笑った。

「ヴァル兄はこれまで、ずっと神殿からの命令であちこち忙しそうに飛び回ってただろ」
「まぁ……そうだな」

 忙しいというか、いいようにこき使われてきただけだろ。
 ただ、神殿においてそれなりに重要とも言える竜石の採掘や、野獣の討伐の任務に駆り出されてきたってだけで。

「それがなんで今更、自警団に派遣されたんだよ」
「そんなこと、俺が聞きてぇよ」

 自警団の監督を行う神官は、当番制ではあるものの神官の業務の中ではいわば左遷先のような扱いだ。
 俺はこれまで一度も派遣されたことが無かった。

「ヴァル兄、何かやらかしたの?」
「あー……どうだろうな……」

 やらかしたと言えば、やらかしたが。厳密に言えば、俺では無くあの白い竜が。

 俺は先日、ルルドが神殿に来た日のことを思い出した。



 *****



 あの日の俺の業務は、倉庫に放り込まれた竜石の発掘で使用した採掘用具や、狂暴化した野獣の討伐で使用した武器の数々を整理し、修繕することだった。

 通常は、竜気術を使える神官の地位にある者が行う業務ではない。

 以前から、生い立ちや、謎のやっかみから雑用を振られることはあったが、今日のはまた何の捻りもない、あからさまな嫌がらせだ。

 武器に関してはほぼ錆食ってぼろぼろの物ばかりで、これはほぼ廃棄の奴を俺に処理するよう命じている。

 この嫌がらせが、孤児院の一件に端を発しているのは明らかだ。
 ルルドが一夜にして今にも崩れそうなおんぼろを、立派に建て直してしまったことに。

 放置され廃棄間際の壊れた道具たちは、これまで見放されてきた孤児院かそこのガキどもか……もしくは俺を指す。

 つまり、「もはや使い物にならない廃棄対象だ」という揶揄が込められている。

 そして、「捨てるしかないおんぼろを、新しくして見せろよ。本当にお前にできるならな」という嫌がらせと挑発だ。

 直接挑む気概も無い輩が、くだらねぇことしやがる。

 そんな思いで、目の前の光景を眺めていると、

「ヴァル!」

 唐突に背中を襲った衝撃に、俺の鼓動が跳ねた。

「は?……な、ルルド?お前、なんでこんなとこいんだよ?」

 孤児院にいるはずのルルドが、背中に抱き着いており「えへへ。驚いた?」なんて、暢気に言う。

 驚いた?……だと?
 驚くに決まってるだろうが。色んな意味で。

 まずこいつ……気配が全くねぇ。

 ルルドはどうやら完全に存在そのものを周囲と同化させることができるらしい。
 普段は気配に敏感な俺も、まったく察知できないほどに。

 そしてここは……神殿でも奥まった場所だ。

 つまりこいつは神殿内を突っ切って、ふらふらと一人ここまでやって来たってことだ。
 この辺りは普段は人気が全くと言ってないにもかかわらず、ルルドの来た方がからじろじろとこちらを窺う気配と視線を感じる。

 俺がひと睨みすれば、そそくさと去っていった。

 はぁ……こいつは、自分の容姿が目立つってことを、まったく理解してねぇんだから。

 後ろから抱き着かれたまま、すぐ横にあるルルドの顔を眺める。
 ルルドは中性的な顔立ちのようでいて、はっきりとした目鼻立ちは凛々しい。
 白い髪は竜体の頃の美しい毛並みの名残があって、大きな黒い瞳はまるで黒曜石のようだ。

 すらりと長い手足と細身の体躯も相まって、全体として精悍な姿をしている。

 ……今のように、俺の美味しそうな匂いとやらに魅せられ、締まりない顔で俺に抱き着いてなどいなければ。
 こうしていると、愛嬌があって幼く見える。

 なんにせよここまで来る間に、どれだけの人に見られて、そして、どれだけ印象付けたか……考えたくもない。

 しかも聞けば、おつかいとやらの内容は、よりにもよってあの大神官への届け物だという。

 やっぱり、院長もダメだ。わかってたが、ここまでとは。

 大神官は、権威を盾に権力を利己的に振るう、あらゆる欲求の塊みたいな男だ。これまでも、見目の良い神官や信者があいつに食われるなんてことは日常茶飯事だった。

 あの仕事をしねぇエロ爺が、わざわざ孤児院のおつかいで来た奴に会うなんて。

 完全に目つけられてんじゃねーか。

 まあ、ルルドは『ものすごく臭い』なんて言っていたから、好んで近づくことは無いだろうが。
 なにより、竜であるルルドにとっては、そもそも脅威になる人間なんていやしない。

 でもなんでだ。面倒くせぇことになる予感しかしかない。
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