【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅱ.体に優しいお野菜編

49.俺は、昔馴染みと対峙する②

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 竜の神子ユーリが、この世に関する『物語』を知っているだろうということ。
 “迷い星”、竜の神子は同じ世界から来たということ。
 
 どちらも俺の予想を裏づける事実だった。

 ぐきゅうくううぅぅぅ~……

 盛大な腹の音に、俺は意識を引き戻される。

 ちらりと音の主を斜め後ろから見れば、変わらず前に向かって走っているものの、耳が紅く染まっているのが暗い中でも良く分かった。

 くっと思わず笑うと、さらにルルドはその足を速めた。

 ああ、そうだよ。この腹の音に、俺はあの時、確かに救われたんだ。

『歪が無ければルルドに“迷い星”が衝突し行方知れずになること無かった。200年前、ルルドが竜として不完全で生まれること無かった』

 ルルドが未熟のまま200年前に生まれて。
 あのタイミングで。
 ああいう風に出会ったこと。

 それは、間違いなく俺の運命を大きく変えた。

 あの時……俺が絶望し、そして死へと向かう時。
 迷い行き倒れた腹ぺこのルルドの腹の音に、正気を取り戻さなければ……何がどうなったのか。

 俺には、今もわからない。

 あの時の俺は、確かに自我を失いかけて、己の意思と関係なく、引き寄せられる方へと向かっていた。

 何をしに、どこへ向かおうとしていたのか、俺にはわからない。
 ただ言えることは……俺は、苦痛から逃れるために、死ぬためにどこかへと向かっていたということだ。

 心も体も限界で、体に充満する“澱み”から解放されたくて、だけど逃れられなくて、ひどい苦痛の中で朦朧と彷徨っていた。

 あの時、俺の意識は“澱み”に飲み込まれていたのだと思う。

 ぞくり、と寒気がする。

「ヴァルは、夕ご飯もう食べた?」

 突然問われて、俺は思考を停止する。

「……いや、まだだな」

 こっちはこっちで、深刻みのかけらもねぇ。話が通じない代表なんだよな。頼むぜ、おい。

「だよね。お腹が減ってると、集中力も落ちちゃうから。今のうちに、何か口にした方がいいよ」
「ああ、そうだな」

 何、いきなりまともなこと言ってんだよ。確かに、空腹は良くない。
 物事を悪い方へ考えてしまう。そして、無駄に苛立ち、体力を消耗し、心をすり減らす。

「その飴ね、とっても美味しいんだよ!」

 ああ。やたらキラキラした目で見てくると思ったら、そういうことか。

 どうやら、あの飴を早く食ってみてほしいという催促だったらしい。

 俺はルルドにもらった飴のうち、黄金色のを一粒、口へと放り込んだ。
 甘酸っぱい柑橘の味が、口いっぱいに広がる。

 そんな俺の姿を、視線だけで確認したルルドは、「ふふふっ」と幸せそうに笑った。

 その嬉しそうな笑顔に、まぁこいつ一匹くらいなら押しつけられてもいいか、なんて。
 そんなことを思っちまう俺は、大概この白い竜に毒されてる。何かが絶対に麻痺してる。

「ねぇ、ヴァル」
「なんだ?」
「あのね、こんな時に、悪いんだけどさ……」
「なんだよ」

 何をそんなに不安そうに、ちらちらこっち見てんだ。前見て走れ。危ない奴だな。

「はぁ……もったいぶんな。さっさと言え」

 促す俺に、それでもルルドは「うー……」とか、「あのね……」とか言い淀みながら、

「僕の中の“迷い星”、竜の神子と同じ世界の魂なんだって」

 随分と間をおいて、そう言った。

「そうらしいな。まぁ、俺は薄々そうじゃねぇかと思ってたからな。特段驚いてねーよ」
「え?そうなの?」
「ああ。お前と竜の神子、挨拶だとか動作に共通点があるからな。で、それがどうした?」

 ルルドは「………共通点」と呟いて、凄まじく不味いものを食べた時のような顔をする。

 このタイミングで何の話だ?
 何が言いたいのかさっぱりわからん。こいつの思考は俺の予想の斜め上を行くことも度々だしな。

「ヴァルは、嫌じゃない……の?」
「は?何がだ?」
「だって……。
 僕は正直、テティに違う世界の魂が混じってる、って言われた時は特に何とも思わなかった。
 自分では、一つになっちゃってるからか、実感が無いっていうか、どこまでが竜の僕で、どこからが混じった影響なのかよくわからないから」
「ふーん。まぁ、そんなもんだろ。それが、なんだよ」
「僕の人っぽいところに、何か竜の神子と同じところがあるんでしょ?
 そして、ヴァルは竜の神子のこと嫌い……だよね?」
「………嫌い、の一言では語りつくせないな」

 そんな、単純な感情じゃない。

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