93 / 238
Ⅱ.体に優しいお野菜編
54.俺は、改めて自己紹介する②
しおりを挟むやっぱり、ルルドの奴、俺の名前をちゃんと覚えてなかったな。
「俺だよ」
絶対にそうだと思ってたぜ。
きっとユーリにも「ヴァレリウスとどういう関係?」とかなんとか、聞かれたんだろう。
で、素で俺の名前を憶えていなかったルルドは、すっとぼけた反応を返したに違いない。
「え!?ヴァルのこと!?……え?だって……ヴァルって……ヴァルじゃなかったの!?」
何言ってんだよ、お前は。意味がわかんねーよ。
「そりゃあ、愛称だよ。初めに名乗ったはずだ。覚えてねーのか?フルネームをそう何度も名乗るか。馬鹿」
もっとも、あの時は犬だと思っていたから、わざわざ犬に名前を覚えさせようなんて、思ってもいなかったわけで……。
犬でばうばう吠えてんのが、ちょうど俺の愛称と似てたっつーか。
あとは、あれだ。子供に、名前を教えるときと同じで。
覚えてもらうために、あえて繰り返し短く教えたりする、あれと同じだ。
「初め?いつのこと?……あの頃の僕、とにかくお腹が減ってたから……」
「そうだろうな」
「えー……ヴァルとのことで、覚えてないことがあるなんて。ものすごいショックなんだけど!」
なんて、ルルドは大げさに頭を抱えた。
いや、俺からすれば、名前をちゃんと覚えられてなかったことの方が、地味にショックだけどな。予想はしてたけども。
「ヴァレリ……ええ……名前までかっこいいなんて。ヴァル、すごい。ズルい」
何もすごくない。ズルくない。そしてお前、まだちゃんと覚えてねぇだろ。
「ねぇ、ヴァル。もっかい、やり直してよ」
「はぁ?何をやり直すんだ」
「何って、自己紹介に決まってるでしょ」
おいおい。なんで、今更そんなことをやり直す必要があるんだ。
つーか、この状況でやることじゃねーだろ。
「ねえねえ。お願いだよぉ」
「はぁ……わかったよ。俺は、ヴァレリウスだ。これでいいか?」
俺が名を言えば、ルルドの瞳が……漆黒の奥にある金色の輝き、俺を射抜いた。俺はただ息をのむ。
「ヴァレリウス」
そして、ルルドは確かめるように、まるで大切なもののように俺の名を呼んだ。
ああ、俺が言ったことは、ちゃんと聞き取って覚えるのか、なんていい気持に浸っていると。
その瞬間。ふわりと竜気が凪いで、俺の全身を通り抜けていった。
──そして、俺は変わった。
それは静かで、大きな変化だった。まるで、体が全て入れ替わるような。魂が洗われるような。存在そのものが変化する、そんな不思議な感覚だった。
ああ、これは。
『人の命を預かり、我らの竜気を行使することを許す。それを隷属という。隷属した人族は決して竜に逆らえないし、我らが竜気を断てばその人族は死ぬ』
『具体的には、何をすれば隷属が成立するんだ?』
『人が名と血を捧ぐことで、契約が成される』
かつての、青銀竜の長との会話を思い出す。
どうやら、俺はこのまぬけな腹ぺこ竜に隷属したらしいことを、人が竜騎士と呼ぶ、竜気を操る伝説的な存在になってしまったらしいことを、感覚で悟る。
名と血を捧げるって……。
あのクラーケンの一件でユーリとやり合ったあと、瀕死の状態でルルドとあの小屋へこもった時。ルルドが初めて人型になった時。
あのとき、確かに傷口を舐められた。
まさか、あれで血を捧げたことになるっていうのか。
…………他に思い当たることは無い。
そして、何らかの意思をもってルルドが俺の名を認識した。
それで、契約が成立した。そうとしか考えられない。
はぁ……ちょっと待て。なんてことだ。俺は意図もせず、ルルドの竜騎士になってしまったのかよ。
「あれ……?今、なんか……ヴァル、ちょっと変わった……ね?」
自分の中で渦巻いて、行き場をなくしていた黒い竜気がありありと感じられる。
これまで、ただ持て余していた形ないものを感じ、そして操作できるという感覚。
新たな知覚と、新たな手が増えた。それを事実として体感できる。
「どうやら、そうらしいな」
何とぼけてんだよ。お前が、俺を変えたんだろうが。
黄金竜の長、グノは言っていた。
──『今、ルルドが成長する。この人の子にとっては、きっと意味のある事』
と。
それは、これを指したのか……?
41
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています
水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。
「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」
王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。
そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。
絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。
「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」
冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。
連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。
俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。
彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。
これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】
公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。
「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」
世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!!
【謎多き従者×憎めない悪役】
4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。
原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる