【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅲ.大好きな卵編

8.俺は、前向きに決意する①

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 必然として、大神殿の金品の流れに関する大規模な監査が行われ、人身売買に関与した可能性のある者は個々に身辺調査がなされた。

 当然デュランと四六時中一緒にいた、ユーリたちも対象となったが、むしろそれは口実だ。

「ヴァレリウスっ!どういうことだよ、あの報告書と、予算の申請書は!
 俺がいつ、あんなに高額な旅費を認めたっていうんだ!」
「お前ら、自分できっちりサインしてんだろ」

 認めてない、は話にならねぇよ。

 ユーリが竜騎士になる旅に出ると言い出して以来、準備から報告までの、特にこまごまとした申請に関して、全部俺が処理していた。

 どんなに完璧に準備をしても、文句を言われんだから。殊、金銭に関しては手を抜くはずがないだろうが。誰が、何に、どんだけ使ったか、逐一報告してたわ。

 で、必ず連名だ。勝手にしたの何のとあとで難癖つけられたら堪らないからな。承認欄には必ず俺以外の誰かのサインがある。
 まぁ、お前らは見もせずにサインしてたんだろうけど。

 たった1~2週間の一回の旅費が、一般市民の1年分の収入に匹敵すれば、そりゃあ指摘される。
 これまで放置されてたのは、トップがアレでアレだったからだよ。

 野宿は嫌だ。こんなもの食べられるか、安い馬車は乗り心地が悪い。足が痛い。不味い飯は食いたくねぇ。などなどなど……。
 何かと言外に突き付けて、与えられるモノを嬉々として享受しておいて、知らないとは言わせねぇぞ。

 あ、ちなみに普段のユーリの食費や服飾費も、一つ一つ事細かに計上しておいたからな。

 来年の予算立てんのに、1年でどんだけ使ったか報告しておくのは重要だろ?

「こんな世界にきて、俺は……頑張ってきたのに……っ」
「そうだな」

 頑張り過ぎたんだよ。好き勝手に、自分にいいように。

 この大神殿だって、地方の神殿や神官からの上納金無しじゃ、やっていけねぇんだよ。
 そして、地方の神殿ほど市民や日常の生活との関係が密なんだよ。

 田舎では神殿が土地の中心で、政やその地方の行事や教育を取り仕切ってるなんてことも普通だ。
 みんな、日々の食事や健康に感謝して、慎ましく竜に祈りを捧げる。

 大神殿より、ずっと健全な神殿の在り方が地方にはある。

 ユーリが蔑むような目で見た子供が地方神官の子供だったとか、熱心な信者を雑に追い返した、なんて知らなかったんだろうけど。

 ユーリがボロい、汚い、粗末だとこき下ろした宿屋の主人だって、実は神官で要職についてた。
 神官が専任じゃないことだって、地方では普通だ。

 まあ、お前らが歩くたびに勃発してた揉め事を知らなかったのは、当たり前だ。
 俺が一人で交渉して、一つ一つ謝ってたんだからな。

 黙ってた理由は簡単だ。
 いちいち伝えんのも面倒くせぇし、伝えたところで意味がねぇのがわかってたからだ。

 でもな、世の中、知らなかったで済むことと、済まないことがあるんだよ。

 さらにユーリが提示した、竜石を見つけた者に、直接褒賞を与えるという仕組み。
 あれは、弱者をさらなる弱者にするにとどまらなかった。

 地方の神殿の財源と権威を失墜させ、守られてきた規律を崩壊させた。

 ならず者や、他の権力者がこぞって竜石を取り扱うことを、大神殿が許容するのみならず、報酬まで与えてしまったからだ。

 この世の危機とは乖離した平和な日常。 
 ユーリが現れて数か月の功績のみで、それ以降何の成果もあげていない客観的な事実。 
 困窮する地方の神殿と、さらに虐げられることになった押さえつけられる者たち。
 本人の立ち居振る舞いや、態度からにじみ出る傲慢さ。

 すべては身から出た錆だ。

「俺が、何をしたって言うんだ!」
「さあ。何をしたんだろうな……?」
「っ!!!」
「自分が一番、わかってんだろ」

 何もしてないんじゃねえの?ろくでもねぇこと以外。

 ユーリは根っから、自分は選ばれている、人より優れている、なんて自意識が染み付いてる。

 だから、今の状況。お前には、何ものより耐え難いだろう?

 お前か取るに足らないと踏みつけにしてきた存在に、頭から抑えつけられて、もはや身動きも取れずに。
 無様にもがく苦しみを味わってんだろうな。 
  
 屈辱に怒り狂ってるお前の顔、中々見物だったぞ。

 お前が何かが変わるわけじゃなくとも、俺の気が晴れることがなくとも。 
 お前が陥れてきた奴らの気持ちを、少しでも思い知ればいい。


 俺も形式ばかりの簡単な身辺調査を受けたものの、あっさりと解放された。

「誰が本当に、自分を救ってくれるのか。日々、必死に生きる者ほど、聡いものですよ」

 地方から訪れた神殿の神官長の一人が、明らかに年下の俺に礼をとり、そう言った。

 あちこちで駆けずり回って、家から農具の修理、農作業、さらに採掘から神殿の行事の手伝いに至るまで、さまざまな仕事を手伝っていたからか、はたまた地方で食いっぱぐれている孤児を院長に押し付けていたからか。

 地方の住民や神殿での俺への評価は、意外と悪くなかったらしい。
 俺の実績は、地方の神官長をはじめとする高位神官からは非常に好意的に受け止められていた。

 嬉しくなかったわけじゃないが、それだけだった。

 俺への評価を他人事みたいに考えてたら、白い竜がぷんぷんと頬を膨らましながら、「そんなの当たり前でしょ!」とか、「ヴァルが受け取るべき当然の評価だよ」とか言うのを容易に想像できて。

 俺はそれだけで満足だったし、いまさら他の誰かに認められたいなんて、これっぽっちも思わなかった。

 俺にはもっと望む未来が、明確に見えていたから。
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