【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅲ.大好きな卵編

44.俺は、結局ルルドより弱い①

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「ひっ!化け物……っ!!」

 突然聞こえた悲鳴に、深い眠りに落ちていたらしい俺の意識がわずかに浮上する。

 化け物……だと?
 ………んな気配、何もしねぇよ。何かの勘違いだろ。
 ったく、朝っぱらからうっせぇな。

 俺はこれまで望んでもねぇ豊かな経験の結果、周囲の竜気の変化には人一倍敏感なんだよ。化け物なんかいて、俺が気づかないはずねぇ。



 昨日無事に巡礼の目的地である竜の祠と石碑にたどり着いた俺たちは、数日、石碑を見守ることになり近くに野営地を設営した。

 俺は正直、昨日どこにどうやってテントを設営したか、夕食をどう作ったかも、いまいち覚えてねぇ。

 200年ぶりの巡礼で、伝承通りに祠と石碑が実在したという歴史的な出来事と、この200年信じられてきた歴史が覆る衝撃的な事実の発覚に一同がぐったりと疲弊する中。

 ルルドとユーリだけは場違いに、表情が明るかった。

 何やら夕食を食べながら、ルルドが孤児院の蜜柑の木のことや、元気になった院長のこと、ヒクイドリをどこで飼うかなんてことを話してたような気がするが、俺は生返事で、まともに取り合わなかった。

 とてもじゃねぇが、のんきに楽しく和やかに雑談なんてできなかった。

 この世の終わりみたいな面で、食事もとれねぇカインとメイナードを前に、ユーリはあちらの世界の話をしているようだった。

 これ見よがしに、ルルドがやった青い果実を美味そうに頬張りながら、ここ最近、めっきり聞かなかった元の世界の話をするユーリが、ルルドを何かしら意識して話しているのは明らかで。

 ぐらぐらと湧き上がってくる苛立ちが、何に対するものなのか、怒りに湧いた頭では理解できなかった。

 ああ、もう。今は、何も考えたくねぇ。

 疲労がピークに達した俺は「僕が見張ってるから大丈夫だよー。この祠には獣は近づけないみたいだし」なんて朗らかに言うルルドの言葉を半分無視して、俺のテントに引っ込んだ。


 早朝まだ薄暗い時分。
 誰かの悲鳴が近くで聞こえ、強制的に覚醒を余儀なくされた。

 浅い睡眠と、不快な覚醒を繰り返して、ようやく明け方いい感じに眠ってたところだったのに。

 こっちは昨日の石碑での一件と……いや、昨日だけじゃねぇ。ルルドのこれまでの言動に、いい加減鬱憤が溜まって、寝不足なんだよ。

 どうせしばらくここに留まんなら、急いで朝起きる必要もねぇだろうが。
 一体誰が、何だって、こんな朝っぱらから騒いでやがんだよ。

 はぁ……しかし、俺こんな毛皮、持ってきてたか?こんなふわふわで、手触りがいい、真っ白で温かな、まるで──

『ふわぁ……え?え?化け物??どこどこ??』

 ガウガウと副音声が俺のテントにこだました。

 ん?ガウガウ………だと?

 ふわりと自分を包む極上の毛皮。……いや、毛皮っつーか、動いてるし、どくどく心臓の音が聞こえるし……。

 これ、生だな。

「──っ!!!」

 一気に覚醒して目を開ければ、真っ白でふかふかとした豊かな毛並みと、すぴすぴなるピンク色の鼻が見えた。

 そこには、俺に寄り添うように巨大な犬……いや、角がしっかりと耳の上に見えるから、純粋に竜体のルルド(XLサイズ)がいた。

 は……でか……でけぇな、おい。

 成長期にしたって、デカくなりすぎだろ。
 あ、こいつデカくなれるんだったか。大船……とは言わないが、小型の馬車程度の大きさはあるな、これ。

 寝ぼけた頭が、徐々に覚醒してきて、状況を段々と理解して、俺は唖然とする。

 じっとルルドを凝視したまま、口をはくはくと開閉する俺に気づいたルルドは、

『ああ、もう。騒ぐから、ヴァルが起きちゃったじゃない』

 なんて言って、俺のテントを訪れたおそらく「化け物!」と叫んだ本人だろう年配の神官に、ぷんぷんと怒っている。
 ぐるるるる~っ……と威嚇するうなり声が同時に聞こえて、神官は悲鳴をあげながら一目散に逃げて行った。

 まぁ、そうなるだろうな。

『大丈夫だよー。どんな化け物か知らないけど、僕がサクッとやっつけてあげるから!』

 鼻息をすぴすぴとならしてルルドは意気込み、『だからヴァルは、ゆっくり寝てていいよー』なんて、くぅーんと鳴いた。

 久々に見たけど……この大きさは初めてのサイズだが……やっぱり可愛いもんは、可愛いんだな。

 なんて。

 ………………………。

 いやいやいや!もう勘弁しろよ!!
 化け物っつーのは、どう考えてもお前のことだろうが!!この、駄竜!!!

「馬鹿が!今すぐ、ここを離れるんだ!」
『ええー?僕が化け物やっつけるから、逃げなくても大丈夫だよ?」
「いいから!このまま俺を乗せて、さっさとここから遠ざかれ!!」
『わぁ!なになに?むふふー、もうヴァルったら。やっぱり、竜騎士したかったんじゃない!
 いいよ、乗って乗って!僕、ビュンビュン飛ばしちゃうから!!』

 竜騎士したいってなんだ。竜騎士したいって。

『ヴァルは空飛んだことある?』
「……ねぇよ」

 空を飛ぶなんて経験あったら、人族は自由落下で普通に死んでる。

『わぁ。じゃあ、僕がヴァルの初体験、もらっちゃうね!』

 何うきうきしてんだ。馬鹿。お前、状況わかってんのか。

『落ちないように、しっかり掴まっててね!ヴァルだったら、特別に角に掴まってくれてもいいよー』

 ルルドは『竜は下に落ちて死んだりしないから、安心だよねー。人は死んじゃうもんねー』とか言ってる。

 以前より伸びた角は、角度といい、縞状の筋といい、滑り止め付きのちょうどいい持ち手のようだった。このまま伸びれば、渦巻き状の……まるで羊の角のようになりそうだ。

 角を掴むことの何が特別か知らねぇけど。
 どっちかって言うと俺は、久々のこの柔らかな豊な毛並みを堪能したいんだよ。

 腕を首に回しぎゅうっと抱き着けば、『ふわぁぁぁっ、うなじにすりすりしないでっ!』とルルドが奇声をあげる。

 ここ、うなじなのかよ。デカくてわかんねぇよ。じゃあ、この辺りがこいつの弱い………いや、止めとこう。落とされたら、シャレにならねぇ。

 きっと……竜に乗った奴なんて、俺くらいだろうな。
 でも、自慢にもなんねぇよ。こんなん話したら非現実的過ぎて、頭おかしい奴だと思われんだろ。

 ………まぁでも。帰ったら院長にくらい、自慢してもいいかもしんねぇ。
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