【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら

文字の大きさ
50 / 90

48.嫌いな男(テオドール視点)

しおりを挟む
「テオドール・フォレスター……お前は、何がしたいんだ?」

 何の前触れもなく、突如出現した気配に、それでも僕は視線も変えず、手元の書類を書き進めた。

 正直、法律や国費がどうだとか、そういう書類は適当に知識の羅列でいいけれど、シリル兄さんに関わるとなれば、手抜くわけにはいかない。

 これは、今後シリル兄さんと僕のとの時間が作れるかどうか、重要になってくる手続きに必要な処置だ。

「なんだ?だんまりか?……ったく、可愛げも何もあったもんじゃないな。少しは兄さんを見習ったらどうだ?」

 シリル兄さんの名を出され、ぴくり、と反応した僕に、ダニエルは予想通りと言わんばかりに満足そうに口角をあげる。

 シリル兄さんが可愛げに満ちていることには、異論は無い。
 ただ、その感覚をこの男とは共有したくない。絶対に。

 僕の政務室の扉に寄りかかり腕組みして立つ男を、僕は無言のままで睨みつけた。

 男は「おお、こわっ」などと思ってもいない軽口をたたく。

 ダニエル・ヴァン。
 風の精霊力マナの扱いに長けており、さらに商会や裏社会とのつながりを加味すれば、決して油断できない男だ。
 このイグレシアス王国の裏側を最も熟知し、そして操っている人物と言っても過言ではない。

 約束も無く、いきなり押しかけてくるだけで、礼儀もわきまえない相手に、対応する義理は無い。
 そうでなくとも、僕はこの男が嫌いだ。

「はっ……相変わらず、シリルのもんで溢れてるな、この部屋は」

 シリル兄さんは、周囲の世話を焼くのが大好きで、いつも甲斐甲斐しい。いまだに僕の部屋に色々と持っては設置していく。

「逆に、シリルの部屋はお前の気配が濃くて、落ち着かねぇしよ」

 あの人は、自分の身の回りには驚くほど無頓着なのだ。

「本当に、仲の良い兄弟だよなぁ?」

 この、安い挑発は一体何のつもりなんだ。

「はぁ……無駄話は、それくらいにしてくれる?」

 一体、何の茶番なのか。

「貴方がそろそろ来る頃だと思っていた。
 ずっと、僕のこと……いや、僕たちのことを読んでいたでしょう」

 風の精霊力マナは、その特性から情報を掴むことに長けている。僕やシリル兄さんは特殊な気配を持っているから、追跡しやすいはずだ。

 ここしばらくの間、ずっとこの男の気配がまとわりついて、不快極まりなかった。

「そうか。なら、話は早いな。思ったより歓迎されてるみたいで嬉しいねぇ」
「貴方こそ、何がしたいの?」
神災ストロフを起こしたい、と言ったら?」

 本気でそんなことを考えているのなら、この男にはこの世界を滅ぼしたい何かがあるということだ。

「人の手で起こせるはずがない」
「お前が言うのか?」

 面白そうにくつくつと笑うこの男が、何をどこまで知って、こんなことを言っているのかわからない。

「協力してくれるだろう?」
「なぜ僕が……」
「お前ほど、適任は無いだろうが」

 でも、この男の言っていることが、真実に極めて近いことは、僕が最も理解している。

「盗まれた精霊力の蓄積器……あれが、ある場所がメーティスト神殿だとしても?」

 メーティスト神殿。その単語に、俺は息を飲んだ。

 そして、ほぼ同時に強い憤怒が込み上げてきて、自身の精霊力マナがざわざわと騒ぎ出すのを感じる。

 なぜ、この男がその神殿の存在を知っているんだ?

 あの神殿の存在は、僕と、シリル兄さんと……そして、死んだフォレスター領主だったあの男しか知らないはずだ。

「おうおう。なかなか可愛い顔するじゃねぇか」
「殺すよ」

 悪辣な男だとは思っていたけれど、これほどとは。今後の交流の仕方を考えなくてはならない。

「精霊力の蓄積器が盗まれたことを、愛しのシリルにも言っちまったからなぁ」

 重ねて告げられた事実に殺意が湧いて、このニヤついた男の首を想像の中で一度薙ぎ払う。

 今は、この男を処理するよりも優先すべきことができてしまった。

「優しい、優しい、お前の兄さんは、どうするだろうな?」

 あの場所は、呪われた場所だ。
 二度と、シリル兄さんをあの場所に行かせてはいけない。

「準備がいるだろうからな。夕刻まで待ってやるよ」

 その男は、ひらひらと手を振りながら「俺も優しいからな」と再び音もなく消えた。



 だから、言ったじゃないか。ダニエル・ヴァンには気を付けて欲しいって。
 僕にとっては、シリル兄さんの何かが損なわれること以外は、損失足り得ないのだから。

 メーティスト神殿。
 それはこの世界の礎を創造した二神のうち、理と叡智の弟神メーティストを祀る、空想の中のみに語り継がれた存在だ。

 そして、10年前のあの日、シリル兄さんに消えない傷を負わせた場所でもある。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった

ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。 そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。 旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。 アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

処理中です...