1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.2・今すぐにでも。

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 雨が降り始めたから、急いで屋根を探した。
 僕の体は小さくて、あっという間にずぶぬれになる。
 早く行かなくちゃいけないんだけど、なかなか早くは走れない。早く大きくなりたいな。大人になったら何でも自由自在にできるようになるんでしょう?
 雨にぬれた体をぶるぶるっと振って、一瞬の通り雨が過ぎ去った青空の下へまた走り出した。
 早く、早く、行かなくちゃ。
 信号待ちをしていたら、散歩中の犬が話しかけてきた。
「どこへ行くの?」
「…さあ」
「変なの。自分の行き先も知らないの?」
「…でも、早く行かなくちゃいけないんだよ」
「変なの。変なの」
 犬は飼い主に連れられてどこかへ歩いていった。
 気を取り直して走り出す。地面には雨が溜まって、走る度に僕の服も雨を吸って重くなった。ますます走るのが遅くなって、苦しくなる。
 アーケードの中に入ると、人がたくさんいて走れなくなった。路地裏から出てきた猫が話しかけてくる。
「あんた、そんなに急いでどこへ行くんだい?」
「わからないよ。でも、行かなくちゃいけないんだ」
「おかしな子だねぇ」
 猫は面白くてたまらないという風に肩を揺すりながら、また路地裏へ消えていった。
 今日はたくさん話しかけられる日だな。急いでいるときに限ってどうしてかな。
 長いアーケードを通り抜けると、神社が見えた。あ、ここが僕の目的地だっけ、と思ったけどやっぱり違うみたいだ。
 神社の前にいた鳩が、話しかけてきた。
「きみ、どこへ行くんだい? そんなに急いでどうしたの?」
 そこで僕はようやく、どこへ行かなくちゃいけなかったか思い出した。
「僕は、神様のところへ行かなくちゃいけないんだよ。きみのところの神様とは違うかもしれないけど」
「違わないさ」
 鳩はくるくると喉を鳴らして笑ったみたいだった。
「きみがどこへ行くかはわかったけど」
 鳩は犬や猫みたいに、そのままいなくなったりはしなかった。
 地面の上から僕を見上げて、面白そうに、或いは哀れんでいるみたいに言葉を継いだ。
「じゃあ、どうしてわざわざ走っているんだい?」
「え?」
 鳩は呆れたように、羽根を手のように動かして僕の背中を差す。
「きみにも、翼があるじゃないか」
 今すぐにでも、空を飛べる筈だろう?



                 Fin
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