1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.9・幸福の鍵

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 ざわつく校内を、私は所在無く歩いていた。
 浮き足立った空気とあちこちから響く歓声。壁一面には非日常の装飾が飾られ、奇抜な衣装の生徒たちが廊下を闊歩する。
 高校生になって初めての文化祭二日目。秋になっても私はまだ友達ができないでいた。
 中学の時も周囲に溶け込むことができなかったので、進学先は志望者の少ない郊外の私立高校を選んだ。いわゆる高校デビューというのを狙っていたつもりだった。
 でも、口数の少なさで馴染むのに時間がかかる上、クラスにリーダー的存在がいて、その子のペースに合わせられなかったためにあっという間に一人孤立してしまった。
 いじめと言うほどではないかもしれないけど、明らかに意図的に無視されている。そこに見えない壁があるように。
 うちの高校では文化祭が二日間に渡って行われ、一日目は演劇部など文化部の発表会がメイン。模擬店と同日にすると全校生徒が観覧できないという配慮のようで、クラスごとに講堂で座っていればいいので助かったんだけど。
 二日目は各クラスの出し物がメインで、私のクラスはありきたりなカフェだった。私は午前の二時間だけ教室の前で案内をする役目だけを振られ、交代の時間が来ると追い払われるように開放された。
 自由時間を満喫している生徒たちは、訪れた他校の友達や家族と連れ立っていたり恋人同士で回っていたり様々だけど、高校生で一人でいる子なんて殆どいない。
 あまりうろうろして先生に咎められても困るな、とどこか避難場所を探していた時、
「塩田さん」
 と声をかけられ、振り返るとクラスメイトの男子生徒。
「…佐藤くん」
 何となくコンビみたいで呼ぶのを躊躇う名前だけど。彼は目立ち過ぎず地味すぎず、隠れた人気者タイプで普段はまともに話したこともない。
「あのさ、うちの部活の出し物やってる教室、来てくれない? これあげるから!」
 と慌てたように叫んで私の手に何かを握らせると、降りかけた階段をまた駆け上がっていった。
 ゆっくり手のひらを開くと、そこにあったのは―――鍵。持ち手の部分にテープが巻かれ、3-1と書いてある。三年一組の教室ということだろうか。
 きっとこれは入場券の代わりなんだろう。何のことはない、勧誘だったんだな、と少しだけ期待してときめいてしまった心を鎮めながら、行き場ができたことにほっとして階段を上がる。そう言えば、佐藤くんの部活って何だっけ。
 辿り着いた教室の前には薄汚れたような布が張り巡らされ、お化け屋敷かと身構えたけど、よくよく見ると『宝探し――文芸部』と書いてあった。文芸部なんて意外、と思いつつ中に入ると、迷路になっているようだった。
 迷路とは言え、実際には教室一つ分の広さしかないのでゴールはすぐだった。壁の棚にゲームに出るような宝箱がたくさん置いてある。一つ一つもらった鍵を嵌めてみる。
 十個目でようやく開いた箱の中には封筒が一つ。中には一枚のカード。
『友達になってください』
 思わず振り返ると、佐藤くんと数人のクラスメイトが、照れくさそうに笑っていた。



               Fin
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