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Vol.10・もう少し
しおりを挟む熱気冷めやらぬ興奮のまま、あたしたちは街に繰り出していた。学園祭は大成功だったけれど、相次ぐ飲酒トラブルで学内での飲酒はご法度になったから、外に飲みに出る。
真面目な部長の鶴の一声で一、二年生の未成年はばっさり切られ、名目だけは大人だけが浮かれたまま街を歩く。
大人って言ったって。
たかが二十歳をいくつか過ぎたくらいで、そう簡単に大人になんてなれないよ。
好きな人に、思いを伝えることさえ、できないのに。
誰かの行きつけの居酒屋で殆どの部員は出来上がってしまって、三々五々散っていく。まっすぐ帰る人、恋人と待ち合わせてる人、二次会に向かう人、などなど。
あたしは、ふわふわした頭のまま決めかねていた。彼が、まだそこにいたから。
「なー、これからどうするー?」
彼とあたしを含む数人が、まだ帰りたくなくて行き先を選べないでいた。
もう少し。
もう少しだけ。
一緒に、いたいなんて。
すぐそこにある腕に、酔った振りで(いや、実際酔ってるし)つかまってみようか、甘えてみようか、と無意識に手が出た。
その、瞬間。
彼の胸ポケットで派手な音量を上げ始めた携帯電話が、一瞬の幻影を破る。はっと、手を引っ込めて、一気に酔いが醒めてしまったような錯覚さえ覚えた。
「…ごめん、俺帰るわ。カノジョが待ってるから!」
じゃ、と手を挙げて颯爽と走り去っていった後姿に、じわり、と熱い何かがこみ上げた。
「あたしも帰る」
ちょっと飲みすぎた、と笑って手を振る。大丈夫か、と心配の声が聞こえたけれど、
「まだ電車あるから大丈夫だよ」
と言って歩き出した。離れたい。ここから、早く離れて―――泣きたい。
彼に彼女がいるのは何となく知ってはいたけれど、彼の口から聞いたのは初めてだった。だから思いがけず動揺してしまった。でも、みんな酔ってるから、誰も気にしないだろう。
「おい、駅通り過ぎてんぞ?」
後ろから走ってきた声に呼び止められて立ち止まる。それが誰か、わかるけど振り返りたくない。駅を通り過ぎたのはわざとだもの。こんな酷い顔で電車になんて乗れないよ。
「歩いて帰る」
子供みたいに駄々をこねたような言葉が出て、声の主も呆れたように黙った。ふいに、ぐいっと腕をつかまれて細い路地に入る。
「…部長」
「一人で泣いてんなよ」
怒ったようにぶっきらぼうに言って、人影の見えない位置で抱きしめられた。ただ、慰めるように、そっと。
あたしは、申し訳ない気持ちになりながらも、大きな腕に包まれて力が抜けた。
もう少し、と思いながら、泣いた。
Fin
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