1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.13・聖夜には君を探す

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 子供の頃は家に煙突がないのが酷く不満だった。現代日本で煙突のある家を探す方が難しい、と知るようになるまでは。
 
 煙突がないからうちにはサンタクロースが来ないのだと真剣に思っていて。
 
 大人の事情を知る頃にはすっかりやさぐれていた。
 
 いつ頃からだろう、十一月の下旬には既に街中がきらきらと瞬き始めて、定番ソングがあちこちで流れるようになったのは。
 
 昔はもっと寒かった気がするので違和感がなかっただけなのかもしれないが、それを考えれば異常気象と呼ばれる現代、夏から秋をすっ飛ばして、まだ芯から冷える感覚のない初冬には早すぎる気がする。
 
 LEDだかの最新の光は硬質に眩しく光って、寒々しさを助長するような気もする。
 
(まぁ、僻みだけどね)
 
 クリスマスなんて関係ない。信仰に関わらず、無関心無関係でいることはたやすい。
 
 たやすい、のに。
 
 あまりにも周囲で騒がれると何もしていなくても傷が疼く。
 
「あ、瀬戸さん! 合コン! 合コン行きませんか!?」
 
 後輩が勢いよく走ってくる。そんなに急がなくても逃げやしないよ、と苦笑するがよほど慌てていたらしい。
 
「クリスマス前だから張り切ってたのに、一人ドタキャンになっちゃって…店予約してあるんで減らない方がいいんですけど、無理ですか?」
 
 キャンセル料がいるのか、或いは人数分の注文を減らせないのかどっちかだろう。
 
「予定はないから、いいけど」
 
 そう答えたのは、自分でも不思議だった。
 
 でも、運命というのはそういうものだ。
 
『サンタクロースなんているわけないじゃん、瀬戸、ばかじゃないの?』
 
 小学校の高学年だったか、隣に住んでた女子が言った。
 
 クリスマスイブの夜、ベランダでずっと待っていたら、突然隣から声が聞こえた。まるで怒鳴っているみたいに。
 
『…じゃあ、何で葉山もベランダに出てんの?』
 
 何気なく呟いたが、葉山はそれきり口を噤んだ。泣いていたのかもしれない。
 
 狭い集合住宅。貧乏で生活に疲れた両親は、子供が待ち望むイベントなどには目もくれない。金がなくても愛情とアイデアで何とかしてくれるには、センスもなければ余裕もない。心の、余裕だ。
 
 葉山の家も似たようなものだったんだろう、と今ならわかる。お互い何も言わないまま、静かに星を見ていた。でもそれはきっと、違う何かを。
 
「じゃあ自己紹介しまーす」
 
 幹事役の子が話し始めて、初めてまともに参加者の顔を見た。目の前にいた女の子がまっすぐ見つめている。記憶の隅で――――引っかかる、面影。
 
「葉山里奈です。よろしくお願いします」
 
 みんなに頭を下げながら、こっちを向いて小さく、久し振り、と呟いた。
 
 彼女をずっと、探していたことに、やっと気づいた。
 
 
             Fin
 





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