22 / 71
Vol.22・旅路
しおりを挟む僕らは、どこへゆくのだろう。
この、長く果てしない道を。
新しい車の性能は上々で、随分快適に走れるようになった。
どこかの廃屋の隅に転がってたやつだけど、前の車よりは断然いい。
何より、この旧式のゴムのタイヤがついた自動車を、簡単に直したり整備できる友達がいるって最高に頼もしい。僕は今回ほど相棒を尊敬したことないや。なんて言うと怒られるかな。
「ヘイ、シリウス! どこへ行くんだい?」
街道沿いに立っているアンドロイドが、通りかかる僕らに声をかける。
「ちょっとそこまでさ」
軽く答えて、あっというまに走り去った。どうせ、はなから返事は期待されてないし、何が通っても同じことを言うんだ。ごちゃごちゃした看板やポスターの名残が微かに見て取れるから、きっと店番用のアンドロイドだったんだろう。ちなみに、僕の名前はシリウスではない。
「やっと移動する気になったんだ」
助手席から、眠そうな声で相棒が呟く。景色が変わり始めたことに気づいたようだ。
「移動する気がなかったわけじゃないよ。車の調子が悪かったからさ。さあ、どこへ行く?」
「別に。どこでもいいよ」
相変わらず愛想のかけらもないけど、そこがいいんだ、なんて僕もだいぶ惚れた弱みで相棒には弱い。
「とりあえず、この車の電池が切れるまで走ろうかな」
「充電するところが見つからなかったらどうするの?」
「何とかして」
「………」
不機嫌そうに黙り込んだ相棒には悪いけど、その姿も可愛くて笑ってしまった。ほぼ最新式の自己内エネルギー循環装置を持ってる僕と違って、旧式のソーラー発電システムが搭載された相棒は、自分の体で太陽光を蓄熱して他の媒体にも転送することができる。
そういうところもまた魅力でもある。何でも新しければいいわけじゃないっていう、典型だ。
あ、こんなことばかり言ってると、相棒のスペックだけを気に入ってると思われても困るんだけど、その表情や感情の動き方、態度に至るまで、人間らしくて、初めて逢った時から一瞬で大好きになった。一目惚れだったんだ。
長い沈黙のあと、相棒はふーっと長い溜息をついた。ほら、こんな仕草まで人間っぽい。
「まあ、いいよ」
相棒は諦めたように笑って肩を竦めた。
「どうせ、時間はたっぷりあるんだし」
人間がいなくなったこの世界で、完全に老朽化して動けなくなるまで僕らは目的もなく旅に出る。
AIが搭載されていないシンプルなロボットやアンドロイドと違って、体内に蓄積された記録を『記憶』と認識できる僕が、かつて『家族』だった初恋の人を相棒に少しだけ重ねて見ているのは、たった一つだけの僕の秘密だ。
もっとも、僕より年式は古いけれど、優秀な相棒には僕のAIからそんな情報は知ろうとしなくても感じ取っているのかもしれないけれど。
眠そうにしていた相棒が、ゆっくりと体を起こした。僕に向けた顔が、久しぶりに見るわくわくした笑顔になっている。何だ、相棒も動くのが嬉しいんじゃないか。
「じゃあ、行こうか」
さあ、どこへ行こう。この、長く果てしない道を。
Fin
1
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる