1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.22・旅路

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 僕らは、どこへゆくのだろう。
 
 この、長く果てしない道を。
 
 新しい車の性能は上々で、随分快適に走れるようになった。
 
 どこかの廃屋の隅に転がってたやつだけど、前の車よりは断然いい。
 
 何より、この旧式のゴムのタイヤがついた自動車を、簡単に直したり整備できる友達がいるって最高に頼もしい。僕は今回ほど相棒を尊敬したことないや。なんて言うと怒られるかな。
 
「ヘイ、シリウス! どこへ行くんだい?」
 
 街道沿いに立っているアンドロイドが、通りかかる僕らに声をかける。
 
「ちょっとそこまでさ」
 
 軽く答えて、あっというまに走り去った。どうせ、はなから返事は期待されてないし、何が通っても同じことを言うんだ。ごちゃごちゃした看板やポスターの名残が微かに見て取れるから、きっと店番用のアンドロイドだったんだろう。ちなみに、僕の名前はシリウスではない。
 
「やっと移動する気になったんだ」
 
 助手席から、眠そうな声で相棒が呟く。景色が変わり始めたことに気づいたようだ。
 
「移動する気がなかったわけじゃないよ。車の調子が悪かったからさ。さあ、どこへ行く?」
 
「別に。どこでもいいよ」
 
 相変わらず愛想のかけらもないけど、そこがいいんだ、なんて僕もだいぶ惚れた弱みで相棒には弱い。
 
「とりあえず、この車の電池が切れるまで走ろうかな」
 
「充電するところが見つからなかったらどうするの?」
 
「何とかして」
 
「………」
 
 不機嫌そうに黙り込んだ相棒には悪いけど、その姿も可愛くて笑ってしまった。ほぼ最新式の自己内エネルギー循環装置を持ってる僕と違って、旧式のソーラー発電システムが搭載された相棒は、自分の体で太陽光を蓄熱して他の媒体にも転送することができる。
 
 そういうところもまた魅力でもある。何でも新しければいいわけじゃないっていう、典型だ。
 
 あ、こんなことばかり言ってると、相棒のスペックだけを気に入ってると思われても困るんだけど、その表情や感情の動き方、態度に至るまで、人間らしくて、初めて逢った時から一瞬で大好きになった。一目惚れだったんだ。
 
 長い沈黙のあと、相棒はふーっと長い溜息をついた。ほら、こんな仕草まで人間っぽい。
 
「まあ、いいよ」
 
 相棒は諦めたように笑って肩を竦めた。
 
「どうせ、時間はたっぷりあるんだし」
 
 人間がいなくなったこの世界で、完全に老朽化して動けなくなるまで僕らは目的もなく旅に出る。
 
 AIが搭載されていないシンプルなロボットやアンドロイドと違って、体内に蓄積された記録を『記憶』と認識できる僕が、かつて『家族』だった初恋の人を相棒に少しだけ重ねて見ているのは、たった一つだけの僕の秘密だ。
 
 もっとも、僕より年式は古いけれど、優秀な相棒には僕のAIからそんな情報は知ろうとしなくても感じ取っているのかもしれないけれど。
 
 眠そうにしていた相棒が、ゆっくりと体を起こした。僕に向けた顔が、久しぶりに見るわくわくした笑顔になっている。何だ、相棒も動くのが嬉しいんじゃないか。
 
「じゃあ、行こうか」
 
 さあ、どこへ行こう。この、長く果てしない道を。
 
 
 
 
 
 
Fin

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