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Vol.23・キャッチ・ザ・ハピネス
しおりを挟むまさかこんな日が来ようとは。
十二月の早朝、あたしは家を出て写真館へと向かう。
外は寒いけれど、どうやら今日は快晴の空模様だ。
約束してた美容師さんと待ち合わせて写真館へ入ると、快活そうなフォトグラファーの先生と助手さんが出迎えてくれた。そこには当然、彼もいる。
白無垢に袖を通すと、何だか妙な気分になった。
指の先まで白く塗られて、初めてできっと最後の(そうでないとね)花嫁さんになってゆく。
「一生、こんなものを着ようとは夢にも思わなかったよ」
苦笑いで呟くと、美容師さんも笑った。
今日、あたしは結婚式を挙げる。
既に籍は入れたのだけど、住宅事情でまだ一緒には住んでなくて、仕事も変わらず続けてて、半月あまり実家にいるから全然実感もなかったんだけど。
何だかじわじわとリアルになっていくのが不思議な感覚だった。
っていうか、ほんとは全然リアルじゃない。夢の中みたいな、遠くから見てるような、作り物のような景色が目の前で猛スピードで進んでいって流れていくみたいに。
二人とも結構な年齢で、なのに情けないくらいお金がなくて、結婚式を挙げるなんて無理だろうと思ってたんだけど。
お節介で慈悲深い周りの人たちがお膳立てしてくれて、あれよあれよという間に話が進んでしまった。
式場から写真まで手配してもらって、今こうしてあたしはここにいるわけだけど、内々のこじんまりした式の筈なのに何だか予想以上に仰々しくなって、戸惑ってもいる。
もともとのんびり屋のあたしだから、急展開に気持ちが追いつかなかった。
彼は彼で、マイペースで無口で無愛想(に見える)人だから尚更、二人して猛スピードの車に乗せられたように、怒涛の日々。
一年前までは、考えてもいなかった未来がここにある。
ずっと前から知ってた彼に、突然告白されたのは去年の暮れ。ただでさえ喋らない人だから、知ってはいてもあまり話したこともなくて接点もなかったから驚いたけど。
好きなタイプだったし、この大人しそうな人が、こうやってはっきり言えるんだ、ってことに感動して付き合い始めたのがお正月。
そして周りの協力に、気づいたことがある。
ずっと、心のどこかで、あたしは幸せになってはいけないような気がしていた。理由もわからないし根拠もないのに、何故かそう思う自分がいた。だから友達が、後輩がどんどん結婚していってさみしくなっても、どこか仕方がないことのように思っていた。
だけど本当は、幸せを受け取ろうとしてなかっただけなんだ、って気づいた。
幸せを受け取れる心境になったから、世界がひっくり返るみたいに天上から幸せが降り注いできたんだ。
本当はいつも降っている幸せの雨に、わざわざ傘をさしてたあたしだったってことに。
鏡の中に、いつもよりちょっとだけ清楚に美しくなったあたしがいる。
振り返って彼を見ると、照れたように、眩しそうに小さく微笑んでみせた。
Fin
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