1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.24・春の夜灯り 風の音

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 風が強いな。
 
 ようやく春の足音が聞こえ始めた頃、私は車で帰宅途中の景色の変化に気づく。
 
 例年より遅い桜の開花を待ちわびるように、川沿いの桜並木に赤い提灯が連なってかけられていた。
 
 距離にして数百メートルはあろうかという桜並木は、満開の頃はそれはそれは美しい景色を見せつけてくれるだろうけれど、あの「ザ・花見!」という感じの提灯は如何なものか、と眉を顰める。
 
 人の手が入っていない自然の状態こそが一番で、花見客へのサービス精神からくるものだとしても、あまりにも無粋にすぎやしないか、と。
 
 そう、思って、それから苦笑する。
 
 そういう、ひねくれた穿った見方ばかりしているから孤立するんだな、と理解したから。
 
 新年度より少し早めの移動があって違う支所に変わってから、どうにも居心地の悪い日々を送っている。
 
 同じ会社内だし、知っている人も何人もいるのに、どうしてだか一緒に仕事をするというのは難しい。一言一言に気を遣い、そしてきっと気を遣わせているようだ。
 
 大きな異動がなければ、人間関係はかなり出来上がっている。うちの会社は数年に一度、一人二人ずつしか変わらない。私も周りに気を遣いすぎて、ぐっと人の輪に入り込めずに、尻込みしてしまったのが逆効果だったよう。
 
 そんな感じで、ここのところずっと頭も気分も重い。
 
 仕事を辞めたいとかではないにしろ、気持ちよく働きたいのはきっと誰だって同じだろう。でも自分で作った自分の殻から、どう抜け出せばいいかわからなくなってしまった。
 
 
 翌日、残業で遅くなり、昨日と同じ道を走る頃には、日が暮れ始めていた。
 
 すると。
 
 昨日あんなに無粋だと思った花見の提灯が遠目にもよく見える。
 
 ほんのりと赤く揺らめく灯りの連なりは、思った以上に美しく幻想的な光景を醸し出していた。
 
 まだ開かない桜をそっと見守るように、やわらかく灯る。
 
 私も、勝手に私を見守ってもらっているような、そんな気持ちになった。
 
 ああ、そうだ。
 
 もっと素直に、わからないことは聞けばいい。苦手なことは頼ればいい。そして私も誰かの声を、ちゃんと聞けばいいんだ。
 
 川風が車の窓越しにも、ごうごうと音を立てて騒ぐ。
 
 強いけれど、決してもう冷たくはない、春の訪れを告げる風の音だ。
 
 明日会社に行ったら、笑顔で爽やかに声をかけよう。
 
 嫌われたり疎まれたりすることを恐れないで、自分に出来ることをしよう。
 
 少し潤んだ目とは裏腹に、私の胸には明るい希望が灯っていた。
 
 そして桜が咲いたら、みんなを誘ってお花見をしよう。
 
 そんなことを思いながら家路へと急いだ。
 
 胸の中に満開の桜が花開いていた。 
 
 
 
 
 
 
 
Fin

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