1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.37・夢の世界へようこそ

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『迷子のお知らせです。○○区からお越しの、○○ちゃん……』

 あたしの頭の上、とても高いとことから聞こえてくる迷子のほうそうに、あたしはあらまあはずかしい、とじぶんのことでもないのにきゅうっと目をつぶった。こんな大きなお城みたいなところで迷子になるなんてはずかしすぎる。あたしがいまお母ちゃんといっしょにいないのは、ぼうけんの旅に出たからだもの、どこかのこどもといっしょにしないでよね。
 
 あ、お母ちゃん、はまちがい。ママよ、ママ。あたしは今日ママと、電車やバスに何回も乗って、山と畑と田んぼしかない、山奥のべっそうからでぱーとに来たの。あたしはそこで毎日寝たり起きたりしているけれど、マンガの中で山の中にあるおうちはべっそうって書いてあったから、あたしのおうちがべっそう、っていうのを初めて知ったの。お父ちゃん、じゃなくてパパと、ママと、にぃに、じゃなくておにいちゃまと四人でゆうがなべっそうせいかつを送ってるってわけ。いいでしょ。
 
 今日はお母ちゃ、ママの妹に赤ちゃんができたから、お祝いを買いにでぱーとに来たんだけれど、お城みたいなたてものにも、ゆうえんちみたいなキラキラのお店の中にもかんどうして、ぼうけんすることにしたのよ。
 
 なぜかというと、べっそうから山をおりて一時間かけて行く学校のクラスメイトのユキちゃんが、べっそうがあるなら本当のおうちがないと変だよって、そしてそういう人の本当のおうちはきっとお城だと思うって言ったから、でぱーとについたとき、もしかしてここが本当のあたしのおうちなのかも、って思ったのよ、わかるかしら、このかんどう。
 
 そしてお城に住んでいるのはお姫さまだから、じつはあたしは本当はお姫さまだったのかも、って思って、ということはパパもママも本当は王さまとか女王さまなの? ふだんはかくしてるの? ママは今日はさとがえりなの? とか頭の中がぐるぐるになってしまって、しんじつをつきとめるのよ!
 
 でも…。さすがにお城だけあって広すぎるわ。同じところをぐるぐる回ってるような気持ちになる。おもちゃがいっぱいあるところも、可愛いお洋服がたくさんあるところも、とてもみりょくてきだけれど、あたしはだんだん疲れてきてしまった。えすかれーたーとかいう動く階段は楽だけど降りるのは怖くて階段を使ったし、えれべーたーとかいう箱みたいなのは、どこに連れて行かれるかわからなくて怖くて乗らなかったの。だからいつの間にか上に上がるえすかれーたーをどんどん登って行ったら、お空が見えた。
 
 べっそうで見るのとちがう、白くてちょっと灰色っぽくて、青いところがちょっとだけ見える空。あんまり、きれいじゃない。涙が出てきた。
 
「お姫さま、どうしたんだい?」
 
 そう声をかけられて、あたしがお姫さまって知ってる人がいるんだ! とびっくりしてふりかえったら、顔が白くていろんなもようがある、へんなかっこうの人が立っていた。テレビとかで見たことある、そう、ピエロとかいう人だ(ん? 人じゃないのかな?)
 
「お城をさがしにきたの…」
 
 半べそで答えるとピエロはにっこりと笑って手をさしだした。
 
「ようこそ、夢のお城へ」
 
 きっと王さまのところへ連れて行ってくれるにちがいない、とあたしは手をのばす。
 
『……迷子のお知らせです。○○市からお越しの、○○ちゃんのお母さん……』
 
 
 
 
 
 
Fin

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