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Vol.50・青い鳥
しおりを挟む大輪の、花が開く。
宵闇の宙の中央に大きな花弁をこれでもかと広げて、一瞬で儚く散ってゆく。
直後、遅れてどん、と大きな音が響くと、散りかけた花弁がちりちりと鳴きながら海に落ちていった。
夏の風物詩ともいえる花火は、誰が美しい花に例えたのだろう。そして一瞬で消えてしまうのに、その美しさと強さに、人々は何故惹かれるのだろう。
人でごった返した花火大会に来るつもりなど毛頭なかった。退勤時間と重なって、たまたま会場近くに住んでいるため巻き込まれるように通りかかったのだ。
なんて、言い訳にもならないな。
人の流れに逆らいづらいのは確かだが、住宅街からは少し距離があるのだから、まっすぐ家に帰ることは出来た。
でも、どうしようもない衝動に駆られて、この場の空気感に似つかわしくないスーツ姿で足を向けてしまった。
そこそこ有名な花火大会がある近くに家を借りたのは、二人で観に行きたいね、と話したからだ。
あれから一年も経たないうちに、君はもう僕の隣にいない。
ほんの小さなすれ違いから、心の距離は大きく隔たって、お互いを傷つけあうようになってしまった。
大好きな人を傷つける痛み。
大好きな人に傷つけられる痛み。
どちらも耐え難く、やがて離れていった。
君がいなくなった後も、引っ越そうと思えなかったのは、もしかしたら、帰ってきてくれるかもしれないと、どこかで期待があったのだろう。
どん、どん、と花火が上がっては消えてゆく。
美しい光の競演。
息を飲むほど美しいのに、どうしようもなく切ない。
愛し合う恋人たちも、仲の良い家族連れも、はしゃぎながら行きかう若い友人同士でさえも、花火に美しさだけでなく微かな切なさを感じることだろう。
なくして初めてその大切さを知るなんて、ありきたりな言葉の意味を、体験してみないと本当には実感できないことも、初めて知ったよ。
『次は、幸せを運ぶ青い鳥たちが夜空を舞い踊ります――――ブルーバード』
運営本部のアナウンスが流れると、鳥の形をしているように見えなくもない、小さな花火がいくつも上がり、さながら夜空に飛び交っているように見える。
夜行性でない小鳥は、夜空を飛べないだろう。だからこそ幻想的でもある。
幸せの青い鳥は、いつも自分の傍にいたのだ、と気づいたのに。
アスファルトに落ちた涙の跡を、花火が消えるまでの僅かな間、浮かび上がらせる。
きっと、誰も見ていない。
fin
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