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Vol.61・アプリ
しおりを挟む恋愛のない世界に行きたい。
長年付き合った彼は出世のために社長の娘と結婚を決め、あっさり裏切られ捨てられた。まだ若いから大丈夫と親戚に勧められたお見合いではことごとく断られ、今時もっと気軽に婚活すればと登録した婚活アプリでは、危うく結婚詐偽に引っ掛かる寸前で、心身ともに疲労困憊だ。
も、もう、いいや。一生独身でもいい。何なら恋愛や結婚の概念のない世界で生きたい。
いっそ清々しいくらいの気分になって青春をやり直すぞー、と思っていたら、別の婚活アプリからメッセージが入った。
「友達申請……?」
そんな機能あったっけ?
『プロフィール拝見して気が合いそうだなと思ってメッセージ送りました。情報交換したり、婚活に限らず仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いします』
そんなメッセージが同性の女性から届いて新鮮な気持ちになった。サイトをよく見ていなかったけれど、どうやら純粋な友達を作ることも可能らしい。確かに大人になって友達を作るには趣味や推し活? などフットワークが軽くないと簡単ではない。
相手のプロフィールを見ると、なるほど気が合いそうだ。仕事も似たような、でも全く同じではない職種。趣味や食べ物の好みも近い。
何だか嬉しくなって申請を許可し、メッセージのやり取りが始まった。
(まさか新手の詐偽とかじゃないよね?)
疑心暗鬼になる面がないと言えば嘘になるけど、お金を払ったりしなければ大丈夫だろう。
彼女とのやり取りは思った以上に楽しくて、やがて実際に逢うようになった。飲み食いするのもお金の使い方も感覚が近くて気楽だったし、何より話していて楽しい。こんなに親しくなれる友人は、今まで一人もいなかった。かけがえのない親友のような気持ちになっていた。
彼女は、言ってみれば[理想の私]、という感じだった。[私の理想]ではなく、私が多くの人に愛され好かれるなら、こんな感じなのではないかと思うような。
いつしか彼女の言動を真似、物の受け止め方を倣い、私が変わっていく感覚があった。こんなに自分を好きになれるなんて。職場でも家族にも、何だか最近変わったね、明るくなった、と言われることが増え、全然気にしていなかった男性から立て続けに告白されたりもした。
ある日、彼女と知り合った婚活アプリを久しぶりに開くと、友達機能がどこにも見当たらない。
「え、なんで? うそ、じゃあどうして」
彼女と知り合えたのか。
「もう、私は必要ないよね?」
スマホの画面に、もう一人の私が微笑んでいる。
「私は、あなた。あなたに足りなかったのは、自分を大切にすること。あなたはあなたであるだけで魅力的だし価値があるんだから」
だから大丈夫。
そう言って、彼女は消えた。
fin
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