1000文字の小宇宙

有栖川 款

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Vol.62・花の祝福

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 あいにくの曇り空だけれど、心は晴れやかだ。

 川沿いの道には満開の桜が咲き誇っている。

 私は、晴れ着に身を包み照れくさそうな息子の手を引いて、夫と桜の下を歩く。

 今日は、この子の入学式。

 体は同じ年頃の子どもより大きいけれど、未だ甘えん坊で可愛い息子が小学校に入るのは、嬉しさや誇らしさもある反面、不安もつきまとう。ちゃんとやれるだろうか、友達は出来るだろうか、それから勉強もついていけるのか、自分のことよりもずっと心配してしまう。

 でも、きっと大丈夫。

 自分に言い聞かせるように、唇をきゅっと結んで、それから息子に微笑んで見せた。

「学校、楽しみだね」

 息子は満面の笑みで頷く。

「うん!」

 甘えん坊だけれど人見知りはあまりしないし、やさしい子だもの、きっと誰とでも仲良くやれるだろう。

「ママのほうが不安そうだね」

 おおらかな夫は、にこやかに私の不安を見透かしてしまう。

「そうなの、駄目なママね」

 苦笑すると、夫はそんなことないよ、と言ってくれた。

「親として当たり前の気持ちだろう? 僕も少し緊張してるよ」

「そうなの?」

 いつも鷹揚な夫でも緊張するのか、と思うと少し落ち着いてきた。私だけじゃないんだ、そうよね、二人の子どもだもの。

 初めての子育て、まだまだ初めての経験がこの先もあるだろう。それでも、繊細と言えば聞こえはいいけれど、やや過敏な私が自分の感情に振り回され過ぎずにやってこれたのは、真逆の夫のお陰だ。

 これから先も共に生きていけることに、頼もしさと安心感を改めて覚えた。

「ママ、見て! きれいだね!」

 息子の指差すほうを見ると、桜の花弁がはらはらと舞い落ちている。

「ほんとね、綺麗」

 今年は桜が遅かったから、入学式に満開になって嬉しかった。ここのところ卒業式にはまだ早く、春休み中に咲いて散って、入学式にはすっかり散ってしまうことが多かったから。

 何故こんなにも桜の花に惹かれるのかわからないけれど、勝手に自分に都合よく考えてもいいよね、と自分に問う。幸せだとか嬉しいとか、楽しいとか明るい気分を存分に味わってもいい筈だ。

 ざあっっ、と大きな風が吹いて、視界を遮った。

 乱れた前髪を整えながら、一瞬閉じてしまった目を開けると、さっきよりもたくさんの花弁が風に流れるように舞っていく。とても幻想的な光景。

 私は、不意に泣きそうになった。

 一歳で天国に行ってしまった、この子の双子の弟が、祝福してくれたのかもしれない、と感じたから。

 ちょっと頼りない母だけれど。

 涙をぐっと堪えて前を向く。

 きっと、ずっと見守ってくれているといいな、と思いながら。






  fin
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