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真実の縁談
真実の縁談
しおりを挟むラシルの居心地の悪さをものともせずに、みんながみんな一頻り笑い倒してから、息も絶え絶えになったイシュタス王が口火を切った。
「いや、実に面白いお嬢さんだ」
「…面白さなんて追求してません!」
ラシルはぶすっとするが、
「そんな顔も可愛いね」
とアシュランがのたまったのでひっくり返りそうになった。
「オークの魔女が言っていただろう? その笛は、持っている本人じゃないと扱えないって」
アシュランが記憶を辿るように問いかけてラシルも思い出した。
「…そういえば、言ってたかも…」
「正確には本人というよりは、ドラゴン使いの血筋の者、ということだけどね。誰のものかもわからないものを、王国の歴代のドラゴン使いは使ってたわけだから」
だから、とアシュランはラシルを安心させるように続けた。
「だから、それはラシルにしか使えないんだよ。笛だけ返してもらっても意味はないんだよね」
「じゃあ、どういう、ことなんですか」
ラシルがドラゴン使いで、そしてそれをどうすればいいのか、さっぱり理解も想像もできない。
「これを、見たことがあるね?」
王が机の引き出しから取り出したのは、冊子のような―――お見合い用の肖像画だということはすぐにわかった。
「はい。あの、お見合いの肖像画ですよね? えっと、メデルのリリアナ姫の」
「うん、途中までは合ってるけどね」
まあ見てご覧、と差し出されて、体を起こして受け取る。
「ええと…あのお姫様の絵を見るのは、正直気が進まないんですけど…」
でも王様に言われちゃったら断れない。そう思って覚悟を決めて表紙を開いた。
「……あれ?」
恐る恐る目を開けてみると、封印が解けて視力が上がったラシルの目に映ったのは―――わたし?
「あ、あれ、これ、わたしですか? ど、どうして」
ああ、確かに今見たら、この眼鏡は有り得ないかも。ダサすぎるかも。肖像画で見たら尚更どうにもこうにも恥ずかしい。だって。
視力がよくなって初めてラシルは自分の顔をまともに見た。さっき、王の執務室へ来る途中の廊下の巨大な鏡で。
ラシルが覚えている最終的な自分、思春期前後のにきびが多かったり瞼が腫れぼったかったり、何だかぱっとしない味噌っかすだと感じていた自分はどこにもいなくて。
蛹が蝶になった、という表現を自分に当てはめるのはおこがましいとは思うけれど、一番当てはまっていると感じられるほど――――か、可愛くなってるんじゃないですか? わたし。と思うとかなりにやけた。
そしてそれは、アシュランと並んでも少しは釣り合いが取れるだろうか、という気持ちにも直結していた。
で。
「あの、わたし、こんな絵描いてもらった覚えはないですけど、お師匠様!」
そもそもルート・オブ・アッシュの森には三人しかいないのだ。絵描きが来た記憶などないし、たまの街へのお遣いでもそんな人に逢ってもなければ場所にも行っていない。
「それは俺が描いたんだ」
しれっと、出された紅茶を優雅に飲みながら、答えたのはメンディスだった。
「ええ? そうなんですか? メンディス、絵がお上手なんですね、知らなかった…じゃなくて!」
そりゃあ、同じ家に暮らしていたらいつでも描く時間は作れるだろう。いつもポーズをとらなければいけないわけでなし。でもそういうことじゃない。
「どうして、わたしの肖像画がここにあるんですか!」
「それは、ラシルが俺のお見合い相手だからだよ」
にっこりと、そして間近でアシュランに告げられて、ラシルは絶句した。
見合い用肖像画は見合いをするために描くものだ、それはわかっている。
そしてルート・オブ・アッシュのような辺鄙なところにいた時はわからなかったが、アシュランと出逢って自分もそういう年齢なのだということはわかってきた。わかってはきたが、それはあくまでも一般論でしかなかった筈で。
だからといって、何故ラシルが一国の王子の縁談になど上がっているのか。
「まあ、落ち着きなさいよラシル」
ずっとぶつぶつ小言を言う以外は黙っていた師匠が、これまた優雅に紅茶を啜りながらやっと口を開いた。
「…初めから、お師匠様がちゃんと説明してくれたらよかったんじゃないですかぁ?」
図星を刺されて気まずかったのか、師匠はごほん、とわざとらしく咳をして話し始めた。
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