私と騎士様の危い愛

月野さと

文字の大きさ
8 / 48

8話 ハンナ

しおりを挟む
 一夜が開けて、目を覚ます。

 目の前には、昨日会ったばかりの男性が寝息を立てていた。
 体がだるくて、腰も重い。おなかの奥に違和感を感じるけれども、動けない程ではない。
 隣で眠る男性を、あらためて見つめる。
 やっぱり、怖い人には見えない。ものすごく激しかったけれど、嫌じゃなかった。
 なんとなく、流れでしてしまったけれど、後悔はない。むしろ、やっと人並みに経験ができた安心感すらある。
 
 なんか、もの凄く喉が渇いたので、そうっとベッドを降りる。
 思ったよりも、立つと膣内の違和感と、筋肉痛のような足の痛みを感じたけれど、なんとか部屋を出る。

 1階に降りると、キッチンから物音がした。
 誰もいないはずなのに??
 ガタゴトと、誰かがキッチンで、何かを始めた様子だった。私は、恐る恐る、キッチンを覗いてみた。
「よいしょっと」
 年配の女性が、持ってきた荷物を置いて、エプロンをかけた。そして、戸棚から鍋などを出して、どんどん準備を始めていく。
 ……あれ?
 1人暮らしって言って無かったっけ?
 うーん、でも、そんな事よりも、私は奴隷なわけだから、家事をしなければならないだろう。でも、知らないお婆ちゃんが料理を初めてしまっているのだ。どうしたものか?まずは挨拶か?でも、待って。突然私が出て行ったら、それは驚くのではないだろうか?タイミングを見計らって…。
 タイミングって、いつ?
 あ、階段から降りてくる所から、やり直す?誰かが歩いて来る足音って大事だよね?だって、相手は年配だし、声かけるタイミング間違えて驚かせてしまって、ひっくり返っても怖いし、それで、なんて挨拶するの?「私は奴隷です?」‥‥うーーーーん?それでいいのかな?
 などと、戸惑っていたら、なんと、老婆と目が合った。
「……」
「……」
「あっ、あの、おはようございます!私は、怪しい物ではございません!私、名前はミレイと申します!驚かせてしまって、申し訳ございません。あの、昨晩、ジルさんに買われた奴隷でございます!で、ですから!家事を任されておりまして、ですが、勝手がわからず困っておりまして、突然、貴方様がいらっしゃったので、どうしたものかとですね?」
 老婆は、私をジーーっと見てから言った。
「奴隷?」
「はい!ただの奴隷でございます!」
「……坊ちゃまは?」
 坊ちゃま?
「あ、えーと、ジルさんでしたら、2階でお休みです!」
「ジル、さん?」
「はっ!いいえ!様!ジル様です!!」
「奴隷なら、ご主人様と言うべきじゃないの?」
 ガーーン!そうゆうの、解りませんから!
「そうでしたか!大変失礼いたしました!私、無知で失礼なことを!申し訳ございません!よろしければ、気がつかれた所は、容赦なく、ご教授いただければと!!」
 もはや、焦って何を言っているのか自分でも解らん。すると、老婆は笑った。
「あっはっはっはっは!面白い娘さんね。よく分からないけど、ともかく、その恰好で人前に出ない方が良いね。着替えておいでなさい。」
 そう言われて、私は、困惑した。
 そして、恥じらいながら、奴隷なので自分の服が無いのだと説明すると、老婆は家を出て行き、下着から何から一式そろえて持って来てくれた。

 そうして、服を着ると、気持ちも落ち着いて来た。
 早速、老婆にコンロのつけ方や、食材の扱い方、二日酔いに良いスープの作り方を教わる。食材を買う市場の場所なども、紙に書いてくれた。
「あなたの手、とても綺麗だし、話し方も丁寧。異国人だし、何か事情がありそうだね?」
 そう言われて、本当の事を言いたいけれど、なんて言ったらいいのか戸惑う。異世界からやってきました?
 私が黙っていると、老婆は言った。
「私は、ハンナ。坊ちゃまが小さい頃からのお世話係よ。坊ちゃまが、この屋敷にお住まいになってから、時々見に来て世話をやいていたの。」
 ジルさんは、騎士なので、夜勤や戦場に行くことになって家を空けるときなど、家の掃除を定期的にしていたらしい。戦場から帰って来た日は、食べものも無くて困るだろうと考えて、こうして食事の準備に来たのだと言う。
「そうでしたか。私、頑張って働きますので、色々と教えてください。よろしくお願いします!」
 二つに折れ曲がるようにお辞儀をすると、階段が軋む音がした。
 そして、キッチンをヒョッコリとご主人様が覗き込む。
「おはようございます。坊ちゃま。」 
「ハンナか。おはよう。来てくれて助かった…二日酔いで頭が痛いんだ。スープが飲みたい。」
「はいはい、今お持ちしますよ。」
「頼む……」
 ……私に、チラリと目を向けたけれども、さっさと行ってしまった。

 明るい陽射しが差し込むリビングには、8人掛けのテーブルと椅子がある。そこに腰掛けて、ボーーッと外を眺める、ご主人様の姿があった。
「温かいスープをお持ちしました。」
 そう言って、六本木のレストランで見た定員のマネをしてみる。こんな感じだった気がする~。スプーンを、こうして置いて、こんな感じでスープを置いて、そんでもって、こんな感じに水を注いで、お辞儀して下がるみたいな。
 はじめてのウェイトレスごっこ。でも、本番だけどね。
  
 すると、ジルさんは、私の方を見て小さい声で言った。
「‥‥体は、大丈夫か?」
 驚いたことに、奴隷の心配をしてくれるらしい。やっぱり、ご主人様はこの人で良かったと、改めて思った。
「はい。なんとか。」
 照れながら、にへらっと、笑って答える。だって、なんか恥ずかしい。
 すると、また眉間に皺を寄せて、難しい顔をされた。
 
 ご主人様は、スープを少しだけ口にして、それからシャワーを浴びて、仕事に行ってしまった。

 二日酔いの薬。という、ハンナさん特製の青汁?は、本当に嫌そうな顔をしながら、一気飲みしていた。その姿が可愛らしかった。
 それから、私は、ハンナさんの教えてくれた通りに、家事をこなした。掃除、洗濯、買い出し、1日で終わるのか不安になりつつも、なんとかこなした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...