私と騎士様の危い愛

月野さと

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9話

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 ジルヴィスは、家を出て、職場に向かった。
 すると、ダンがいた。
「お?ジル!確か今日は、午後からだっただろ?」
「あぁ、少し早く出てきた。」
「‥‥‥」
  ダンは複雑そうな顔をして、ジルヴィスに視線を送る。
「なんだ?」
「あ~、いや、こんな早い時間に出てくるってことは、あの奴隷ちゃん、食わなかったのか?あんなに食べ頃のイイ女だったろう?要らないなら、やっぱ俺が頂いちゃおうかなぁ~と。ちょっと、忘れられないレベルのイイ女だったろ?」
 ダンの言葉に、ジルヴィスの目が泳ぐ。
「ん?…あ?え?おまえ…何?何?食ったのか?堅物カタブツのおまえが?あ~そっかぁ♪まぁ、いいんじゃね?で、どーよ?やっぱ、良かっただろ?」
「ノーコメントだ。」
「なんだよ~。いいじゃねぇか!そっかぁ、おまえも男だもんな♪いや、おまえが女遊びをしないから、心配してたんだよ!これぞ健全な男のたしなみってもんだぜ?」
 ダンはジルヴィスの肩を組み、カッカッカと笑った。ダンは騎士の中でも、それなりにモテる男だけれども、どうゆうわけなのか、婚約者を作ろうとしない。騎士として稼いだお金を、酒と娼館通いで使い、悠々自適に暮らしている様子だった。
 そこへ、リオンがやって来た。
「あ、ジル!もう来てたんですね!団長が呼んでましたよ。」
 そう言われて、団長の所へ向かおうとすると、後ろでは、ダンとリオンがゴニョゴニョと話をしている。「えー!」なんてリオンが言っている所を見ると、あいつらは俺の話をしている様子だった。
 
 本当に、抱くつもりなど無かった。
 自分でも、朝起きて、驚いたのだ。
 昨日は本当に飲み過ぎた。気がつけば、あの女を助けていて、気がつけば、欲望のままに抱いてしまった。
 あの、あどけない瞳。香水などの変な匂いも全くない。色目を使って来る娼婦や令嬢とは違う、どこか落ち着いた、穏やかな空気を纏う女。
 そして、あの柔らかくて、形の良い大きな胸。誘うような曲線を、胸から腰、お尻まで描いていて、プリンとした滑らかな、吸い付くような肌。あれを目の前にして、手を出すなと言う方が、無理だろう。
「………」
 彼女を、どうしたものか、とジルヴィスは考えていた。 
 性奴隷など、家に置いてしまえば、結婚も遠ざかるだろう。それは、ある意味では好都合と言えるのかもしれない…。結婚適齢期だと世間では言われるが、その気が無いのだ。
 けれど、彼女の立ち居振る舞いからすれば、卑しい家柄とは思えない。言葉遣いからも、きちんと教育の受けた令嬢にすら見える。奴隷としてではなく、異国から来た客人として、家に住まわせた方が良いだろう。
 しかし、……うっかり手を出してしまったが、無かったことにはならないだろうか?
 いやいや!最低な事を考えてしまった。手を出したからには、責任がある。それに………彼女は乙女(処女)だった……。朝起きた時に、寝具に血がついていたのだ。
 うっすらと覚えているが、異常な程に狭くキツかったし、痛がっていた様子もあった。
 最低だ…俺は、最低な男だ!!
 彼女は、本当に奴隷ではなかったのだ。おそらく、どこかのご令嬢に違い無いだろう。
 そもそも、遠い異国から、この国に何をしに来たのか?たった1人で?この国を知らないと言っていたが…。
 
 ジルヴィスは、団長の待つ執務室の前に立つ。
 はぁ。
 酔ってやらかすとは、面倒なことになった。
 とにかく!
 仕事が先だ。しっかりしなくては!
 気持ちを切り替えて、扉をノックする。
「ジルヴィス・バルフォアです。失礼いたします。」
 扉を開けて入ると、団長が椅子に座ったままで、顔を上げた。そして、団長の目の前には、喪服に身を包んだ金髪の女性がいた。
 その後ろ姿で、彼女が誰なのか分かった。
「あぁ、ジルヴィス。速かったな。早速だが、お前に辞令だ。」
 女性から目を離して、団長を見る。
「はい!」
「聖騎士の隊長を任命する。」
「‥‥‥」
「なんだ?不服か?」
「いえ、そのようなことは。」
 その時、女性が振り返り、ジルヴィスを見つめた。美しい白い肌。青い瞳。天使のような美しい女性。その人は、ジルヴィスを見て、言った。
「私の夫、ルシオの遺言です。自分に何かあったら、次の隊長にジルヴィスを推薦すると。」
「ルシオが‥?」
 団長が頷く。
「もともと、ジルヴィス、お前の実力は認めている。周囲からの信頼も厚い。任されてくれるな?」
 2人の顔を見て、床に視線を落とす。
 ゆっくりと、一歩下がって一礼する。
「その任、確かに賜ります。」
 団長は、大きく頷く。
「では、隊長室に行け。ルシオの私物などは夫人が引き取られるそうだ。」
「‥‥はい。」

 執務室を出ると、ジルヴィスは案内するように先に歩いた。
 暫く歩いた所で、彼女は言った。
「ジル。久しぶりね。」
「‥‥‥」
「ルシオの死を、伝えに来てくれた騎士にね、あなたはどうしているのかって尋ねたの。」
 前をゆっくり歩いたままで、ジルヴィスは口を開く。
「………すまない。」
「どうして謝るの?きっと、あなたはショックを受けてる。だから、心配していたのよ。」
 そう言われた瞬間、ジルヴィスは振り返った。
「アニエス…!すまないっ、あいつを、あいつを助けてやれなかった!俺は…!」
「違うわ!どうしようもない事だったのよ!これも、運命だったんだわ!ジル!そんな顔をしないで。謝らないで。戦争だったのだから、どうすることも出来なかったのよ。だけど…」
 アニエスは、ジルヴィスの頬に手を伸ばす。
「だけど、ジル。あなたには、誰よりも大事な親友だったでしょう?あなたが心を許した、たった1人の友達だった。そうでしょう?」
 
 ジルヴィスにとって、アニエスは、親友の伴侶であり、幼馴染であり、そして初恋の人だった。
  
  


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