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11話
しおりを挟む夜の8時半。
ジルさんは、家に帰って来ない。
いつ帰って来るか聞いておけば良かったな、と思う。
だって、ご主人様より先に、ゴハン食べて良いのか分からないから、晩御飯食べてない。ハンナさんは、奴隷も使用人も、ご主人様と一緒に食べるわけではないので、残り物を仕事の合間に食べれは良いと言っていた。
そして、ハンナさんは明らかに2人分つくって、半分は私のだと言って、帰っていってしまった。
ますます、食べ辛いのである。どうせなら、素うどん(無いけど)とか、お茶漬け(無いけど)とかの方が、ささっと台所で食べれたのに、なんか、ご主人様と同じものなのに、先に食べるって難しいなぁ。残り物がどっちなのか明白じゃないか。
「はぁ~~。おなか空いたぁ~~。ジルさん、早く帰って来ないかなぁ~。」
独り言を言って、気を紛らわせる。
そして、本を取り出して、読んでみる。リビングにあった本を勝手に拝借した。週刊誌みたいで、ゴシップなどが書いてある。
それから、紙とペンを貰ったので、そこに文字を書いてみる。
なんと!急に文字が読めて書けるようになったのである。不思議だよねぇ~?異世界にトリップすると、知らないはずの文字が読めて、知らないはずの字が書けるようになるのかぁ~?と、面白くなって、文字を書き始めたのである。
とは言っても、ただの落書きだ。
内容はこんな感じだ。
❝おなか空いた~。ジルさんはまだかなぁ~?明日からは、朝の時間と帰宅時間を確認。仕事内容はコレでいいか確認。ハンナさんから貰った服が、胸がキツイので買って良いか確認。食事は質素なものにするから、勝手に食べて良いか確認。部屋は、ハンナさんから聞いたキッチンの隣の部屋を貰って良いか確認。はぁ、おなかすいたよぉ!つかれたよぅ。お風呂も入りたいよぉ~❞
そこまで異世界文字で書いてみて、自分で眺める。
「うーん。凄い。自分が凄すぎる。ちゃんと文字書けるわぁ~」
しみじみと思い、リビングのテーブルに片方の頬をくっつけたままで、ペンも持ったままで、目を閉じる。
そのうちにだんだんと、睡魔が襲ってきた。
掃除洗濯に買い物。慣れない仕事に、慣れない世界。まぁ、疲れた。
ウトウトしながらも、私はなんとか起きていたと思う。
何度かは、睡魔に襲われて落ちていたけど、空腹で目が覚める。
「だめだぁ~。おなかすいたぁ~。食べちゃおっかなぁ~。」
その時だった。
急に後ろから、ジルさんの声がした。
「なんだ。まだ食べて無かったのか?」
バッ!!と、起き上がって、後ろを振り向く。するといつの間にか、ジルさんが立っていた。
「わ!ビックリしました!お、お帰りなしゃいませ、ごしゅじ・・・ご主人様!」
言いなれていない言葉で、舌を噛む。
私の顔を見るなり、ジルさんは顔を緩ませた。
「ふっ、なんだその顔は。テーブルで寝ていたな?顔に跡が残ってるぞ。」
「ふぇ?」
慌てて手で頬を抑えながら、椅子から立ち上がる。すると、気になった様子で、私の落書きを、ジルさんが拾い上げて読み始めた。
「あ、えっと…あの、それはですね…」
私の落書きを読みながら、ジルさんは肩を震わせて笑い出す。
「ふふっ、なんだこれは。愚痴か?」
なんだか楽しそうに言われたけど、勘違いされては困るので、訂正しておく。
「めっそうもございません!ご主人様に仕えるべく、きちんと知っておこうと思った次第です!」
「ふふ。だから、その話し方をやめてくれ。…よし、では決まり事を決めよう。」
そうゆうことになった。
時計を見ると、夜の9時過ぎていた。
「ご主人様は、ご飯食べますか?」
「あぁ、では頂くよ。」
「はい!ハンナさんと一緒に作ったので、間違いなく美味しいと思いますよ!」
満面の笑みでそう言うと、ジルさんは、目を細めて微笑んだ。
その時。
ぐぅぅぅぅううう!ぎゅるるるるるっ。と、私のおなかが鳴った。
「………」
その瞬間、ジルさんは大爆笑した。
「あははは!!立派な腹だな!あっはっはは」
「そんな笑います?慣れない家事で、本当に疲れたんですよ。ぺこぺこです。」
赤面して言うと、彼は笑いながら、こちらを見て言った。
「すまんすまん。そんな立派な音を聞いたのが初めてで、はははっ。よし、私も手伝うから一緒に食べよう。」
「え?いや、結構です。私が準備しますから。ご主人様は、座っててください。」
「いいから。2人でやったほうが、早く食べれるだろう?」
そう言われた瞬間も、返事をするように、私のお腹が、ギュルルッと鳴る。
「ぷっ。くっくっ。腹で返事するなっ。」
「笑い過ぎです!もう!」
「ははは。あぁ、今日は煮込み料理か。これは美味いぞ。ハンナの料理は絶品だ。」
「美味しそうですよね?この匂いを嗅ぎながら、何時間も待ってたんですよ?ある意味の地獄です。」
「ふふ。食べれば良かったのに。ハンナは、そう言わなかったか?」
「食べて良いって言ってましたけど、そうゆうわけにも行かないですよ!」
「何故だ?」
「何故って、そもそも、誰かと一緒に住んでたら、みんなで揃って食事するのは当たり前でしょう?今日あったこととか、辛いことも楽しい事も、なんでも話しあいながら、今日も1日色々あったねって、そんな話をして、食卓を囲んで生きてきたんですよ。いくら他人様の家とはいえ、1人で先に食べるとかムリです。」
「………」
「あ、でも、私は奴隷なので、ご主人様の言う通りに…」
「遅いときは、先に食べて良い。そうでなければ、一緒に食べよう。」
「え、でも、」
「私も、そんなふうに食事がしてみたい。」
「‥‥」
それって…そんな風に食事をしたことが、無いのだろうか?
その後も、私のお腹は鳴っていたし、彼は笑っていたけれど、なんだか突っ込む気持ちがなくなってしまった。
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