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18話
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レストランを出ると、目の前に出店があって、ミレイはその雑貨屋さんを眺めた。
ダンとジルヴィスは、少し離れた場所で話をする。
「おい、ジル。」
ダンは、いつもより低い声だった。
「あの子、奴隷でも町娘でもないぞ。良い所のお嬢さんだ。」
「……わかっている。」
「どうするんだよ?どこぞの貴族かもしれないぞ?遊びで傍に置いておくような女じゃない。家事もした事の無いような女、使用人にもならないだろう?完全な箱入り娘じゃないか。つーか、あの見た目だ。1人で街をうろついてたら、酷い目に合うぞ?」
ジルヴィスは腕を組んで、顎に手をやり、少し考えるような素振りをして言った。
「だからと言って、家に縛り付けておくわけにも行かないだろ?本人は帰る場所も無いと言ってる。さっきだって、自立したいとか言ってただろう?」
「だからって、放っておくのか?」
「あれで良い大人なんだ。自分で何とかするだろう。」
「……冷たいやつだな。おまえは。」
「性分なんだ。ただでさえ、昇進して仕事が増えているのに、他の事まで手が回るか。」
ガシッと、ジルヴィスの肩を掴んで、真剣な顔でダンは言った。
「良いのか?それなら本気で、俺が貰うぞ?あんな、素直で可愛い女、そうそういるもんか。」
「………」
キッとダンを睨んでから、ジルヴィスは目をそらした。
「勝手にすればいい。」
言い捨てるように言う。
ダンは、ため息をついてから、ポンポンッと、ジルヴィスの肩を叩いて、なだめるように言う。
「なぁ、ジル。おまえも、家のこととか色々抱えてんのはわかるけどさ、大事な物は、もう、手放すなよ。」
その言葉に、ジルヴィスはバカにするように笑った。
「大事な物って、別に俺は…」
「俺は、あの女、すっげぇ気に入ったぞ?なんたって、ジル、おまえを笑顔にさせたんだ。」
そう言うと、「じゃぁ、仕事に戻るわ!隊長。」と言って、さっさと立ち去って行った。
立ち去るダンを、しばらく眺めた。
自分でも気がついている。
ミレイが現れてから、心が癒されていく。
食欲すら湧かなかったのに、きちんと食べることができている。
何も分からないミレイを助けてやろうとすることで、自分自身が他の嫌な事を、考えないで居られる。
そばにいるだけで、見ているだけで、彼女に引き込まれて行く。そんな自分がいる。
ふと見ると、ミレイは雑貨屋の隣で、飴を売ってる出店を見ていた。飴細工職人が、馬の形をした飴を作っている。それを真剣な顔で、彼女は眺めていた。その飴が完成すると、拍手をして喜んでいる。どうやら、次にペガサスを作って欲しいと注文している様だ。それを、どこからか現れた、子供と一緒に見て楽しんでいる。
無邪気。
本当に、屈託のない顔で笑う彼女は、魅力的だった。
「店主、その飴を2つともくれ。」
馬とペガサスの2つを購入して、ミレイに手渡す。
「わぁ♪ジル、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言うと、一緒に見ていた子供に、「はい!」と言ってあげてしまった。
その行動1つに、周囲も、目の前の子供すらも驚く。
階級社会で、ましてや令嬢が町で暮らす貧困層と触れ合うなど、誰も見たこともないであろう。服もまともに買えていないような子供だと、見て解るのに…。ミレイは躊躇なく飴を差し出し、微笑んだ。
すると、薄汚れた服を着ていた男の子は、ミレイの手から1つの飴をかっさらうかのようにして、掴んで走って逃げて行った。
それを見た店主が怒った。
「あ!こら!ボウズ!…なんだ、あのやろうはっ!礼の1つも言えんとは。大丈夫だったかい?お嬢さん。」
普通、慈悲で分け与えられたら、感謝するべきだ。地面に這いつくばって礼を言う姿など、珍しくも無い。あの態度は、奴隷であれば腕を切り落とされても仕方ない。
しかし、ミレイは残った、もう1つの飴を見つめて、それから笑って言った。
「大丈夫ですよ。…あの子。どうしていいのか、解らなかっただけですよ。心の優しい子です。」
「え?」
店主とジルヴィスが、驚いた顔をする。
「だって、ほら!私が注文したペガサスの方は、置いて行きましたよ?2つとも差し出したのに。ちゃんと、私に気を使って、1個だけ持って行ったんだから。良い子でしょう?」
ミレイの頭の中は、どうなっているのか、理解に苦しむ。
立ち居振る舞いは教育された者であるのに、その見た目も裕福な暮らしをしていたことに間違い無いのに。
ハンナに対しても、そうだった。年配者としての敬意を示していた。そして、あんな薄汚い子供にも、真っ直ぐに人として接するのか?そんな令嬢が、どこにいる?
ジルヴィスは、ミレイが不思議で、キョトンとした顔で見つめていた。
その顔を見たミレイは、自分の言ってる意味が解らなかったのか?と思って、説明を続けた。
「ほら、だって普通、羽のぶん、量が多い方を選ぶでしょう?子供だったら、大きい飴と小さい飴を見せられたら、ぜったい大きい方選ぶよね?」
そう説明すると、ジルヴィスは、ふっと可笑しくて笑った。
「まぁ、おまえは食いしん坊だからな。」
ダンとジルヴィスは、少し離れた場所で話をする。
「おい、ジル。」
ダンは、いつもより低い声だった。
「あの子、奴隷でも町娘でもないぞ。良い所のお嬢さんだ。」
「……わかっている。」
「どうするんだよ?どこぞの貴族かもしれないぞ?遊びで傍に置いておくような女じゃない。家事もした事の無いような女、使用人にもならないだろう?完全な箱入り娘じゃないか。つーか、あの見た目だ。1人で街をうろついてたら、酷い目に合うぞ?」
ジルヴィスは腕を組んで、顎に手をやり、少し考えるような素振りをして言った。
「だからと言って、家に縛り付けておくわけにも行かないだろ?本人は帰る場所も無いと言ってる。さっきだって、自立したいとか言ってただろう?」
「だからって、放っておくのか?」
「あれで良い大人なんだ。自分で何とかするだろう。」
「……冷たいやつだな。おまえは。」
「性分なんだ。ただでさえ、昇進して仕事が増えているのに、他の事まで手が回るか。」
ガシッと、ジルヴィスの肩を掴んで、真剣な顔でダンは言った。
「良いのか?それなら本気で、俺が貰うぞ?あんな、素直で可愛い女、そうそういるもんか。」
「………」
キッとダンを睨んでから、ジルヴィスは目をそらした。
「勝手にすればいい。」
言い捨てるように言う。
ダンは、ため息をついてから、ポンポンッと、ジルヴィスの肩を叩いて、なだめるように言う。
「なぁ、ジル。おまえも、家のこととか色々抱えてんのはわかるけどさ、大事な物は、もう、手放すなよ。」
その言葉に、ジルヴィスはバカにするように笑った。
「大事な物って、別に俺は…」
「俺は、あの女、すっげぇ気に入ったぞ?なんたって、ジル、おまえを笑顔にさせたんだ。」
そう言うと、「じゃぁ、仕事に戻るわ!隊長。」と言って、さっさと立ち去って行った。
立ち去るダンを、しばらく眺めた。
自分でも気がついている。
ミレイが現れてから、心が癒されていく。
食欲すら湧かなかったのに、きちんと食べることができている。
何も分からないミレイを助けてやろうとすることで、自分自身が他の嫌な事を、考えないで居られる。
そばにいるだけで、見ているだけで、彼女に引き込まれて行く。そんな自分がいる。
ふと見ると、ミレイは雑貨屋の隣で、飴を売ってる出店を見ていた。飴細工職人が、馬の形をした飴を作っている。それを真剣な顔で、彼女は眺めていた。その飴が完成すると、拍手をして喜んでいる。どうやら、次にペガサスを作って欲しいと注文している様だ。それを、どこからか現れた、子供と一緒に見て楽しんでいる。
無邪気。
本当に、屈託のない顔で笑う彼女は、魅力的だった。
「店主、その飴を2つともくれ。」
馬とペガサスの2つを購入して、ミレイに手渡す。
「わぁ♪ジル、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言うと、一緒に見ていた子供に、「はい!」と言ってあげてしまった。
その行動1つに、周囲も、目の前の子供すらも驚く。
階級社会で、ましてや令嬢が町で暮らす貧困層と触れ合うなど、誰も見たこともないであろう。服もまともに買えていないような子供だと、見て解るのに…。ミレイは躊躇なく飴を差し出し、微笑んだ。
すると、薄汚れた服を着ていた男の子は、ミレイの手から1つの飴をかっさらうかのようにして、掴んで走って逃げて行った。
それを見た店主が怒った。
「あ!こら!ボウズ!…なんだ、あのやろうはっ!礼の1つも言えんとは。大丈夫だったかい?お嬢さん。」
普通、慈悲で分け与えられたら、感謝するべきだ。地面に這いつくばって礼を言う姿など、珍しくも無い。あの態度は、奴隷であれば腕を切り落とされても仕方ない。
しかし、ミレイは残った、もう1つの飴を見つめて、それから笑って言った。
「大丈夫ですよ。…あの子。どうしていいのか、解らなかっただけですよ。心の優しい子です。」
「え?」
店主とジルヴィスが、驚いた顔をする。
「だって、ほら!私が注文したペガサスの方は、置いて行きましたよ?2つとも差し出したのに。ちゃんと、私に気を使って、1個だけ持って行ったんだから。良い子でしょう?」
ミレイの頭の中は、どうなっているのか、理解に苦しむ。
立ち居振る舞いは教育された者であるのに、その見た目も裕福な暮らしをしていたことに間違い無いのに。
ハンナに対しても、そうだった。年配者としての敬意を示していた。そして、あんな薄汚い子供にも、真っ直ぐに人として接するのか?そんな令嬢が、どこにいる?
ジルヴィスは、ミレイが不思議で、キョトンとした顔で見つめていた。
その顔を見たミレイは、自分の言ってる意味が解らなかったのか?と思って、説明を続けた。
「ほら、だって普通、羽のぶん、量が多い方を選ぶでしょう?子供だったら、大きい飴と小さい飴を見せられたら、ぜったい大きい方選ぶよね?」
そう説明すると、ジルヴィスは、ふっと可笑しくて笑った。
「まぁ、おまえは食いしん坊だからな。」
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