私と騎士様の危い愛

月野さと

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25話 ロドリス

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 ジルヴィスは、ルシオの葬儀に立ち会った。
 ルシオの葬儀は、彼の自宅で行われた。

 喪主であるアニエスを休ませ、自分が来客の対応をしたりした。
 ルシオの遺体は無いので、棺桶に遺品を入れ、御墓に埋葬して、祈りを捧げる。
 遺品の一つ一つを見ると、埋葬などしたく無いと思ってしまうほどに、かけがえのない物で…。ジルヴィスは、その一つ一つを見つめて涙を堪え、別れを告げた。
 そんなジルヴィスの隣で、アニエスは支え合うようにして、寄り添った。
 
 埋葬が終わり、墓地からルシオの家に戻る。
 先に家に戻っていたアニエスは、別室で誰かと話をしていた。

 男の声が、部屋の中から聞こえて来た。
「まさか、断れるとでも?」
 その不穏な声に、ジルヴィスは部屋の前で立ち止まる。
「お断りいたします!」
 アニエスの、小さくて低い声が響く。
 相手の男は、クツクツと笑った。
「知っているのだぞ?あなたの秘密を。」
「…何の事です?」
「あなたは、何故、聖騎士達が最前戦に出たか、聞いているのか?」
「………」
 男は、アニエスの肩に手を置く。
 そして、耳元で囁いた。
「あなたは罪深い。」
 アニエスは、男の手を払いのけて、素早く距離を取った。
 ジルヴィスは、部屋の中を覗き見る。
 聞き覚えのある声に、まさかと思ったが、そのまさかだった。
 団長である。
 自分の上司が、そこに居た。
 ロドリス団長。彼は、20歳で結婚してから、33歳で団長になり、現在38歳。子供は6人いる。
 しかし、無類の女好きで、娼館では有名な客だ。
 直接的な関わりがなかったので、気にも止めていなかったが、この瞬間、警戒心が強まった。
 団長は、アニエスに詰め寄るように近付く。
「私から逃げられると思うのか?」
 顔を近づけてくる団長に、仰け反るようにして、顔をそらす。

 バン!
 部屋の扉を大きく、乱暴に叩き大きく開け放つ。
 ジルヴィスは、カッカッカッ!と、部屋の中に入って行き、団長とアニエスの間に入る。
「何を、なさっておいでです?親友に代わって、私が話を伺いましょう。」
 睨みつけると、団長は頬をひくつかせた。
「ジルヴィス。私は大事な話をしているのだ。」
 いつもとは違う、上司の表情を注意深く観察する。
 可能な限りは、上司に盾突きたくはない。だがしかし…。
「いくら団長とはいえ、女性に対しての失礼な行動はお控えください。お話ならば、私が伺います!」
 団長は、頬をひくつかせたままで、眉間に皺を寄せる。
「貴様、上官に向かって、その態度はなんだ?!立場をわきまえろ!」
 ロドリスは、声を荒げて、恫喝してきた。
 が、ジルヴィスはひるまない。
「私は、団長のために申し上げているのです。あらぬ疑いをかけられては、お困りでしょう?それとも、個人的な話が、お2人の間にはあると?」
 ロドリス団長と、ジルヴィスは、睨み合う。
「ふん!出しゃばりおって、ジルヴィス、おまえは知らなかっただろうが、ご夫人とは、深い関係があるのだ。」
「そんな関係は、全く覚えがございませんわ!!」
 ジルヴィスの後ろから、アニエスがキッパリと否定した。
 団長の顔は、酷く歪む。

 その時、廊下を歩いて来る靴音が響いてきた。
 ヒョコっと扉から顔を覗かせたのは、ダンだった。
「あぁ、ジル、こんな所に居たのか、探し…!?あっ、団長!」
 ダンはすぐに敬礼する。
 ロドリス団長は、アニエスに視線を移す。
「それでは、今日はこれで失礼する。」
 アニエスは睨みつけたままで、返事をする。
「本日は夫の為に、ありがとうございました。」
「あぁ、お体には気を付けられよ。大事な体だ。」
「………」

 ジルヴィスは、この時、少し驚いた。
 団長は、アニエスが妊娠していることを知っている?
 つまり、ルシオは団長には話していた、ということか?
 親友である、俺には何も言わず……。
 
 アニエスを見ると、アニエスもジルヴィスを見上げて、儚げに微笑んだ。
「ジル、ありがとう。」
 アニエスは、ジルの腕に手を置いて、目を潤ませた。
 儚げに微笑むアニエスに、ジルヴィスは優しく微笑む。
「アニエス。何か困っている事があるなら、話を聞こう。」
「いいえ。もう大丈夫。」
「しかし…!」
「大丈夫よ。」
 アニエスは悲しそうに微笑んで、何も言わずにジルヴィスの肩にもたれた。

 寄り添い合う2人を、ダンは見ていた。
 そして、存在を示すように、咳払いをする。
「おい、ジル。話がある。」
 ダンに声をかけられて、そうっとアニエスから離れた。
 無言のまま、ダンのところに向かう。ダンは真面目な顔をして言った。
「ミレイが家で待っているんだろう?そろそろ帰らないのか?」
 そう言われて、時計を見る。
「今日は遅くなると伝えてある。」
「…ふーん。じゃ、俺が側に居てやりたいから、お前の家に行くわ。」
「は?何言ってる?」
「たった1人で、待ってるんだろう?」
 そう言われて、ジルヴィスは、ハッとする。
 
 最初の夜。ずっと、ミレイは俺を待っていた。食事もせずに、お風呂にも入らずに、ただ、帰りを待っていた。
 今日、どうして、あいつは神殿に来た?
 まさか、俺を追ってきた? 
 あいつ自身を守るために買ってやったストールなのに、惜しみもなく、ストールをアニエスに手渡し、気遣ってくれた。飴をあげた子供の時もそうだ。
 いつも、人の事ばかり気にするあいつ。
 …ミレイ、ちゃんと、家に帰れただろうか?
 慣れてない帰り道は、分かっただろうか?

「ダン、家までミレイを送ってくれたのか?」
「なわけねーだろ!仕事中だ。」
 急に不安になる。
 ジルヴィスは、振り返ってアニエスに言った。
「そろそろ、俺達は失礼するよ。」
 驚いた顔で、アニエスはすがるように言った。
「え…待って、き、今日は朝から疲れたでしょう?夕食も用意させたのよ。もう少し一緒に、思い出話もしたいわ。」
 ジルヴィスが、戸惑った顔をしたのを見て、ダンが先に口を開いた。
「申し訳ありません。隊長は、家で待っている人がおりましてね。」
「…⁈ 家で、待っている、人?」
 アニエスは狼狽えて、目を見開き、青い顔をした。
「ダン、おまえ、こんな時に余計なことを言うな」
「大事なことだろ?」
 大事なこと?何がだ?
「すまない、アニエス。今日はこれで失礼する。」
 ジルヴィスは、足早に家を出ようとした。自分のコートを鷲掴み、一瞬で羽織った。

「待って!行かないで!そばに居て!」
 アニエスは、泣きながら走って来て、ジルを引きとめた。





  
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