私と騎士様の危い愛

月野さと

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27話 葬儀の後

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 ジルヴィスは、温かい湯船につかり、ぼーっとする。

 ふぅ、と、ため息をついて、今日のことを思い出す。

 団長の言っていた、アニエスの秘密とは?
 聖騎士達が前戦にでた、理由は?
 それを何故、アニエスが知っているか聞かれる?

 いったい、どうゆうことだ?
 アニエスは、何かを知っているのか?
 ルシオは、しごとの情報を、家族にするような男では無い。
 いくら考えても、あの会話の意味がわからない。

 戦場で、血を流し、苦痛に歪むルシオの、最後の顔が浮かぶ。
『……ジル…ごめん…』
 
 胸にある、鍵を握りしめる。
 この鍵は、なんの鍵だ?
 隊長室にある、鍵穴は全部試してみた。しかし、どれも違ったのだ。
 まさか、自宅の鍵か?と思い、家の中を探ろうとして、団長とアニエスの話を聞いてしまったのである。

 もしかすると、この鍵でしまわれた場所に、何か大事な物があるのかも知れない。

 家の中にある何かの鍵だとして、アニエスに聞いてみたら、分かるだろうか?
 そう思ったが、団長とのやり取りを見てしまった後では、迂闊に聞くことが出来ない。
 ルシオは、最愛のアニエスにではなく、俺に渡したのだ。その意味するところは?
 ……もし、アニエスには知られたく無い物だったとしたら?
 何か大切な物であれば、アニエスに託しただろうに、あいつは、そうしなかった。出来なかったのか?
 もしくは、アニエスを巻き込みたく無い、何かがあるのだとしたら?
 …何か嫌な予感がする。

 誰にも気が付かれずに、確認するのがベストだろう。

 ジルヴィスは、そう考えて、お風呂場を出た。


 そうして、リビングに行くと、テーブルにはワイングラスが置いてあった。
 程なくして、ミレイが部屋に入って来る。
 ワゴンをテーブルの横につけ、カッペリーニとバーニャカウダなどを、次々にテーブルに並べていった。
 椅子に座ると、ミレイは静かにゆっくりと声をかけた。
「今日は、疲れたでしょう?軽くつまめる物を、いくつか用意しました。」
 そう言ってから、器に盛った“焼きうどん”を出した。
 ジルヴィスは、うどんを見つめた。
「これが、ウドンか?」
「はい。一般的には、温かい塩気のあるスープに、白い麺を入れるんです。でも、焼うどんにした方が、ジルには食べやすいかなって思いまして。」
 私も対面に座って、いただきますと小さい声で言う。ジルヴィスの見守る中、焼うどんを食べて見せる。
「うん!美味しい♪」
 自画自賛して、ニッコリ微笑むと、ジルは黙って口に運んだ。
「……ふむ。優しい味だな。美味い。」
「ふふ。私の国では、うどんは体調が悪い時や、食欲の無い時など、弱ってる時に食べます。」
 なんの気無しに言ったのだが、その言葉でジルが苦笑した。
「ふふ、弱っている時か。」
「あ!いや、その、ジルが弱ってるとか言ってないですよ?わ、私が!食べたかっただけです!他意は無いです!」
 ジルは、穏やかな表情を浮かべて、真っ直ぐに視線を向けてくる。
「ミレイ。今日は、ありがとう。アニエスの為にショールを貸してくれたろう?」
「いえ。彼女の具合は、大丈夫でしたか?」
「あぁ。大丈夫そうだった。」
「良かったぁ。元気な赤ちゃん、産まれて来るといいですね!」
 元気に笑って見せると、ジルは、静かに笑った。
「そうだな。」
 
 その後、少しの沈黙があった。
 私は気にせずに、ゆっくりと食事をした。
 ジルも、落ち着いた感じで、1つ1つ食べてワインを口にした。
 あっという間に、グラスが空いたので、ワインを注いであげる。そして、自分のグラスにも注ぐ。どうしても、相手のペースに流されて飲んでしまうので、気を付けようと心の中で思った。
 ゆっくりと時間が流れている感じで、ホワホワとしてくる。

 そんな中で、私は、ふと言った。
「なんとなく、なんですけど……お腹の子は、パパの生まれ変わりかも。なんて、思ってしまいますね。」
 独り言のように、私は呟いて、ワイングラスを傾けた。
 クルクルとグラスの中のワインを回して見つめていると、ジルもその様子をじっと見ていた。
「……願望、なのだろうがな。」
 悲しそうな顔で、ジルが呟いた。
 その言い方からして、ジルは現実主義だなと思う。
 そうゆう所も、嫌いではない。
「でも、きっと、そうなんだっ、て信じてみても、いいじゃないですか?」
 私は目を閉じて、空想する。
「お腹の子は、生まれ変わりなんだって、また会えるんだって!そう思うと、なんだか、温かい気持ちになりませんか?」
 現実的に考えてしまえば、そんな事は無いと解っていても。

 なんだか、急に元の世界を思い出す。
「私、家族と離れて生活を始めた頃、祖母が亡くなったんです。」
 いつでも会える。帰ればいつだって、そこに居る。当たり前に思っていたけど、そうじゃ無かった。
「凄く悲しくて、悲しくて悲しくて、毎日、泣いて泣いて泣いて…何も手につかなかったんです。」
 うっかり、単位を落としそうになったのだ。
 祖母の最後を看取れなかったことに、後悔していた。
「でも、あまりにも、苦しかったからでしょうか?真夜中にふと思いついたんです。祖母は死んで無い。これは悪い夢だ。遠く離れていた私は、今までと同じ。実家に帰れば、祖母が居て、今も生きてるんだ。そう考えたんです。」
 ジルは黙って、私の話を聞いていた。
「そしたら、急に、そんな気がして来たんです。今は、会えないけれど、あの家に祖母は居る。そんな気がして来たら、なんだか落ち着いたんです。だけど、解っているんです。もう死んでしまったこと。もう2度と会えないことも。」
 離れて暮らしていたからこそ、そう信じられたのだ。実家で生活していたら、祖母の部屋を見る度に、現実から逃れられなかっただろう。
 私は、溜め息をついて、なんだか緩く微笑んでしまう自分に驚く。
「その時に、不思議だなって、気がついたんですよ。もう会えないのに。居るって思えば、いつでもそこに居るんです。居ないって思うと、全てが真っ暗闇の中になる。それって、とても不思議だなって…」
 なんとなく、自分が、何が言いたいのかわからなくなる。
 たぶん、ジルを慰めようと思ったのだと思う。
 だけど、そんな言葉は、どこにも無い。
 代わりに、私は、今のジルを見て、自分と重ねてしまうのだ。

「だから、お墓は存在するんですよね。“あそこに居る”人は、そう信じたいから。今では、祖母は、ここにいるんです。いつでも、どこでも、私のココに。」
 そう言って、胸に手を当てる。

「私は、自分で思うよりも、弱い生き物だった。」
 だから、心の支えが必要だった。
 目を閉じて、空想するのだ。
 自分の都合の良いように、なんでも良いように解釈するのだ。そうやって、辛い時間を乗り越えてしまおう。

 空想は自由だ。
 好きな人に告白して、フラれてしまったら、今は縁が無かったんだ。また、遠い未来で縁があるかもしれない。5年後に運命の再会して、ラブラブとか想像してみたり。
 死んだあとには、天国があるっていうけど、異世界転生できるって信じてみたり。
 勝手に想像して、信じてみるのだ。
 現実は過酷だから、逃避行するのだ。
 そうして、落ち着いてきたら、結局逃げられもしない現実と、向き合えばいい。

「だけど、現実は、過酷だから。今は、どうしたって苦しくて、もがき苦しむならば、そうすればいいとも思うんですよ。素直な自分自身を、受け入れて、抱きしめてあげることだって重要だから。」
 
 時間が解決する事って、たくさんある。
 








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