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30話 ジルヴィスの気持ち
しおりを挟むミレイとの生活も、1ヵ月ほど経った。
朝も夜も「簡単なものしか出来ない」と言いながら、一生懸命に食事を用意してくれている。
そんな姿が、可愛らしかった。
体が資本である騎士として、食事には気を使わなければいけないのだが、今まで1人ではできていなかったので、本当に有難かった。
それに、ミレイは、あまり詮索するような事を聞いて来ない。
“何故、1人で生活をしているのか?”“結婚しないのか?”“仕事はどうか?”よく人から聞かれることだが、1度も聞いて来ない。
俺を気遣って、食事を用意したり、家を片付けたり、季節の花を飾る所など、その1つ1つの些細な事で解る。本当に心の優しい、女性なのだと。
食事中は、今日あった他愛も無い話しや、仕事をするようになって気がついたことなどを、報告してくれるところも、彼女の視点が優しさにあふれていて、好きだった。
食後、何の会話も無い、お互いに、ただお茶を飲んでいる、ゆったりと流れる時間も心地良かった。
ただ、最近…
夜は、苦悩している。
セフレという関係の、何が正解か分からないが、自分からは体を求めないように決めた。
やはり、気が引けたのだ。恋人同士では無いのに、欲求だけを満たすためだけにするのは、嫌だった。
そんな建前と欲情する自分と、葛藤した結果の答えだった。
ミレイは、仕事を始めてから、日増しに綺麗になっていく。抱けば抱くほどに、少しずつ色気も出てきている。…ような、気がする…。
もともと、彼女の体は魅惑的過ぎるのだ!!
良い関係を続ける為には、彼女から求められたときだけにしなければ、ズルズルと悪い方向に落ちそうだ。
ただ…そうして自制しながら抱いていたのに…。
彼女が求めているのは、俺の体だけだと解っているのに…。
どんどん、辛くなってくるのだ。
キスがしたい。
そう、思ったのは、ミレイが泣いたあの夜。
ルシオの葬儀が終わった、あの夜。2人で泣いた、あの日。あの時から。
キスがしたい衝動を、抑えている。
『好きな人のために、とっておきたい』
それは、つまり、俺では無いと言っているのだ。
そんな純粋そうな顔をして、最初の頃は、ぎこちなかった営みも、今では快感の喘ぎ声を上げるくせに。触れれば、すぐに濡らして、すんなりと受け入れて俺を締め付けてくるくせに。
体だけの関係だなんて、本当にそれだけか?
一生懸命で、優しくて、真っ直ぐで、ちょっと天然で、明るい笑顔も、泣き顔も、その声も、愛おしく感じているのに。
ミレイ。おまえは……
……分からないな。
俺は、体を重ねる度に、思いを募らせて…胸を締め付けられるように苦しくなっていく。
おまえは違うのか?
いつも、俺に抱かれて嬉しそうにするくせに。
このまま、この関係を続けていけば、心変わりをしてくれるかもしれない。
そんな淡い期待に、踊らされている。
キスがしたい。
心の中で、そうつぶやいて、ぼうっと星を眺めていると、部屋をノックする音が響いた。
返事をすると、ミレイが部屋の中に入ってくる。
ゆっくりと自然に歩み寄って来て、俺の隣で、同じようにして星を見上げた。
星を見上げた彼女の目は、キラキラと輝いていた。
お風呂上りなのだろう。髪から石鹸の香りもする。
何も言わずに寄り添ってくれるようで、こんな時の彼女が好きだ。たまらずに肩を引き寄せると、そのまま、ミレイは俺の頬にキスをした。
「……」
キスを我慢しているのに。それは良いのかと、焦らされているような気持ちになる。
だから、限りなく唇に近い頬に、キスをしてやった。
そうすると、おまえは、嬉しそうに頬を染めて微笑んだ。
‥‥ずるいだろう?
そんなふうに、嬉しそうに笑うな。
もう、本当は、抱きたいんじゃない。…いや、抱きたいが、それだけでは足りない。
好きだと気持ちを伝えたい。
ミレイの気持ちが知りたい。
ずっと、ここに居ろと言いたい。
キスがしたい。
でも、それは、今の2人の関係を、壊してしまうかもしれない。
まだ、知り合って1ヵ月か……まだ、早いか。
おまえが望むなら。
いくらでも抱いてやる。
今のまま、このまま。
いつか、俺無しではいられなくなるまで。
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