吸血鬼と愛の鍵

月野さと

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第5話

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 今はもう使われていない旧校舎。
 学園の敷地内の端にあって、薄暗く、立入禁止となっていた。
 そこへ、ルナルドは周囲を確認してから、入って行った。

 それを見ていた、ジルベールとリリアナは、顔を見合わせる。

 ゴクリと、唾を飲み込んでから覚悟を決めて、兄の後を追う。
「待て。行くのか?あそこは立入禁止だぞ?授業は?」
 ジルベールが後ろから引き止めるので、リリアナは振り返って言った。
「私、お兄様の事を知りたいの。早く全てを思い出したいのよ。」
「え?思い出す?」 
「私、この1ヵ月の記憶が無いの!」
 ルナルドを見失わないように、リリアナは走り出す。
 
 旧校舎に入ると、建物内は薄暗くて不気味だった。
 エントランスを抜けると、兄の後ろ姿があった。そのまま、気がつかれないように追いかける。
 何故か、リリアナの後ろを、ジルベールがついて来る。

 ルナルドが階段を上がっていくので、階段下まで行き、見つからないように上を見ながら行く。
 迷う事なく、ルナルドは応接室と書かれてある部屋に入って行く。
 
 焦る気持ちをなんとか、落ち着かせながら、ルナルドの入って行った部屋の前まで行く。
 応接室の部屋の前で、ジルベールとリリアナは息を殺して、聞き耳をたてた。

「こんな所に呼び出して、怪しまれて困るのはお前じゃないのか?」
 ルナルドの低い声が、響く。
 
「ふん。偉そうな口を叩くじゃ無いの。早くそこに座って、ボタンを外しなさいな。」
 もう1人は、女性の声だった。

 リリアナは、ドアの隙間が空いているのを見つけて、隙間から中を覗く。
 それを見たジルベールも、同じように建てつけの悪く、歪んでしまった扉の隙間から中を覗き見た。

 黒い皮のソファーに、ルナルドがこちらを向いて座る。
 恋人だと言っていた、男爵令嬢が、笑いながらルナルドに近づき、後ろからルナルドの頬を撫でた。ルナルドの目は虚ろだった。

「今夜は用事があるからね。その前に、おまえが欲しくなっただけだ。」
 ルナルドは、自分のシャツを上から順番にボタンを外していく。
 男爵令嬢は、待ちきれないと言わんばかりに、ルナルドの頬から首筋へと、指を這わせて鎖骨をなぞり、撫でまわした。
 ソファーの横に回り、ルナルドに近づいて行き、ベロリと鎖骨を舐める。
「はぁ、若くてつやつやの肌。」
 女は、ルナルドに抱きつき、首を舐め回して涎を垂らす。
 ルナルドは、床を見つめたままで、苦虫をかみつぶしたような顔で、耐えている。

 リリアナは、自分の口を両手で押さえる。少し眩暈がしてきていた。

「早くしろ!」
 ルナルドが叫ぶと、女は、首の付け根に噛みついた。
「っ・・・!!」
 ルナルドの顔が歪む。
 ジュルジュルッ・・・啜る音が、部屋に響く。

 その姿を見て、リリアナは悲鳴を上げそうになる。瞬間に、ジルベールがリリアナの口を押えて、後ろから抱きしめ、リリアナを支えた。

 男爵令嬢は、ルナルドの首から口を離すと、口の周りに血をにじませながら言った。
「あまり生意気だと、血を全部吸って殺してしまうかもしれない。気を付けることね。」
 
 ルナルドは、青い顔でグッタリとしたまま言った。
「・・・恋人になるとは、俺は言っていない。」
 女は立ち上がると、笑い出した。
「あの娘。何も知らずに、おまえを見て嬉しそうにして、見ているとイジメてやりたくなる。ちょっと、からかってやっただけじゃないか。」

 ルナルドの髪を掴むと、顔を上に向かせて、女は言った。
「おまえは、私に逆らえない。死ぬまで私に従え。」

 男爵令嬢は、笑い声をたててからコウモリに変身して、そのまま窓から飛び立って行った。


 何が起きているのか、頭が真っ白になる。

 生まれて初めて、吸血鬼を見た恐怖。
 ルナルドと、男爵令嬢の秘密を目の前にして動けなくなっていた。

 両手を口に当てて、涙をこぼしながら震えているリリアナを腕の中で感じて、ジルベールは肩に手を置く。無言のままで、人差し指を立てて口に当てるしぐさをして「静かに」と、目で訴える。
 そのまま、リリアナの手を引いて、隣の部屋に2人で移動した。

 少ししてから、ルナルドは応接室から出てきて、旧校舎から出て行った。


「・・・どうゆうこと・・・?」
 リリアナは、震えながらつぶやいた。

 ジルベールは、リリアナを見て背中をさする。
「君のお兄さんは、どうやら吸血鬼と関係を持っているようだね。しかも、あのままじゃ、いずれ食い殺されてしまいそうだ。」
 ブルリと体が震える。
「お兄様を助けなきゃ!」
 リリアナは真剣な顔で言った。その表情を見て、ジルベールが返す。
「どうやって?」
「解らないわ!でも・・・あぁ、そうだ!国に通報するわ!あの男爵令嬢が吸血鬼だって、退治してもらう!」
 すぐに国に通報しようと、リリアナは走りだした瞬間だった。
「待って。」
 ジルベールがリリアナの手を引っ張って、引き止める。

 冷たい目つきで、ジルベールは静かに言った。
「通報しなくていいよ。国から吸血鬼退治を任されているのは、この僕だ。」


 たっぷりと、間を空けてから、リリアナは呟く。
「・・・・・え?・・・」 
 その反応をジルベールは、静かに見守りながら、もう一度言った。
「国から吸血鬼退治を任されているのは、この僕だ。」

 言われている意味が、解らなくなる。
 言葉の意味は解る。だけど、1つ年上の青年が、吸血鬼退治を国から任されている??

「そうだね。意味が解らないよね。でもふざけて言ってるわけじゃないよ。ダンピールって聞いたことない?」
「ダンピール?」
 ジルベールの紫の目が、細められて、少し悲しそうに微笑む。
「昔から、ダンピールは吸血鬼を退治する能力を持っている。産まれるのはまれだから、いつの時代も存在するわけでは無い。だけど、そのダンピールが、この僕だってこと。」
 まじまじと、ジルベールを見つめる。
 見た目は、いたって普通で、屈強な男性というわけでもない。どちらかと言うと、すらっとした細身のジルベールに、吸血鬼退治する能力があるとは・・・。
 だけど、それなら。
「ねぇ、お願い!それなら、早く!早く吸血鬼をなんとかして!」
 リリアナは縋りついて言った。

 そんなリリアナを、静かに見つめてから、ジルベールは言った。
「じゃぁ、条件があると言ったら?」
「条件??」
 ジルベールは、リリアナの頭を優しく撫でた。

「あの吸血鬼を退治してあげる。その代わり、君は僕に抱かれるんだ。」
  
 目を見開いて、ジルベールを見る。
 彼は真剣な顔だった。茶化しているわけじゃない。

「あの吸血鬼を通報すれば、君のお兄さんとの関係が世間に知れるだろう。そうすれば、スペンサー伯爵家の評判は落ちる。だけどもし、内密に処理したいなら、僕のものになるんだ。」
 善人そうで優しそうな顔をして、この人は・・・。
 リリアナは後ずさり、両腕で自分を抱きしめて肘を握りしめる。
「・・・もちろん、君を愛して、優しくする。」

 返事が出来ずにいると、ジルベールは同情するように少しだけ微笑んで、私の肩に手を置いた。
「よく考えて、良い返事を待ってるよ。」
  
 
 そう言い残して、彼は立ち去った。 

  

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