吸血鬼と愛の鍵

月野さと

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第11話 4日前

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 翌日、目が覚めると、ルナルドの腕の中にいた。
 大好きな人の顔が目の前にあって、肌から伝わる温もりも、その穏やかな寝息も、私を幸せな気持ちにした。

 もう少しだけ、このままでいたくて、身動きを取らずに寝顔を見ていた。
 外はまだ雨が降っているのだろう。雨音が響いている。

 このまま、ずっと2人で助け合って、支え合って、きっと・・・。

 そんな事を考えていたら、ルナルドの目が、ゆっくりと開いていく。ふぅ~っと、息を吐きながら身動きをとって、視線が私の方を向く。
「・・・おはよう。もしかして、寝顔見てた?」
「うん。少年みたいな、子供の頃みたいに懐かしい顔してた。」
 そう言うと、ポッと少しだけ頬を染めて、ルナルドは恥ずかしそうに片手で顔を隠す。
「なにそれ、恥ずかしすぎる。俺がリリアナの寝顔見たかったのに。」
 なんだか愛おしくなって、そっと彼の頬に触れて、顔を近づける。
 ルナルドも気がついて、唇と唇をかさねる。

 抱きしめ合ってから、ルナルドが言った。
「雨・・・降ってるな。」
「うん。」
 ルナルドは、リリアナの額にキスをすると言った。
「出来るだけ早めに、ここを出たい。」
 真剣な顔を見て、私も頷く。

 馬車に乗り込むと、昨日からの豪雨で、あまり道が良くないと言われる。
 大きい街道を通りたくなかったルナルドは、渋い顔をしたけれども、しぶしぶその道を選んだ。

 馬車が走り出して、30分ほどだっただろうか。
 馬の嘶きと、馬車が止まる音がした。

 何事かとルナルドは窓の外を見る。すると、大きな声が聞こえてきた。
「ルナルド!!いるんだろう?!出てこい!」
 
 その大きな声は聞き覚えがあった。
「父上・・・」
 ルナルドは、そう呟くと、ギリッと歯を食いしばる。

「ルナルド!!家と領地をどうする気だ!!さっさと出てくるんだ!」

 お義父様の声に、体が震える。
 馬車の外に出ようとする、ルナルドの手を握った。
 ぎゅうっと握りしめて引っ張る私を、彼は見て、そっと手を乗せて言った。
「大丈夫。ここで待ってて。」

 そう言って、雨の中に彼は出て行った。

「ルナルド!おまえ、どうする気だ?駆け落ちでもする気なのか?!」
 お義父様の声が、雨と共に聞こえてくる。
「その通りです!俺の事は死んだとでも思ってください!」
「馬鹿な事を言うな!!家を捨てるなど、そんな身勝手なことなど許さん!!」
 そこへ、ガラガラガラと、もう1台の馬車が到着して、雨の中を出て来たのは母だった。
「ルナルド!リリアナ!もうやめてちょうだい!お願いだから家に戻って!」
「リリアナ!いるんだろう?!お母様を悲しませるんじゃない!」
 義父と母の声に、馬車から出て自分も話をしなくてはと思った瞬間、ルナルドの声がした。
「リリアナを、帰す気はありません!!!」

 馬車の扉に手を置いて、私は開けようとした手を止めた。
「俺は、彼女無しで生きていけない!リリアナは、俺の全てです!ここまで頑張って来れたのも、笑って生きて来られたのも、リリアナが居たからだ。俺にはリリアナが特別な存在なんです!!」 
 
 そこまで・・・そんなふうに、私を思っていたなんて。
 全然知らなかった。
 嬉しくて、目頭が熱くなる。 

 ルナルドの声が、響いてくる。
「俺は本気です!リリアナと結婚させてください!」
 少しの間があってから、お義父様の声がした。
「バカなことを言うな!そんなものは長い人生で一瞬の気の迷いだ!」
 それから母の声が続く。
「ルナルド。とにかく屋敷に帰りましょう。それから話しましょう。ね?」
「いいえ、戻りません!リリアナを騙したのは、あなた方だ!信用できない。」
「おまえというやつは!!」
 バシッ!!
 お義父様が、鞭でルナルドを打った。

 慌てて馬車の扉を開けて、叫んだ。
「やめて!!お義父様!やめて下さい!!」
 
 馬車から降りようと足を延ばした瞬間だった。

 ヒヒーーーーーン!!!
 馬が大きく嘶き、ガラガラと崖が崩れ始め、馬が後退してぶつかり合い、ちょうど馬の足元に少量の土砂が流れ込んだことで、パニックになった馬が暴れた。
 
 崖に車輪をとられて、グラリと馬車が傾く。
 私の目には、急に馬車が覆いかぶさってきたようにしか見えなかった。

 そのまま、上と下が解らなくなって、ぐるりと回転して10メートル下へと落ちた。

「リリアナ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
 母の悲鳴と、ルナルドの声を聞いた気がした。

 

 そこからは、何も見えない。

 何も思い出せない・・・。

 
 ルナルドが話してくれることで、映像のように頭に流れ込んできて、私は1ヵ月前からのことを思い出した。馬車に乗るのが怖かった意味が分かった。だけど・・・。

「私・・・崖から落ちたんだわ。物凄い衝撃で、痛くて、苦しくて・・・・それから」
「思い出さなくていい!その時の事なんか、思い出さないでいい!」
 馬の上で、ルナルドはリリアナを抱きしめる。

 馬で学校から家に向かって、ゆっくりと進み、もう少しで伯爵家が見えてくるというところだった。抱きしめる、ルナルドの腕に手を置く。

「でも・・・どうして?崖から落ちたはずなのに、私・・・どこもなんともない。」
 ルナルドを見ると、眉を寄せて、少し言いずらそうにして口を開きかけた。

 その時、スーーーッとコウモリが飛んで来て、言った。

「話は終わったのかい?」
 コウモリは女の声で、しゃべった。
 ルナルドは、警戒する様子を見せて、馬の手綱を持ち直す。

「話しかけてくるな!」
 ルナルドが言うと、コウモリはリリアナを見て、目の前で飛びながら言った。
「話は終わったんだろう?今日は、ルナルドじゃなくて、お前に話があるんだ。ついてきな。」
「え?私?」
「そうだよ。コウモリに変身するのは、簡単だ。念じるだけだ。さっさとしな!」
 
 ルナルドは叫んで、リリアナを片手で抱え込む。
「ダメだ!やめろ!リリアナ!こいつの話を聞くな!」

 もはや、なんの話をしているのか、わけがわからなくなる。

「イライラさせるんじゃないよ!このあたしが、面倒見てやろうってのに!仲間同士の話に人間が入ってくるんじゃない!!」
 
 くるりと、私の方に向き直って、コウモリは言った。
「ほら、何ぐずぐずしてるんだい。あんた、吸血鬼として、一生生きていくんだ。早くコウモリに変身しな。」

 ・・・・え?

「私・・・?」

「・・・はぁ。まだ話してないのかい。リリアナ。あんたは吸血鬼になったんだ。教えてやるから、早く来な。」


 ・・・・え?



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