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第13話
しおりを挟む馬車が崖から落ちていく。
物凄い轟音が響き渡り、女性の悲鳴が響き渡った。
「いやぁぁあああ!リリアナーーー!!リリアナ!!」
伯爵夫人は、一心不乱に崖の傍まで駈け寄り、それを伯爵が止める。
ルナルドは、崖の両脇を見て、降りられそうな場所を見つけて、転がる様に降りていく。泥だらけになりながら、殆ど大破した馬車の傍に駆け寄り、瓦礫をどかしはじめる。伯爵家の馬車ではなく、見つかり難いように木造の古い馬車に乗り換えていたので、簡単に大破してしまっていた。
やっとの思いで、リリアナを見つけ出した。
しかし、彼女の頭部からは大量の血が流れて、引っ張り出そうとして気がつく。
脇腹には、馬車の破片が突き刺さっていた。
「・・・リリ・・・アナ・・・」
リリアナは、ぐったりとして、全く動く気配が無い。
とにかく、雨のしのげる木の下へ運ぼうと抱き上げると、腹部の傷口から、ドロッと血が溢れてくる。急いで木の下まで運んで、膝の上に乗せて抱きかかえたまま、頬に手を伸ばす。
自分の手が、信じられない程に震えていた。
「・・・リリアナ?」
呼びかけても、全く反応が無い。
頬に触れると、ほのかに温かかった。
「リリアナ・・・リリアナ・・・・頼む。目を開けてくれ・・・リリアナっ!」
動かないリリアナを抱きかかえたまま、ルナルドは頬ずりして、しゃがみ込む。
「・・・ウソだ・・・こんなの・・・嘘だ・・・。」
ルナルドの声は、雨の音に、かき消されそうだった。
嘘だ!こんなの嘘だ!
現実を受け入れられず、徐々に冷たくなっていくリリアナの体を抱きしめていた。
冷たくなっていくことで、彼女は死へと旅立ってい行こうとしているのだと、自分とは、永遠の別れになるのだという実感と恐怖心が、体を襲い始める。
「リリアナ!!リリアナ!」
行かないでくれ!どうしたって、手の届かない場所に・・・・もう二度と会えない場所に、行かないでくれ!
『元気で笑っててくれるだけで、それだけでいい』
子供の頃のリリアナの声が聞こえる。あの時から、ずっと、ずっと、俺の中で響いて来る声。
『完璧じゃなくていい!』
ずっと俺を支えている言葉。
『大丈夫だよ』
根拠なんて要らない。
おまえの傍だけが、俺の居場所だった。
リリアナが傍にいてくれることが、俺を動かす原動力だった。
「リリアナのいない世界でなんか、生きていけない。」
絶望の淵にいたルナルドは、涙を流しながら、反応の無いリリアナに話しかけていた。
「なぁ、リリアナ。一緒にいよう?ずっとずっと、何があっても一緒だ。だから、1人で死ぬなんて、そんなのダメだ。」
すると、突然、木の上から声がした。
「死臭がするねぇ。死ぬ気なら、お前の血をよこしな。」
ルナルドは、閉じていた目を開けて、木の上を見る。
そこには、コウモリが枝に止まっていた。目が合うなり言う。
「おまえ、その娘と一緒に死にたいんだろう?なら、お前の血を、私によこせ。今すぐ一緒に死なせてやるわ。」
目を見開いて、喋るコウモリを見つめる。
待ちきれないと言わんばかりに、コウモリは人間の姿に変身すると、ルナルドの前に立った。
現れたのは、吸血鬼のシャティだった。
「おまえは・・・吸血鬼か?」
そうルナルドが問うと、シャティは笑った。
「かなり空腹の吸血鬼さ。さぁ、おまえの血をおくれ?」
そこへ、ルナルドと同じように崖を下ってきた伯爵が走って来る。
「ルナルド!!そいつは吸血鬼だ!血の匂いに誘われてやって来たか!」
伯爵は吸血鬼のシャティに、剣を向けた。
「おや、不味そうで面倒なのが来た。」
女吸血鬼シャティが言った。
ルナルドは、構わずに吸血鬼に言った。
「おまえが本物の吸血鬼なら、構わない。俺の血をくれてやる。」
シャティはニヤリと笑う。
伯爵と、降りてきた伯爵夫人が声を上げる。
「何を言っているんだ!ルナルド!!」
「ルナルド!いけません!・・・リリアナだけではなく、あなたまで!!・・・うぅ・・!」
ルナルドは、リリアナを抱きしめなおして、自分の首にリリアナの額をくっつける。そして、囁く声で言った。
「リリアナ。俺たちはずっと、ずっと一緒だ。なぁ、いいだろう?」
その小さな囁きは、ルナルドと吸血鬼のシャティにしか聞こえなかった。
「ルナルド!!」
伯爵の声など、全く聞こえていないかのように、ルナルドは、吸血鬼を見上げて言う。
「おまえにこの命をくれてやる。俺には、彼女の居ない世界は、なんの意味もない。」
吸血鬼のシャティは、じっとルナルドを見てから、少し考える素振りを見せて言った。
「気が変わったわ。その娘を蘇らせてやるから、おまえの血を週1で私に飲ませるんだ。」
ルナルドの目が、大きく見開いてポカンとする。
「蘇らせる・・・?」
シャティが頷く。
「そうだよ。その娘を生き返らせて、もう1度、何もかも元通りだ。その代わり、おまえは私が求める限り、いつでも、どんな時も、私の餌として血を飲ませるんだ。」
ルナルドの目に光が灯り始める。
「蘇らせてくれ!リリアナを、生き返らせてくれるなら、何でもする!」
縋りつくようにルナルドは、シャティに言った。
「ルナルド!何を言っているんだ!?いかん!吸血鬼の言うことなど信じるな!!そいつは・・・」
吸血鬼のシャティは、伯爵を見るなり、物凄い眼力で睨みつける。
「おだまり!!肉を引き裂いて喰っちまうよ!!このくそジジイ!!」
リリアナを生き返らせる。その言葉に、ルナルドは囚われた。
「頼む!!リリアナを生き返らせてくれ!何でもする!おまえの奴隷にでもなんにでもなってやる!」
吸血鬼のシャティは、ニヤリと不気味に笑いながら、ルナルドの頬に触れる。
「愛する女の為に、何でもするなんて。フフフ。命までかけるとは、美しく綺麗な愛だこと。」
そう言いながら、シャティは、自分の腕をナイフで切る。
だいぶ深い傷から、ボタボタと血が流れ始めた。しゃがみこんで、リリアナの口に、その血を流し込んでいく。
「私の血を飲めば、彼女は吸血鬼になる。つまり未来永劫、歳をとる事もなく、死ぬこともない吸血鬼として蘇る。」
シャティの言葉に、ルナルドは驚く。
「吸血鬼?」
「死んだ人間が蘇るのに、本当に全て元通りだとでも思ったかい?甘いね。壊れたものが完全に元に戻る事などありえない。あたりまえだろう?」
そう言うと、吸血鬼のシャティは、リリアナの腹部から刺さった瓦礫を引き抜く。
「ほら見なさいな。傷はすぐに消えるわ。」
ルナルドが、視線を移すと、確かに腹部の傷はすっかり何事も無かったかのように、消えていた。
「リリアナ?」
ルナルドは、リリアナの頬に触れて、口元に頬を近づける。
ふーーっと、小さな息をしているのが解る。
吸血鬼のシャティは、ルナルドの背後に回って、彼の肩に手を置くと、言った。
「約束のものを頂くよ。」
ガブリッと、背後からルナルドの右肩に噛みつく。
「っ!!」
じゅるじゅると吸いだし、それを見た伯爵夫妻は、悲鳴を上げて尻もちをついた。
「ぷはぁっ、美味い!おまえの血は癖になりそうなくらい美味いわ。」
シャティは、ルナルドの首すじをペロリと舐めて、血を残らずなめる。
「フフフ。これで、おまえは私の餌だ。あーーはっはっはっは。」
笑いながら、コウモリに変身すると、さっさと飛び立って行った。
そこで、映像がプツリと終わる。
シャティのセンスで銀のドレスを着させられたリリアナは、シャティを見上げる。
「これでわかったかい?お姫様。愛する王子様が、泣きながら私にお願いしたのさ。おまえを生き返らせろとね。ついでに、吸血鬼として永遠の命を手に入れたんだ。ラッキーだろう?」
永遠の命?
年をとることは無い・・・つまり、ルナルドは年老いて、いつか・・・。
「さぁ、飛んでついておいで!食事にいくよ!」
・・・・。
頭がクラクラする。
私は、もう人間ではない・・・という現実が、頭を混乱させて、強い口調のシャティに、ついついついて行った。
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