吸血鬼と愛の鍵

月野さと

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第22話

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 リリアナは、ジルベールの家に飛んで行った。

 ロジャー家に侵入して、人間の姿に戻ると、ジルベールの自室の扉をノックする。すると、中から「どうぞ」と声がした。扉を開けると、ジルベールはニコニコと微笑んだ。
「おかえり。」
 心底安心したとでも言わんばかりの表情だった。

 私は、深く頭を下げる。
「ジルベール様。本当にごめんなさい。使用人の方々にも、あんな怖い思いをさせて、本当に申し訳なかったわ。」
 ジルベールは、眉を少し動かして「そうでもない」という表情をして見せる。
「まぁ、気にしないで。この家の使用人は、吸血鬼に慣れないとやっていけないからね。それよりも、帰ってきてくれて、本当に良かったよ。伝えたいことがあるんだ。」
「私も、あるんです!」
 私は自分の決心が揺らぐ前にと、ジルベールの話を無視する。
「とにかく、君が帰ってきたことを、ルナルドに知らせよう!きっと、まだどこかで君を探して・・・!!」
 私は、ジルベール様をめがけて、突進した。
「うわっ!!」
 ドン!!っと体当たりをして、大きな3人掛けであろうソファーに彼を押し倒す。
「リ・・・リリアナ嬢?」
「私を抱いてください!!」
 ジルベールは、目を見開いてリリアナを見た。
「お願いです!今すぐ!今すぐにお願いします!!」
 私は、お願いしながら、ジルベール様の服を脱がしていく。震える手で、シャツのボタンを外していく。
「まっ・・・待つんだ、リリアナ嬢!」
「お願いです!何も言わないで、何も聞かないで!私を抱いてください!私を人間に戻して!!」
 
 もう、充分だと思った。
 こんなにも愛されて育てられ、命をかけて私を愛してくれる人がいる。
 だから、私も命をかけて、愛する人を守るの。
 何がなんでも、愛する人を守るの!

「お、落ち着いて!とにかく話をっ!!」
「お願い!何も言わないで!気持ちが揺らぐ前に、今すぐに、消えたいんです!!」
 ベルトに手をかけて、ガチャガチャと外そうとすると、ジルベールが手で制止する。その目を見て、睨む。
「あぁ、僕には吸血鬼の眼力は効かないよ?それから、君は、僕に抱かれても消えない。死んで無かったんだよ。」

 ・・・・え?

 私は、ジルベール様の上に乗ったまま、彼を見下ろして、ポカンとした。

「君は死んでいなかった。だから、君は人間に戻って生きれる!」

「・・・え?」

 突然のことで、何がなんだか飲み込めなかった。

 
 
◇◇◇◇



 ロジャー家に呼ばれて来たルナルドは、部屋に入ってくるなり、リリアナを抱きしめて、喜んだ。

「リリアナ!良かった。」
 私は嬉しさもあるけれど、気が急いてしまって慌てて話す。
「ルナルド!私、私ね、生きれるかもしれないの!ジルベール様が!」
 ルナルドは笑って、大きく何度も頷く。私の頭を撫でながら、落ち着かせようとする。  
「うん。うん、そうなんだ。リリアナは死んではいない。だから、戻れるんだ!俺が、必ず人間に戻す!」
 
 そして、彼女はもうこの世に存在しないことも、この時に聞かされて知った。

 私は、シャティの事を思い起こす。
 どうしても、彼女を怖いとか、嫌いにはなれなかった。
 結局、私は彼女に救われた事実は変わらない。

 ソファーで、隣に座ったルナルドが、私の手を握ったまま離さない。
 再会してから、ずっと、そうしていてくれる事が、私を安心させた。
 そっと見上げると、ルナルドは、私に視線を落として、優しく微笑んだ。
 
 ジルベールは、執事に箱を持って来させると、目の前のテーブルに置く。そして、蓋を開けて中に納まっている鍵を見せた。
「これが、ダンピールだけが持っている鍵だ。愛の鍵とも呼ばれているものだよ。」
 その鍵は真っ白で、人の骨で出来ているようにも見えた。
 不思議と青白く見えるような気もする。

「この鍵を、ここ、心臓に刺す。愛している者だけが、その扉を開ける事が出来る。」
 そう言って、ジルベールは自分の胸に指を当てて説明する。
「言い伝えでは、扉の中には、邪悪な物や惑わすモノがいるらしいけど、それには惑わされずに先に進んで、彼女を見つけ出すんだ。見つけたら、連れてきて一緒に出てきて欲しい。そうすれば、人間に戻る事が出来る。」

 真剣な顔で説明するジルベールに、ルナルドは頷く。
「わかった。タイムリミットはあるのか?」
「いや、無い。2人が出てくるまでは、こちらとしては2人とも眠った状態になる。出てくるまでは、責任もって我々で監視するよ。あぁ、ただ、寿命が尽きるまでには戻って来て欲しいね♪そういう意味では、タイムリミットはあるかな。」
 ははは。と、軽い感じで笑うジルベールに、ふと気になって質問する。
「あの・・・もしも、もしも、私を見つけられなかったり、連れて帰って来れ無かったら?」
 私の質問に、ルナルドが握りしめた手の力を強めて言う。
「そんなことはあり得ない!絶対に見つけ出してやる!」
「ルナルド・・・だけど、万が一ってことも。危険があるかもしれないし、その時は・・・」
 私の不安に、ジルベールが言う。
「まぁ、そうだね。万が一失敗すれば、君は自分自身を失うことになるだろう。その時は、僕の出番というわけだ。」
「そんな事はさせない!」
 すぐさま、ルナルドは強い口調で断言する。  

「また、私は何も出来ないのね?私も、何か、ルナルドの為に出来る事をしたいのに。」
 そう言うと、ルナルドは私の両頬を手で覆って言う。その手が、温かかった。
「覚えていないだろうけど、リリアナは、俺に生きる希望をくれた。いつも、安らぎや笑顔をくれた。それが、どれだけ大きな力になったのか、おまえは知らないんだ。」
 そのまま、私の唇にキスをする。
「こうして、俺の気持ちを受け入れてくれるだけでも、どれほど嬉しいか、解らない?」
 ルナルドの瞳が、ゆらりと揺れて、その瞳を見ているだけで、胸がいっぱいになる。
「リリアナが、俺を信じてくれたら、それだけで、何でもできる気がする。だから、信じて。」

 ずっと、傍にいる。
 そう言った言葉の意味、覚悟を、私はわかっているようで、解っていなかったのかもしれない。

「リリアナ。俺を信じて。」

 信じて待つというのは、かなり辛く苦しい事でもある。根気がいるし、それこそ強い信念が必要なのだろう。

「うん。わかった。待ってる。ルナルドを信じる!」
 あなたとの未来を、信じて待つよ。

 

  
 


 
 
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