吸血鬼と愛の鍵

月野さと

文字の大きさ
22 / 24

第22話

しおりを挟む
 リリアナは、ジルベールの家に飛んで行った。

 ロジャー家に侵入して、人間の姿に戻ると、ジルベールの自室の扉をノックする。すると、中から「どうぞ」と声がした。扉を開けると、ジルベールはニコニコと微笑んだ。
「おかえり。」
 心底安心したとでも言わんばかりの表情だった。

 私は、深く頭を下げる。
「ジルベール様。本当にごめんなさい。使用人の方々にも、あんな怖い思いをさせて、本当に申し訳なかったわ。」
 ジルベールは、眉を少し動かして「そうでもない」という表情をして見せる。
「まぁ、気にしないで。この家の使用人は、吸血鬼に慣れないとやっていけないからね。それよりも、帰ってきてくれて、本当に良かったよ。伝えたいことがあるんだ。」
「私も、あるんです!」
 私は自分の決心が揺らぐ前にと、ジルベールの話を無視する。
「とにかく、君が帰ってきたことを、ルナルドに知らせよう!きっと、まだどこかで君を探して・・・!!」
 私は、ジルベール様をめがけて、突進した。
「うわっ!!」
 ドン!!っと体当たりをして、大きな3人掛けであろうソファーに彼を押し倒す。
「リ・・・リリアナ嬢?」
「私を抱いてください!!」
 ジルベールは、目を見開いてリリアナを見た。
「お願いです!今すぐ!今すぐにお願いします!!」
 私は、お願いしながら、ジルベール様の服を脱がしていく。震える手で、シャツのボタンを外していく。
「まっ・・・待つんだ、リリアナ嬢!」
「お願いです!何も言わないで、何も聞かないで!私を抱いてください!私を人間に戻して!!」
 
 もう、充分だと思った。
 こんなにも愛されて育てられ、命をかけて私を愛してくれる人がいる。
 だから、私も命をかけて、愛する人を守るの。
 何がなんでも、愛する人を守るの!

「お、落ち着いて!とにかく話をっ!!」
「お願い!何も言わないで!気持ちが揺らぐ前に、今すぐに、消えたいんです!!」
 ベルトに手をかけて、ガチャガチャと外そうとすると、ジルベールが手で制止する。その目を見て、睨む。
「あぁ、僕には吸血鬼の眼力は効かないよ?それから、君は、僕に抱かれても消えない。死んで無かったんだよ。」

 ・・・・え?

 私は、ジルベール様の上に乗ったまま、彼を見下ろして、ポカンとした。

「君は死んでいなかった。だから、君は人間に戻って生きれる!」

「・・・え?」

 突然のことで、何がなんだか飲み込めなかった。

 
 
◇◇◇◇



 ロジャー家に呼ばれて来たルナルドは、部屋に入ってくるなり、リリアナを抱きしめて、喜んだ。

「リリアナ!良かった。」
 私は嬉しさもあるけれど、気が急いてしまって慌てて話す。
「ルナルド!私、私ね、生きれるかもしれないの!ジルベール様が!」
 ルナルドは笑って、大きく何度も頷く。私の頭を撫でながら、落ち着かせようとする。  
「うん。うん、そうなんだ。リリアナは死んではいない。だから、戻れるんだ!俺が、必ず人間に戻す!」
 
 そして、彼女はもうこの世に存在しないことも、この時に聞かされて知った。

 私は、シャティの事を思い起こす。
 どうしても、彼女を怖いとか、嫌いにはなれなかった。
 結局、私は彼女に救われた事実は変わらない。

 ソファーで、隣に座ったルナルドが、私の手を握ったまま離さない。
 再会してから、ずっと、そうしていてくれる事が、私を安心させた。
 そっと見上げると、ルナルドは、私に視線を落として、優しく微笑んだ。
 
 ジルベールは、執事に箱を持って来させると、目の前のテーブルに置く。そして、蓋を開けて中に納まっている鍵を見せた。
「これが、ダンピールだけが持っている鍵だ。愛の鍵とも呼ばれているものだよ。」
 その鍵は真っ白で、人の骨で出来ているようにも見えた。
 不思議と青白く見えるような気もする。

「この鍵を、ここ、心臓に刺す。愛している者だけが、その扉を開ける事が出来る。」
 そう言って、ジルベールは自分の胸に指を当てて説明する。
「言い伝えでは、扉の中には、邪悪な物や惑わすモノがいるらしいけど、それには惑わされずに先に進んで、彼女を見つけ出すんだ。見つけたら、連れてきて一緒に出てきて欲しい。そうすれば、人間に戻る事が出来る。」

 真剣な顔で説明するジルベールに、ルナルドは頷く。
「わかった。タイムリミットはあるのか?」
「いや、無い。2人が出てくるまでは、こちらとしては2人とも眠った状態になる。出てくるまでは、責任もって我々で監視するよ。あぁ、ただ、寿命が尽きるまでには戻って来て欲しいね♪そういう意味では、タイムリミットはあるかな。」
 ははは。と、軽い感じで笑うジルベールに、ふと気になって質問する。
「あの・・・もしも、もしも、私を見つけられなかったり、連れて帰って来れ無かったら?」
 私の質問に、ルナルドが握りしめた手の力を強めて言う。
「そんなことはあり得ない!絶対に見つけ出してやる!」
「ルナルド・・・だけど、万が一ってことも。危険があるかもしれないし、その時は・・・」
 私の不安に、ジルベールが言う。
「まぁ、そうだね。万が一失敗すれば、君は自分自身を失うことになるだろう。その時は、僕の出番というわけだ。」
「そんな事はさせない!」
 すぐさま、ルナルドは強い口調で断言する。  

「また、私は何も出来ないのね?私も、何か、ルナルドの為に出来る事をしたいのに。」
 そう言うと、ルナルドは私の両頬を手で覆って言う。その手が、温かかった。
「覚えていないだろうけど、リリアナは、俺に生きる希望をくれた。いつも、安らぎや笑顔をくれた。それが、どれだけ大きな力になったのか、おまえは知らないんだ。」
 そのまま、私の唇にキスをする。
「こうして、俺の気持ちを受け入れてくれるだけでも、どれほど嬉しいか、解らない?」
 ルナルドの瞳が、ゆらりと揺れて、その瞳を見ているだけで、胸がいっぱいになる。
「リリアナが、俺を信じてくれたら、それだけで、何でもできる気がする。だから、信じて。」

 ずっと、傍にいる。
 そう言った言葉の意味、覚悟を、私はわかっているようで、解っていなかったのかもしれない。

「リリアナ。俺を信じて。」

 信じて待つというのは、かなり辛く苦しい事でもある。根気がいるし、それこそ強い信念が必要なのだろう。

「うん。わかった。待ってる。ルナルドを信じる!」
 あなたとの未来を、信じて待つよ。

 

  
 


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募予定作品です。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。

番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。

処理中です...