君の矛先

月野さと

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第9話

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 その夜、眠れなかった。
 ベッドから降りて、窓のカーテンを開けると、雨が降っていた。しとしとと、霧雨だ。

 雨に呼ばれるように、部屋を出て、中庭に隣接している廊下を歩いてみる。
 1度、城内を警備している騎士に会ったけれど、何も言われなかった。
 
 「うー--ん。静かな夜。」伸びをして深呼吸する。
 雨の匂いと湿った空気が肺に入り込んでくる。
 
 人の気配で振り向くと、廊下の前方からフィリックス皇太子が歩いてきた。
 この人とは、本当によく合うなぁ~とウンザリする。広いお城なのに、どうして会いたくも無いのに会うのかなぁ~。

 「あれ?レオノーラ嬢じゃないか。こんな夜更けにどうしたの?」
 側近のロンだけ連れている。
 「こんばんは、殿下。少し眠れなくて。」
 「そっかぁ。じゃ、僕と一緒に寝る?」
 「・・・ご冗談を。」
 棒読みで返答する。

 はぁ、と目をそらした先に、なにかキラリと光る。
 中庭の木の陰。再びキラリと光った。
 目をこらして・・・・あ!
 
「殿下!!!」

 とっさにフィリックス皇太子に思いっきり体当たりをして、引っ張り倒す。
 そのまま、2人で倒れこむ。
 ビュン!!という鋭い音とともに、矢が飛んでくる。

 それと同時に、3人の黒ずくめの男が飛び出て来た。
「曲者!!」
 ロンが応戦する。
 レオノーラは驚いていた。まさか・・・・刺客??
 フィリックスも剣を引き抜き、素速く立ち向かう。

 レオノーラも頭が真っ白になりながら、近くにあった鎧の置物から剣を抜き取る。
 2人同時にフィリックスに飛び掛かるのを見て、加勢する。
 すぐに皇太子の背後について、振り下ろされる剣を、剣で払う。
 受けた剣の重さに、相手の殺気を感じて怖気づきそうになった。

 やっと、騒ぎに気が付いた城の兵士たちが、数名走ってくきて声を上げた。
「何者だ!!曲者ー---!!!」
 
 それを見て、刺客は「ち!」と言い残して逃げていく。
 レオノーラは、逃げていく3人を見えなくなるまで、呆然と見送る。

「レオノーラ嬢。」
 レオノーラの心臓はバクバクと破裂しそうなほどの動悸だった。
「レオノーラ嬢?」
 さっき受けた剣の重さで、痺れて腕がビリビリする。
 生まれてはじめて、あんな剣を受けた。私を本気で殺す気だった。
「レオノーラ!」
 ビクリとして振り返ると、皇太子が心配そうにこちらを見ている。
「殿下・・・大丈夫ですか?お怪我は?」
 皇太子の腕に触れる。一応、背中も確認する。
 側近のロンが、レオノーラに声をかける。
「ありがとうございます、レオノーラ嬢。あなたのおかげで助かりました。しかし、本当に驚きました。剣を手に刺客に立ち向かうなど、並みの女性では咄嗟に難しいでしょう。」

 震えが止まらない腕を、自分の手で掴む。
 バクバクと動機が治まらない。深呼吸をして落ち着かせる。
「いえ・・・本当に、無事でよかったです。私も本当の闘いなんて、初め・・・」
 話してる途中で、フィリックス皇太子に抱きしめられた。
「?!」 
「ありがとう。レオノーラ。」
 いつもの、お調子者のひょうきんな声ではなくて、真面目な声で、お礼を言われたのでビックリした。
 

 その後は、お城の騎士たちを増員して警備に当たるよう支持をして、こちらを見る。
 皇太子が「部屋まで送るよ。」と言って聞かないので、ロンと3人で歩き出す。

「こうゆう事って、よくあるんですか?」
 と、レオノーラが質問する。
「・・・いや、今までは無かったかな。」
 フィリックスは、少しだけ考えて返答した。
「そうですか。・・・ロンだけじゃ心もとないのでは?」
「え・・・レオノーラ様!!それはどうゆう!!」
 ロンが慌てる。
 それを見て、少し訂正する。
「人数の問題ですよ。もう少し護衛を増やした方が良いという意味です。この国を統べる皇太子なのですから、今後は護衛を増やしたほうが良いかと!」
「まぁ、それは確かにそうですね。」
「じゃぁ、レオノーラが妃として僕の隣に、ずっといればいいんじゃない?」
 ニコニコと、いつものチャラい皇太子に戻っている。
 いつの間にか、呼び捨てになってるし・・・。まぁ、私の口出す問題じゃないか。
「そうだ、殿下にお願いがあります。」
「ん?何々?添い寝してあげる?」
「・・・(ったく、アホか。)護身用の短剣が欲しいです。」
 男2人がポカンとする。
「今日みたいに何かがあった時に、武器は必須ですよ。今日はたまたま剣を見つけましたが、いつもというわけには行きません。」
 ニヤリとフィリックスは笑う。
 一歩前に踏みでて、壁にレオノーラを追い込み、囲う。
 
「頼もしいな。これからも、君が身を挺して守ってくれるの??私の為に?もしかして、私を好きになってしまった?」
 息を感じるほどに殿下の顔が間近にせまる。
 瞬間に皇太子の綺麗な鼻を、思いっきり力を込めて摘まむ。
「いたたたたたた!」
「もう!ふざけないで下さい!」
 ではお休みなさい!とドアを閉めて部屋に入る。
 
 フィリックスは、おかしそうに笑いだす。
 ロンが、声をかける。
「殿下、あまりからかうのは良くないかと。しかも、地が出て『私』と言ってしまってましたよ。」
 笑いながら、鼻を押さえて、壁に背を付ける。
「ははは・・・はぁ、・・・そうだね。自分でもびっくりしたよ。あんな子は初めてだよ。」

 フィリックスは自分の中に込み上げてくる感情に、戸惑っていた。
 レオノーラの強く凛々しい姿に魅了されて、ふと見せる涙に愛しさを感じていた。

 このまま彼女を無理やり自分のものにすれば、おそらくエドワードとの間に軋轢が生じる。
 彼女が欲しいとう感情と、政治的な問題の狭間で葛藤する。

 手の届かぬ物ほど、魅力的に見えるのだろう。
 フィリックスは、なんとか自分に言い聞かせた。

   

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