雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

文字の大きさ
20 / 33

Episode 20 村人たちと女将さん

しおりを挟む
 まどろみの中。

 お日様の匂いに包まれて、ほかほか温かくて気持ちいい。
 抱きしめてくれる大きな腕に安心感があって、安らいでしまう。この腕の中なら大丈夫だって思える。おでこ辺りに、寝息が、ふすーーっと当たってきて、少しくすぐったくて、場所をずらすと、顎の先が額に当たって、そこをグリグリと額でこする。そうしたら、後頭部を押されて引き寄せられて、私の唇が誰かの鎖骨に当たって、目を開ける。

 狭いベッドで、ジャンと私は抱き合って眠っていた。

「!?」 
 心臓が、ドッドッドッドッ!!と激しく脈打ち始める。顔!顔が近すぎる!!あ!?私の足~~!!なんでジャンの足の上に乗せてんのよ!?私のバカバカバカ~!足癖悪い!嫌われる!!
 ・・・足を動かしたら、起きちゃうかな?このまま、寝たフリする?いやいや、ジャンを起こす??あ・・・でもでも、私を看病して疲れているのかも!!と、とにかく落ち着いて!!私!!落ち着くのよ!!

 ひとしきり、一人でパニックになってから、どうする事もできずに、ただジャンを眺めた。

 凄くよく寝てる。
 起きそうにないな。本当に、疲れているのかもしれない。
 そうだよね。私の面倒とか色々気を使ってくれているもんね。
 なんか、私が居なかったほうが、ジャンは楽だったのかな?とか。この旅をしながら、時々思っていた。きっと、私が居ない方が、もっとスムーズに旅が出来た筈だ。
 ・・・・あぁ、ダメダメ。そうゆう考えは良くない。私の取柄は、ポジティブな事なんだから!何か恩返しとか、役に立てることを探せばいいんだ。

 そんな事を考えていると、ジャンが目を覚ましそうな動きを見せたので、慌てて目を閉じる!!

「・・・」

 黙って寝たふりをしていると、ジャンが上半身を起こして、布団を肩の上まで私にかけてくれるのを感じる。本当に優しいんだから♪なんて、ホカホカした気持ちで狸寝入りを続けると、ジャンは、私の額に手を置いて、熱を確かめているみたい。
 うん。もう大丈夫だよ♪と心の中で答えてみる。
 サラサラの大きな手が、するりと滑らせてきて、私の頬を撫でる。
 その心地の良い感触に、心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。なんとか必死に、寝たふりを決め込んでいるのに、次の感触に心臓が止まりそうになった。

 突然、唇に、柔らかい唇の感触だった。

 えっ?ジャン?!

 数秒後、ベッドが軋んで降りて行く音がする。

 私の心臓が、爆発しそうな位にバクバクと、うるさく鳴り響く。 
 
 パタン。と、部屋の扉が閉まる音がして、私は飛び起きた。 
 両手を自分の口に当てて、困惑して固まる。

 キ・・・キス・・・した?・・・なんで? 

 頭の中をぐるぐる思考する。
 ジャンとキスしたのは2回目?3回目?だけど、あの時は、なんか、流れでなんとなくというか。でも、今のは・・・。

 そんな事を考えてパニックになっていると、部屋の外から声がする。
「どうだい?体調は良くなったかい?」
 宿の女将さんの声だった。
「熱は下がったので、もう大丈夫かと。」
「そうかい!それは良かったよ。今、朝食を持って行ってあげようと思ってさ、他のお客さんは皆、食べ終わったしね。」
「ありがとう。ただ、まだ寝ているんだ。」  
「じゃぁ、起きたら食べさせてあげな。」
 ガチャリ、と扉が開く音と共に、鍋を持った女将と、ジャンが入って来る。

 女将は、私の顔を見るなり、ニカっと笑った。
「おや、起きたのかい?具合はどう?軟らかく煮たラーニャを持って来たんだよ。食べられるかい?」
 私は、ベッドで上半身を起こしたままで挨拶する。
「ありがとうございます。ご心配をおかけましました。」
 女将は、テーブルに鍋を置くと、持ってきた小さい器に、トロトロの食べものを入れる。私が不思議そうに見ているのを見て、説明してくれた。
「これはね、ここらの郷土料理なんだよ。体調が悪い時によく食べるんだ。ラーニャと言って、ライの実を野菜スープで柔らかく煮たものさ。」
 見た目、おかゆに見えた。透き通ったスープでコンソメっぽい。
 手渡されたので、そのまま、少し口に運ぶ。
「・・・・美味しい。」
 なんか、優しい味が、五臓六腑に染みわたる。
「とっても美味しいです!この、ライの実?って言うんですか?少し甘くて美味しい。」
 私が食べる姿を見て、ホッとした表情で、女将は話しだした。
「病み上がりなんだ。それを食べたら、もう少し眠るといいよ。今日から2人部屋が空くから、移動するといい。」
 その言葉に、ジャンが難しい顔で言った。
「ありがたいが、今日、この町を出るつもりだ。」
「何言ってるんだい?!病み上がりの子にムリさせるんじゃないよ!」 
 ジャンは、眉間に皺を寄せて俯く。その姿を見て、私は彼の袖を掴む。ジャンは無言のままで私を見た。その目が、申し訳なさそうだった。ジャンの考えていることもわかる。大きい町で長居をしたくないのだ。
「私は大丈夫だよ。」
 歯を見せて笑うと、ジャンの顔が少し緩む。

「あんたたち、異国から来たんだろう?ちょっと噂になってるよ。」
「え?」
 噂??

 女将の話はこうだった。
 昨日、医者が宿屋にやって来て、ルナの診察が終わって帰ろうとした時だった。

町人A「おい先生!どうだった?」
医者 「あぁ、旅の疲れから発熱しただけだろう。流行り病や重い病気ではなさそうだよ。」
町人B「先生、違うよ!そうじゃなくてよ、あの娘さん、真珠のように真っ白い肌だったじゃねぇか!そこらの町娘じゃねぇ!」
町人A「えっ!?じゃぁ、何者だよ?」
町人B「そりゃおめぇ、どこぞの貴族か姫君じゃねぇのか?」
町人C「あの男も、かなりの美男子だったもんねぇ。」
町人A「姫君と騎士の・・・駆け落ちかなんかか?」
町人B「違いねぇ!!」
医者 「おいおい、勝手にそんな・・・。とにかく、そうっとしておいてやりなさい。」
町人B「でもよ?あの男は、体格からして騎士という感じじゃないよな?」
町人A「じゃ、おめぇ、あれだ!使用人ってところか?駆け落ちだしな?」
町人C「駆け落ちだしねぇ~。身分違いって所だろうねぇ。」
女将 「うーーん。確かに、夫婦って言葉に2人とも赤面してたし、娘さんの方は、手も綺麗で仕事なんてした事無さそうな、育ちの良さそうな感じだったもんねぇ。」
町人A「だろ?だろ~?」

 女将は、全く悪びれもせずに、昨日あった話をしてくれた。
「まぁ、本当の所は聞かないでおくけどさ。何か困ってるなら言いなさいな。力になれる事も、あるかもしれないじゃないか。」
 どうやら、とんでもない噂をされているようなのだけれど、心は優しそうな人で良かった。私は、はははと、苦笑いを浮かべる。
 ジャンは、無表情のままで女将さんに言った。
「もう少しだけ休ませてから、この街を出る。」
 その言葉に、女将さんは、ジャンの顔と私の顔を交互に見た。
「目的地は近いのかい?」
 私は、チラッとジャンの顔を見る。ジャンは無表情のままで、その質問には答えずに言った。
「先を急ぐんだ。本当に世話になった。ありがとう。」
 相変わらずの有無を言わせない感じに、女将さんに申し訳なさを感じつつも。ジャンが言う事もわかる。私たちは、これからもずっと、見つからないように、ひっそりと生きて行かなきゃいけない。

 私の顔を見て、女将さんが言った。
「よし!分った。あんたたち、誰にも見つからずに暮らせる場所を教えてあげるよ!」



 
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...