21 / 33
Episode 21 のどかな旅
しおりを挟む
女将さんが、窓の外の山を指差す。
「ほら、あそこに見える山の中だよ。あそこに私が所有する家があるんだ。誰も行かないから、獣道しか無い。」
そう言って、女将さんは、紙とペンと取り出して、地図を書き始める。それを、ジャンと一緒に眺める。
「道らしい道は無くてね、目印は、ここから入って、ラケの大木を右。川が出てきたらそれを超えて・・・」
と説明を聞くだけで、不安になるほどにアバウトな地図だった。道も無いというので、辿り着けるだろうか?
「ここはね、1年前まで私の父が住んでいたんだ。酷く偏屈な人でね。人が来ない、人の居ない場所で住みたいと言って、病で亡くなるまで住んでいたんだ。」
地図を見てから、ジャンの顔を見上げる。ジャンは、私に視線を移してから頷く。
「女将。この家の存在を知っているのは、他には?」
「ウチの亭主くらいだよ。山の中には竜がいるから、町の人間は近づかないよ。」
思いがけない言葉に、体がビクッ!!と跳ね上がる。
私はゴクリと唾を飲み込んで、女将さんに聞く。
「竜、ですか?」
女将さんは、笑いながら頷いた。
「50年前には見たという年寄りが多いんだよ。ただ、それ以降は誰も近寄らないから見た人はいない。ただ、亡くなった父が、最後に会った時に言ってたかねぇ。黒い竜と会ったって。」
私は思わず、ジャンの顔を見る。ジャンは、女将さんの顔を真っすぐ見つめて呟く。
「黒い竜?」
女将さんは笑って言う。
「迷信だよ。私は見たこと無いしね。でも、町の人は信じているのさ。森に入った人間が、戻って来ないのは竜が人間を喰うからだ。ってね。」
ジャンの顔を覗き込むと、少し考え事をしている感じだった。
エルバーン国からは、だいぶ離れて、もうここまでは追って来ないと思えた。国を何個も超えて、気候も違う。地球だったら反対側に位置するような国まで来た。
まさか、そこで竜の話を聞くことになるとは思ってもみなかったけれど。考えてみれば、竜伝説というのは地球上でもたくさんあった。それと同じように、この世界でも、いくつかはある“よくある伝説”の1つではないか?と思えた。だって、実在してるし。
「ジャン、どうする?」
女将さんを見つめて、組んでいた腕をといて、ジャンは決断した。
「ありがたく、甘えようと思う。森に行ってみよう。」
女将さんは、ニカっと笑う。
「じゃぁ、決まりだね。なぁに、大丈夫だよ。私の父は20年も森で暮らしていたんだ。」
そうして、私たちは荷造りを始めた。
宿を出る時、女将さんは、何やら大きなリュックに食べものや薬などを入れたものを持ってきた。
「必要な物を、ここに入れておいたよ。無くなったら町に降りてくればいいよ。あんたたちが、そこに居るのは誰にも言わないでおいてあげる。」
「女将さん。ありがとうございます。」
優しさが、お母さんみたいで、ジーーンと来る。
私は女将さんの手をとって握りしめる。
「本当に、ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!どうお返ししたら良いのか分からないけど・・・」
私の言葉に女将が、ニカッと笑う。
「お返しなんて、必要ないよ。助けてやりたいと思ったから、してるだけさ!人間なんてね、誰かの役にたてるのが嬉しいもんなんだよ。そこに生きがいを感じるんだ。」
そう言って、女将さんはホカホカのライの実の、おにぎりを私に手渡す。
「ありがとうって、受け取ってくれるだけでいいんだよ。」
その時、私は、心が温かくなった。
温かい手の中にある、おにぎりを握りしめて、人の優しさに触れて、涙が溢れた。
「本当に、ありがとうございます!!」
女将さんに抱きつくと、女将さんはギュウっと私を抱きしめてくれた。
「何かあったら、いつでも相談しにおいで。」
荷物を、バロウという生き物の背中に乗せる。馬と牛の間のような姿で、山道もなんなく歩くことが出来るらしい。
私たちは、日が暮れる前にと山の中に入って行った。
女将さんが見えなくなるまで、手を振り続けた。
◇◇◇◇
町が見えなくなってから、私はジャンに言った。
「良い人だったね。」
シダ植物がうっそうと生えて、かき分けるようにして進んで行く。振り返りながら、先を歩くジャンが手を差し出してくれる。
「・・・そうだな。」
繋いだ手から伝わる、彼の温もりが、私に安心をくれる。ずっと、ずっと手を繋いでいて欲しい。
不思議と、彼と一緒なら、どこに居ても大丈夫な安心感に包まれる。
「思ったんだけどね。ここまで遠くまで来たんだし、町中に住んでも、普通に人に紛れて生活してれば、大丈夫なんじゃないかなって。」
そう言うと、ジャンが立ち止まって、私を見つめた。
「あ、別に森が嫌とか言ってるんじゃないよ?ただ、もう、そこまで隠れて暮らさなくても良いのかなって。だいぶ遠くまで来たじゃない?」
「ルナ・・・」
ジャンが何か言いかけた時、胸元のポケットから、フワリ・・・ユラユラと鱗が舞い上がって出て来て、ポン!っと変身する。
ポールが現れた。
「ルナ様!甘いです!こうゆう事は、念には念を入れた方がいいのです!暫くは隠れて暮らして、1年位したら、また住処を考え直すというのが良いかと!」
なるほど。念には念を入れてかぁ。
「それもそっかぁ。まぁ、あの国にとったら、竜は重要な存在だったんだもんね。うん。ほとぼりが冷めるまでは国際指名手配犯なみに逃げておくかぁ。」
私の言葉に、ジャンは私に手を差し出す。
「さぁ、先を急ぐぞ。」
「うん!」
その手を取って、私たちは先を急いだ。
しかし、女将さんの地図を確認するでもなく、どんどん進んで行くので感心する。
「地図とか確かめなくて良いの?道分かる?」
「1度見たものや聞いた物は、覚えているから大丈夫だ。」
・・・ふーん。
竜って人間と違って、頭良いのかもしれないなぁ。なんて、そんな事を思いながら、上を向くと、新緑の木漏れ日がキラキラとしていて綺麗だった。
「ジャン。」
「ん?」
「上見て。透き通るような産まれたての新緑の緑とね、ダイヤモンドみたいな木漏れ日がね、凄く綺麗。」
立ち止まって、ジャンは上を向く。
「・・・そうだな。」
彼は今までもずっと、私の言葉に耳を傾けて、こうして立ち止まってくれるんだよね。
目に映る全てが、なんだかキラキラして見えて、綺麗な景色を見つけると、ジャンにも見せたくて、声を上げた。
美しい鳥、美しい蝶、全部を共有したくて、すぐに声を上げて一緒に見た。
ジャンは、何度も何度も足を止めてくれた。
「あ、待って待って!ジャン!あっちに滝がある!」
「見たいのか?」
「うん」
少し寄り道して、滝の下まで行くと、綺麗な水が流れていた。
手ですくって水を飲んだ。
「美味しい!冷たくて美味しいよ♪」
もう1度、水をすくって、ジャンの所まで持って行くと、彼は私の手から水を飲もうと口を近づける。
その綺麗な仕草に、心がときめいて、つい意地悪を思いつく。
ジャンの唇が水に着く前に、私は手を上に上げて、パシャ!とジャンの顔に水をくっつける。
「!?」
驚いたジャンは、濡れた顔のままで、ポカンとした顔を私に向ける。
「あははは!引っかかった!」
笑うと、ポールまでも「ぷはっ!」と笑いだす。
ジャンは無表情のままで、しゃがむと、川の水を手で私にかけてきた。
なんだか面白くなってしまって、私も負けじとお返しをする。そのまま、2人で水の掛け合いになる。
「お2人とも、何をしてるんですか~。」
ポールは、バロウに水を飲ませ終わって、私たちをあきれ顔で眺めた。
バシャバシャバシャバシャ
「なによぉ~?その位で仕返しするんだ?」
「うるさいぞ?おまえが先にやったんだろう?」
なんだかんだ、ジャンは上手く私がビショビショになるまでは水をかけて来ない。
だけど、私は欲張って、大量に水をかけてやろうと、手を奥の方に伸ばした。その時に、踏ん張っていた左足が、ずるっと滑り落ちる。体の重心が川のほうに傾く。
「あっ!」
声を上げた時には、体は傾いていて・・・・
バッシャン!!!
川に落ちた。
「ルナ!」
すぐにジャンが、私を引き上げた。
ジャンの膝の下までの深さしかなくて、だけど、私は頭から落ちたから全身がビショビショだった。
「あははははっ!やっちゃた~!」
恥ずかしさと、ドジさに笑っていると、ジャンは黙り込んだ。
「?」
視線の先を辿って、私は赤面した。
白いシャツ1枚だった私の上半身は、シャツが濡れて体にくっつき、透けて見えていた。
「ほら、あそこに見える山の中だよ。あそこに私が所有する家があるんだ。誰も行かないから、獣道しか無い。」
そう言って、女将さんは、紙とペンと取り出して、地図を書き始める。それを、ジャンと一緒に眺める。
「道らしい道は無くてね、目印は、ここから入って、ラケの大木を右。川が出てきたらそれを超えて・・・」
と説明を聞くだけで、不安になるほどにアバウトな地図だった。道も無いというので、辿り着けるだろうか?
「ここはね、1年前まで私の父が住んでいたんだ。酷く偏屈な人でね。人が来ない、人の居ない場所で住みたいと言って、病で亡くなるまで住んでいたんだ。」
地図を見てから、ジャンの顔を見上げる。ジャンは、私に視線を移してから頷く。
「女将。この家の存在を知っているのは、他には?」
「ウチの亭主くらいだよ。山の中には竜がいるから、町の人間は近づかないよ。」
思いがけない言葉に、体がビクッ!!と跳ね上がる。
私はゴクリと唾を飲み込んで、女将さんに聞く。
「竜、ですか?」
女将さんは、笑いながら頷いた。
「50年前には見たという年寄りが多いんだよ。ただ、それ以降は誰も近寄らないから見た人はいない。ただ、亡くなった父が、最後に会った時に言ってたかねぇ。黒い竜と会ったって。」
私は思わず、ジャンの顔を見る。ジャンは、女将さんの顔を真っすぐ見つめて呟く。
「黒い竜?」
女将さんは笑って言う。
「迷信だよ。私は見たこと無いしね。でも、町の人は信じているのさ。森に入った人間が、戻って来ないのは竜が人間を喰うからだ。ってね。」
ジャンの顔を覗き込むと、少し考え事をしている感じだった。
エルバーン国からは、だいぶ離れて、もうここまでは追って来ないと思えた。国を何個も超えて、気候も違う。地球だったら反対側に位置するような国まで来た。
まさか、そこで竜の話を聞くことになるとは思ってもみなかったけれど。考えてみれば、竜伝説というのは地球上でもたくさんあった。それと同じように、この世界でも、いくつかはある“よくある伝説”の1つではないか?と思えた。だって、実在してるし。
「ジャン、どうする?」
女将さんを見つめて、組んでいた腕をといて、ジャンは決断した。
「ありがたく、甘えようと思う。森に行ってみよう。」
女将さんは、ニカっと笑う。
「じゃぁ、決まりだね。なぁに、大丈夫だよ。私の父は20年も森で暮らしていたんだ。」
そうして、私たちは荷造りを始めた。
宿を出る時、女将さんは、何やら大きなリュックに食べものや薬などを入れたものを持ってきた。
「必要な物を、ここに入れておいたよ。無くなったら町に降りてくればいいよ。あんたたちが、そこに居るのは誰にも言わないでおいてあげる。」
「女将さん。ありがとうございます。」
優しさが、お母さんみたいで、ジーーンと来る。
私は女将さんの手をとって握りしめる。
「本当に、ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!どうお返ししたら良いのか分からないけど・・・」
私の言葉に女将が、ニカッと笑う。
「お返しなんて、必要ないよ。助けてやりたいと思ったから、してるだけさ!人間なんてね、誰かの役にたてるのが嬉しいもんなんだよ。そこに生きがいを感じるんだ。」
そう言って、女将さんはホカホカのライの実の、おにぎりを私に手渡す。
「ありがとうって、受け取ってくれるだけでいいんだよ。」
その時、私は、心が温かくなった。
温かい手の中にある、おにぎりを握りしめて、人の優しさに触れて、涙が溢れた。
「本当に、ありがとうございます!!」
女将さんに抱きつくと、女将さんはギュウっと私を抱きしめてくれた。
「何かあったら、いつでも相談しにおいで。」
荷物を、バロウという生き物の背中に乗せる。馬と牛の間のような姿で、山道もなんなく歩くことが出来るらしい。
私たちは、日が暮れる前にと山の中に入って行った。
女将さんが見えなくなるまで、手を振り続けた。
◇◇◇◇
町が見えなくなってから、私はジャンに言った。
「良い人だったね。」
シダ植物がうっそうと生えて、かき分けるようにして進んで行く。振り返りながら、先を歩くジャンが手を差し出してくれる。
「・・・そうだな。」
繋いだ手から伝わる、彼の温もりが、私に安心をくれる。ずっと、ずっと手を繋いでいて欲しい。
不思議と、彼と一緒なら、どこに居ても大丈夫な安心感に包まれる。
「思ったんだけどね。ここまで遠くまで来たんだし、町中に住んでも、普通に人に紛れて生活してれば、大丈夫なんじゃないかなって。」
そう言うと、ジャンが立ち止まって、私を見つめた。
「あ、別に森が嫌とか言ってるんじゃないよ?ただ、もう、そこまで隠れて暮らさなくても良いのかなって。だいぶ遠くまで来たじゃない?」
「ルナ・・・」
ジャンが何か言いかけた時、胸元のポケットから、フワリ・・・ユラユラと鱗が舞い上がって出て来て、ポン!っと変身する。
ポールが現れた。
「ルナ様!甘いです!こうゆう事は、念には念を入れた方がいいのです!暫くは隠れて暮らして、1年位したら、また住処を考え直すというのが良いかと!」
なるほど。念には念を入れてかぁ。
「それもそっかぁ。まぁ、あの国にとったら、竜は重要な存在だったんだもんね。うん。ほとぼりが冷めるまでは国際指名手配犯なみに逃げておくかぁ。」
私の言葉に、ジャンは私に手を差し出す。
「さぁ、先を急ぐぞ。」
「うん!」
その手を取って、私たちは先を急いだ。
しかし、女将さんの地図を確認するでもなく、どんどん進んで行くので感心する。
「地図とか確かめなくて良いの?道分かる?」
「1度見たものや聞いた物は、覚えているから大丈夫だ。」
・・・ふーん。
竜って人間と違って、頭良いのかもしれないなぁ。なんて、そんな事を思いながら、上を向くと、新緑の木漏れ日がキラキラとしていて綺麗だった。
「ジャン。」
「ん?」
「上見て。透き通るような産まれたての新緑の緑とね、ダイヤモンドみたいな木漏れ日がね、凄く綺麗。」
立ち止まって、ジャンは上を向く。
「・・・そうだな。」
彼は今までもずっと、私の言葉に耳を傾けて、こうして立ち止まってくれるんだよね。
目に映る全てが、なんだかキラキラして見えて、綺麗な景色を見つけると、ジャンにも見せたくて、声を上げた。
美しい鳥、美しい蝶、全部を共有したくて、すぐに声を上げて一緒に見た。
ジャンは、何度も何度も足を止めてくれた。
「あ、待って待って!ジャン!あっちに滝がある!」
「見たいのか?」
「うん」
少し寄り道して、滝の下まで行くと、綺麗な水が流れていた。
手ですくって水を飲んだ。
「美味しい!冷たくて美味しいよ♪」
もう1度、水をすくって、ジャンの所まで持って行くと、彼は私の手から水を飲もうと口を近づける。
その綺麗な仕草に、心がときめいて、つい意地悪を思いつく。
ジャンの唇が水に着く前に、私は手を上に上げて、パシャ!とジャンの顔に水をくっつける。
「!?」
驚いたジャンは、濡れた顔のままで、ポカンとした顔を私に向ける。
「あははは!引っかかった!」
笑うと、ポールまでも「ぷはっ!」と笑いだす。
ジャンは無表情のままで、しゃがむと、川の水を手で私にかけてきた。
なんだか面白くなってしまって、私も負けじとお返しをする。そのまま、2人で水の掛け合いになる。
「お2人とも、何をしてるんですか~。」
ポールは、バロウに水を飲ませ終わって、私たちをあきれ顔で眺めた。
バシャバシャバシャバシャ
「なによぉ~?その位で仕返しするんだ?」
「うるさいぞ?おまえが先にやったんだろう?」
なんだかんだ、ジャンは上手く私がビショビショになるまでは水をかけて来ない。
だけど、私は欲張って、大量に水をかけてやろうと、手を奥の方に伸ばした。その時に、踏ん張っていた左足が、ずるっと滑り落ちる。体の重心が川のほうに傾く。
「あっ!」
声を上げた時には、体は傾いていて・・・・
バッシャン!!!
川に落ちた。
「ルナ!」
すぐにジャンが、私を引き上げた。
ジャンの膝の下までの深さしかなくて、だけど、私は頭から落ちたから全身がビショビショだった。
「あははははっ!やっちゃた~!」
恥ずかしさと、ドジさに笑っていると、ジャンは黙り込んだ。
「?」
視線の先を辿って、私は赤面した。
白いシャツ1枚だった私の上半身は、シャツが濡れて体にくっつき、透けて見えていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる