雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

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Episode27 ルナベルの決意

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 買い物を手早く済ませると、ジャンが待っている山の麓に急いだ。
 その途中で、雑貨屋さんが目にとまる。

「少しだけ・・・」
 お店の入り口近くに、指輪が売られていた。ペアリングとか、してみたいなぁ。と、ついつい見入ってしまう。
 あんまり真剣に見ていたものだから、店主が声をかける。
「ペアリングをお探しですか?」
「あぁ~。はい。でも、彼は忙しくて・・・お店に来られないし、サイズが分からないんですよね。」
「あら、じゃぁ、オーダーも出来ますよ?サイズサンプルを持って行って、サイズが分かれば、あとはデザインだけだし。」
「!!そうなんですね!」
「ちょっと、待っててね、サイズのサンプル持って来るから。」
 店主が店の中に入って行った時だった。

『ルナ』
 
 私を呼ぶ声が聞こえてくる。

『ルナ!』

 ふと声のする方に目をやると、店内にあった姿見の鏡に、ルナベルが写っていた。
「?!」
 私は驚いて、後ずさる。
『ルナ!』
 ルナベルは、必死に私に訴えかけていた。

 私は慌てて、お店を飛び出す。
 ガランガラン!と、お店の扉の音が鳴って、私は全力疾走した。
 どうして?どうして、ルナベルが、鏡に映ってるの??

 その時だった。
「ルナ!待ってちょうだい!!」

 後ろから、ルナベルの声がして、振り返る。

 え・・・?

 お店の前に立っていたのは、ルナベルだった。

「ルナベル??・・・どうして、鏡から・・・出て?」
 ルナベルは頷いて、こちらに近づいて来る。
「ルナ。ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまって。だけど、やっと決心がついたのよ。だから、あなたを探していたの。」
 そう言って、私の目の高さで手を止めて、七色に光るものを見せた。
「これを竜に返せば、きっと竜は天に帰るわ。あなたと私は元通りよ。」
 呆然とする私に手を伸ばし、ルナベルはフードを頭から被せてくれた。同じ顔であることが、周囲にバレないようにだろう。
「ルナ。よく聞いて。これは竜の鱗よ。これの力があれば、鏡の中に入れるの。元の世界に帰れるわ。その事に、やっと気がついたのよ。」

 元の世界に・・・帰る?

「あなたが元の世界に戻ったら、この鱗は、すぐに竜に返しに行くわ。何もかも、元に戻すの。本当に、あなたには申し訳ない事をしたわ。ごめんなさい。お詫びいたします。」
 頭を下げられて、私は戸惑いながらも、腹立たしさすら感じていた。
 今更なにを勝手な事ばかり言うのか?そんなことを突然言われても、本当に困る。
 しかも、この異世界への入れ替わりは、竜の不思議な力だったんだ。なるほど、考えてみたら、色々納得だった。しかし、国王は粉々に砕いたと言った。あれは、ウソだったんだ。竜の玉を割られた腹いせだったのか、紛失したことを隠したかったからなのか、全く分からないけれど。
 ・・・もう、みんな、どうでもいい。

「ルナ。さぁ、元の世界に帰してあげます。」
 私は首を振る。そして、手の平を上にして、ルナベルの前に差し出す。
「翼麟を渡して。私がジャンに・・・竜に返すから!あなたは、このまま愛する王子様の所に戻ればいい。」
「・・・しかし。」
 戸惑うルナベルに、私は真剣な顔で言った。
「竜を、愛してるの。」

 ルナベルは目を真ん丸にした。驚くのも無理はない。ルナベルにとっては、恐ろしい竜なんだもの。だけど、私にとっては何よりも大事な人だ。
「ジャンを愛してる。だから、翼麟よくりんは私が彼に渡すわ。2人でひっそりと暮らしていくか、空に帰るかは、私達が決めます。だから、もう、私達の事は放っておいて!追いかけ回さないように、王子にも、あの国にも言って!」

 ルナベルは、私の手の平に、翼麟を置いた。

「・・・ごめんなさい、ルナ。私は、あなたの為に、何も出来ないかもしれないわ。でも、ここで、あなたと会ったことは誰にも言わないと約束します。国に帰ったら、竜はもう空に帰ったと伝えるわ。」
 本当に申し訳なさそうに謝罪して、ルナベルは真剣な顔で、言わないことを約束してくれた。
 事の発端は彼女だったけれど、だけど信じてみよう。翼麟を渡してくれたんだもの。これで、ジャンはいつでも空に帰れる。

 私は、それ以上は何も言わずに、ルナベルと別れた。
 
 荷物をバロウに乗せてあったので、繋いでいた場所へ行き、バロウを連れてジャンの待つ、山の麓まで急ぐ。
 
 一歩一歩、歩きながら思う。
 あぁ、これで、本当に自由なんだ。これで、仕方が無くじゃない、私たちは、自分で未来を自由に選ぶことが出来る。

 でも、きっと、どんな未来を選ぶのか、予想がつく。

 私たちは、2人で暮らすだろう。
 そして、いつか、私がお祖母ちゃんになって、この命が終わったら、ジャンは空に帰るんだ。その日まで、穏やかに暮らせればいい。


 昨日の夕方。
 崖の上に腰掛けて、手を繋いで、一緒に夕日を眺めながら言った。
「ジャン。大好きだよ。」
 別に、確かめたいわけじゃないのに、言葉にして伝えた。そして、彼の口から、もう1度聞きたくなった。噛みしめていたくなった。全てが夕日に染まる中で、ジャンは嬉しそうに笑って言ってくれる。
「私も、おまえが好きだ。こうして、一緒に居られるだけで、幸せだと思える。・・・それにルナは面白い。」
「え?面白い?」
「結構、強情っぱりで、食いしん坊で、一生懸命で真面目なのに、おっちょこちょいな所も可愛い。それに、時々・・・いや頻繁に寝言を言うんだが、おまえの寝言は、」
「もういい!もういい!」
 恥ずかしくなって、ジャンの言葉を遮る。
 夕焼け以上に顔を真っ赤にしていると、ジャンは私の頬を指でなぞる。
 そうっと見上げると、ふわりと笑うジャンの顔。
「好きだよ。ルナ。」
 優しく、そう囁いて、キスをくれた。
   
 私たちは、何があっても、離れたりしない。何があっても・・・。


 そんなことを思い出しながら、ジャンの待つ山の麓まで、もう少しという所だった。
 目の前に、大きな男たちが、私の前に立ちはだかる。

「ルナベル!やっと見つけたぞ!」
 
 目の前に現れたのは、エルバーン国の王子。アンドリュー第2王子だった。




  
  
  
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