雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

文字の大きさ
29 / 33

Episode 29 元の世界へ

しおりを挟む
 床に倒れたジャンの傍に、駆け寄る。
「ジャン!!ジャン!」
 彼の頬や手に触れる。抱き起こしたいけれども、ズップリと深く刺さった3本の矢を見て、体を動かして良いのか分からない。戸惑って、オドオドするばかりの自分にイライラする。早く!早く助けなきゃ!という焦り。
 このままじゃ、死んじゃう・・・そう思った瞬間に、自分の体が、信じられない程にガクガクと目に見えて震え上がる。
「ジャン・・・!嫌だ!死んだらヤダ!・・・やだ!ヤダヤダヤダヤダ!ジャン!!」

 縋りついて泣き出した私を見て、ヒタヒタと近づいて来る足音。
 グイッ!!っと、急に肩を掴まれて、後ろを強引に向かされた。

「ルナベル!!なぜ、縋って泣く?やはり、そいつが好きなのか?!」
 眉間に皺を寄せて、物凄い形相で睨まれて、一瞬怯む・・・けれど、私はそれどころではなかった。ジャンのことで頭が一杯だった。
「答えろ!!おまえは、この男を愛しているのか?!」
 
 大粒の涙が、とめどなく溢れてきて、もう胸も一杯で苦しくて、勝手に、しゃくりあげはじめていた。頭の中だけが、ぐるぐると動顛していて、こんなの現実じゃないと思えてきていた。

 だけど、1つだけ解る。

「・・・愛してる・・・。わたしっ、ジャンを愛してる。」

 そう言った瞬間に、勢いよく押し倒された。そのまま、首を締め上げられる。
「あっ・・・ぐっ!!」
 アンドリュー王子は、私の上に馬乗りになり、両手で首を絞めて言った。
「許さんっ!!おまえは私のものだ!なぜだ?!ルナベル!なぜ、心変わりをした!!」
 ・・・!!い・・・息が出来ない!!
 王子が本気で殺そうとしているのが解る。
 その顔は、嫉妬で憎悪に歪んで、目だけが泣いているように見えた。

 ・・・違うって言ってるのに。
 ・・・・もう・・・いいや。もういい。だって・・・だって、ジャンと一緒なら・・・もう、いい。

 私は、最後の力を振り絞って、手を伸ばした。

 ジャンに触れたかった。死ぬなら、一緒が良かったから。


 必死に伸ばした手を・・・・大きな手が掴んだ!


 次の瞬間に、フッと、体が軽くなる。

 ドゴオッ!!
 っと音がして、アンドリュー王子が吹き飛んだ。

「ゲホッ!!ゴホッゴホッ・・!!」
 急に新鮮な空気が肺に流れ込んできて、私は咳き込んだ。
 目を開けると、ジャンが起き上がって、四つん這いで私の上に居た。片手で、私の手を握りしめて、もう片方の手は竜の手に変化している。その手の大きに驚き、凝視してしまう。

「ジャン・・・?!」
 顔を少し歪ませて、ジャンは私を抱き起しながら、自分も立ち上がる。
 片方の腕だけが、肘から下が竜の手になっていて、他は人間のままだった。
「ぐっ・・・!」
 痛そうに顔を歪ませると、フラつく。
「ジャン、大丈夫?」
「大丈夫だ。ルナ、今だ。走れ!」
 出入口を見ると、誰もいない。
 兵士達は、吹き飛んだ王子に駆け寄って、無事を確かめている所だった。その一瞬の隙を見て、私たちは出入り口に走った。
 それに気がついた数人の兵士が、近づいて来る。
「止まれ!」
 ボウガンを向けられ、ジャンは私の手を引いたままで、走り抜ける。
 兵士が放った矢が、ジャンの竜の腕に、そして背中に刺さった。けれど、そのまま出入口を抜ける。

 階段を降りた先がエントランスなのに、そこから10名ほどの兵士が向かってくる。それを見て、ジャンは、建物の上に向かい、一番奥の部屋に2人で入った。すぐに内側から鍵をかける。
 
「はぁっ、はぁっ、、かはっ!・・・はぁ!はっ・・・」
 ジャンの息は荒く、背中からは血が出て止まらない。さっき射られた腕の矢は、腕を貫通して刺さっている。肩に刺さった矢も、背中から射られて、右肩から先端が飛び出ていた。
「ジャン・・・!」
「ルナ・・・鏡がある・・・」
「え?」
 ジャンは、部屋中をくまなく見渡して、大きな鏡を見つけた。そこまでふらつきながらも近づく。私は、彼を支えながら一緒に行く。
「ジャン?」
 ゼェゼェ・・・ハァハァ・・・と、荒い呼吸を整えながら、ジャンが鏡に触れると、手の血が鏡につく。すると、鏡の中には、元の世界が映し出された。
 鏡に映し出された場所。それは私の部屋だ。
「良かった・・・時空の扉が開いた。ルナ・・・行け。」
 ジャンが、私の背中を押す。
 
 ドカ!!バキッ!バキッ!っと扉を、け破ろうとする音。兵士達の声。

「ジャンも・・・一緒に行こう?」
 そう言うと、ジャンは悲しそうに、それから嬉しそうに笑った。

「ルナ・・・愛してる。」

 ジャンは私を抱き寄せて、噛みつくようにキスをする。
 私も目を閉じて、それを受け入れた。

 キスをしたまま、ジャンはルナの体を鏡の中に押し込んでいく。
 体の殆どを鏡の中に入れると、唇を離して、ルナの体を勢いよく突き飛ばした。

 ドン!!っと突き飛ばされて、元の世界の部屋に、尻もちをつく。

「ジャン・・・?」
 
 ジャンは、笑って私を見下ろす。
 笑った、その表情は一瞬だけで、そのまま、金色の目が焦点を失ったように宙を見る。体が力を失って、崩れるように、ドサッと倒れた。

 床には、ジャンの大量の血が水たまりのように広がっていた。

「ジャン・・・!!」
 
 もう、立っているのも、やっとだったんだ。
 片方の腕の肘から下だけが竜の手になったまま、ジャンは血の海に突っ伏して、動かなかった。その姿を見て、今更解る。
 私を守るために、助ける為に、
 最後の力を振り絞っていたこと。
 竜の姿に戻る力すら、残っていなかったことに。

「ジャ・・・」
 名前を呼び掛けて、鏡は私を映した。

 鏡の中には、私の部屋と、今にも精神崩壊しそうな、私の顔だけが映し出されていた。


 それは、何事も無い、日常を映し出していた。

 何もかもが、夢だったみたいに。

「うっ・・・・!うわあああぁぁ!!」 
  
 訳も分からず、声を上げて泣いた。
 もう、どうしようもないのに、ただ、ただひたすらに。苦しくて、苦しくて。泣き叫んだ。糸が切れたみたいに、気が狂ったかのように、ただひたすらに泣き叫んだ。


 もう2度と、異世界への扉は開く事は無かった。 
 
 








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...