雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

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Episode 32 離れていても

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 ジャンは、ガイアと別れて、すぐに異世界の扉を開いた。

 目を閉じて、イメージをする。
 確か、ルナが産まれた国は、メープルの葉の国旗だと言っていた。目印はそれだ。それから、竜の血がつがいを感じ取ることが出来る。

 そうして、ジャンは、地球のカナダという国に降り立った。
 しかし、ルナの気配を感じるのに、どこに居るのかイマイチ解らなかった。

 ジャンクロードは、まだ未熟だった。異世界移動の力を上手く使いこなせていなかった。つがいを探すにしても、竜は空を飛びながら臭いや血が騒いだ場所で特定するのだが・・・人間の世界で竜の姿で空を飛び回るのには、問題があった。

「・・・困ったな。」
 そう思っていると、どこからが、懐かしい匂いがして、血が騒ぎ始めた。
「ルナ?」
 誘われるようにして歩いて行くと、ある1軒の家があった。
 その家から、ルナが出て来た。ジャンは、駆け出して道の真ん中で止まる。ルナの両隣りには両親が居て、老婆も一緒だった。大きな荷物を抱えて、4人は歩き出す。
 暫く歩くと、ルナは、老婆を気遣って言った。
「お祖母ちゃん、もう見送りはココでいいよ。また遊びに来るね!」
「ルナ。待っているよ。またね。」 
 ルナと両親は、交互に老婆と抱き合って挨拶をすると、ジャンに向かって歩いて来る。
 ゴロゴロと、大きな荷物を押しながら。ジャンの目の前まで来た。
 ルナの目が、ジャンをとらえて、見つめた。
 けれども、すぐに、スイッと目をそらして、さっき別れた老婆のほうに視線を移す。その表情は、ジャンを見ても何も思わなかった様子だった。

「・・・」
 ジャンは、そのまま、動くことが出来なかった。

 ルナと両親は、そのまま、すれ違い、バス停まで行き、バスに乗り込んだ。
 慌てて、バスに乗り込み、ルナの後を追いかけた。
   
 ・・・ルナ?

 何故、私を見ても、何の反応も無い?
 まるで、私の事を覚えていないかのようだ。どうして・・・なぜだ?
 それに、ルナの雰囲気がだいぶ違うように思えた。少し幼いというか・・・。

 ジャンが考え込んでいるうちに、空港までついてきてしまい、ルナたち一家が飛行機に乗って、どこか.違う国へ行ってしまうことに気がつく。このままでは、マズイ!!

 ルナの両親が買い物などに行ってしまい、ルナが一人になったところを見計らって、ジャンは意を決して声をかけた。

「ルナ!」
 すると、ルナはジャンを真っすぐに見つめた。
 ルナの目は、驚いた様子で、目を大きくしていた。
「え・・?」
「私が・・・わからないか?」
「え?・・・あ、えーと、誰だっけ?」
 
 この時、ルナは必至で思い出そうとした。毎年、1回はカナダに来ているので、中学1年の夏休みでカナダに来た時に知り合った近所の子供?いや、小学生の時の夏休みに来た時に、キャンプしに行って一緒に遊んだ子?あれやこれやと、必死で思い出そうとした。

 ルナの思い出せないという、困った顔を見て、愕然とする。
 本当に、分らないのだ。覚えていないだなんて・・・。

「ごめんなさい。思い出せなくて・・・。それと、もう行かなきゃ。」
「ま・・・待て!・・・待ってくれないか?そうだ、連絡先を!連絡先を教えて欲しい。」
「え?・・あー、ん~、じゃぁ、SNSのIDでいいかな?」
 そう言って、ルナは、サラサラとIDを書いたメモを渡した。
「じゃぁ、さよなら。」

 さよなら・・・・?

 何故?どうして?
 ジャンの中で、どうしたら良いのか分からず。途方に暮れた。



◇◇◇◇◇

 
 ジャンは、以前とは違い、竜の力を完全に取り戻したので、竜の力を使って、大量にお金を作り出した。竜の毛をプツっと1本抜くと、金の延べ棒ゴールドバー50本に変えた。それを、換金して家を購入し、通帳を作る。難民という事にして、国籍を取得。家は、ルナの祖母が住んでいる町にした。
 だいぶ、ひと段落して、この世界での生活にも慣れて来た。

あるじ。仕事を持った方が良いですよ。」
 そう、ポールがお茶を入れながら言った。
「仕事?それよりも、ルナが住んでいる日本に引っ越そうか考えている。」
 ジャンは、日本語の本を読みながら言う。
「まぁ、それも良いのですが、仕事がなければ、この世界では何かと生きていくのが面倒で厳しいかと。」
 ポールは、あらゆる情報誌と新聞、経済紙などなど、ジャンが読み漁ったものを、片付けながら溜息をつく。

 ジャンは、ルナのSNSを見て、ルナが自分と出会った18歳ではなく、15歳だったことに気がついた。つまり、出会う前に来てしまったのである。3年、待つか・・・・。そう諦めて、時々、ルナの祖母とお茶飲み友達になりながら、ゆったりとカナダで生活を送っていた。

「世間的に、仕事が無いのはマズイか。こればかりは、何が良いか迷うな。」
「そうですねぇ。写真家というのはいかがです?」
「なんだ?それは?」
「写真を撮る仕事です。あるじは、ルナ様と繋がっているために、写真を撮られてますよね?しかも、昔、ルナ様がよく話をしていた場所なども行って写真を撮影されてます!これを仕事にするのですよ!」
 ポールの言い方が、まるで、ルナの気を引きたくて、写真をとってはSNSにUPしているかのように言うので、イラっとして睨む。まぁ、図星なのだが。

 うーむ。
「では、写真家を目指そう!ルナは綺麗な物が好きだからな!」
あるじ、綺麗な物が好きなのは、竜の性質です。」
「ポール。おまえ、その“あるじ”と呼ぶのをやめろ。外では変な顔をされる。この世界では変なんだ。」
「そうですね。では、何とお呼びしましょう?」
「ジャンと呼べ。おまえとは、兄弟ということにする。」

 そう言われて、ポールはジャンを眺める。
 自分を作り出して、たくさんの事を学ばせ、対等に扱ってくれるあるじ。まさか、使いである自分を、兄弟だなどと、本当に変わった竜なのである。
 本当は寂しがり屋で、心優しい、穏やかな性格の竜。そんなあるじだからこそ、心から仕えたいと思うのである。

「ふふふ。」
 ジャンが突然、携帯電話を見て笑う。
「ルナのやつ、今年もカナダに来るようだ。お祖母ちゃん特製のメープルシロップたっぷりのパンケーキを、楽しみにしているとかUPしている。相変わらずの食いしん坊で、可愛いやつめ。」
 目を細めて、嬉しそうに笑う。PCでカメラマンの基本、などを調べて読みながら、携帯電話ではSNSを見ている。
「会いに、行かないのですか?」
 ポールが、そう聞くと、ジャンは少し悲しそうな瞳をしてから、首を振る。
「ルナには、これから、異世界へ行って、私と出会う未来が待っている。その未来を変えたくはない。だから、待つよ。年に1度、カナダに来るあいつを、遠くから見れれば良い。SNSでこうして、あいつを感じられれば良い。」

 会いたい。今すぐに、会いに行って、抱きしめたい。
 けれど、信じている。
 
 Everything is going to be OK.
 全て上手く行く。そう信じられる未来がある。


「私は、得をしたな。」
 嬉しそうに笑って、ジャンはポールに言った。
「私と出会う前の3年分、ルナを見る事が出来る。」






 
 

 
 
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