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第11話
しおりを挟む私たちはヒルズにある、綺麗な景色を楽しめるレストランに移動した。
あまりに夜景が素敵なので、女子2人ははしゃいだ。
神崎さんが「馬鹿と何とかは高い所が好き・・。」と言うので、桜井君が笑った。
なに飲みます?と、桜井君と神崎さんが、お酒を選び始める。好きなお酒の話を始めた。
「神崎さんは、好きなお酒はウイスキーですか?」
「いや、何でも飲むかな。桜井はビールばっかりだな。腹が膨れるだろう?」
「そうっすね~。神崎さんみたいに、カッコよく酒が飲みたいからウイスキーとかワインの分かる男になろうかなぁ。」
桜井君は、前々から感じていたけれど、神崎さんが好きだし尊敬しているのだと思う。
この前、神崎さんと同じ、Montblancのボールペンを持っていたのを見た。腕時計も神崎さんと同じで、若い男性には珍しいと思うけれど、SEIKOの電波時計だ。機能性を重視して、洗練された物を好む、神崎さんの性格が出ている。
「私は、お酒は日本酒が1番好きです。」
私がそう言うと、桜井君が反応する。
「女性で日本酒が好きとか、珍しいですね!」
「そうでしょ?私の実家は東北だから、北の人たちは大概酒好きかな。父も兄も親戚も、みんなそうだったし。」
「綾瀬さんは東北出身だったんですね。どちらなんですか?」
「宮城県。」
7年間の経験で知っている。こう言うと、みんな戸惑うのだ。
「・・・海沿いなんですか?」
そう、勇気ある人は、確認するように聞いてくる。お決まりパターン。
でも、大丈夫。私は慣れている。そして、何も怖くはない。怖いのは場の空気が暗くなることだ。
出身地をひたすらに隠す時期もあった。しかしそうすると、かなり不自然だし、返って気を使わせるのだ。
「そう、海沿い。」
そう言うとね、大体の人は沈黙して話を逸らす。そうしたら、話しは終わり。誰も聞きたくない話なんてしないよ。
だけどね、桜井君と林さんは、そうじゃなかった。
「じゃぁ、震災で大変だったんじゃないですか?なんか聞いていいのか分からないけど。」
「大丈夫だったんですか?」
2人が交互に聞く。聞いてくれるというのは、私は嫌じゃない。それは親しみだから。人を受け止めようとする、人の勇気だからだ。一緒に分かり合おうとする優しさだからだ。それに答えられるかは別の話なのだけれど。でも、私は、それが出来る程に、立ち直っている。
だから、笑って、キッパリ言う。
「家族全員を失いました。あの日から、天涯孤独の身ですけど、でもたくさんの助けがあって今があります。様々な人が助けてくれて、世の中って、凄く優しい人であふれてるなって感動して、世の中の人の役に立ちたいと思った。だから、本社で医療系システムの開発は、本当にやりがいがあって、楽しかったかな。」
息を飲んだように、3人が私を見る。だから、笑って見せる。
そうだよ。私は、もう大丈夫。そりゃ、もちろん泣く日もある。打ちのめされそうな日もある。でも、それは皆同じで、被災した人だけではない。交通事故だってある。だから、私の経験は他人事なんかじゃないし、誰しもあり得る、特別じゃない。隠さなくちゃいけないタブーな話しなんかじゃないんだ。
暗い話が、暗い過去も、「あぁ、そうか」って普通に語り合えればいい。それを望んでいる。
「なるほど。綾瀬さんが、仕事の鬼なのが分かった気がします。」
桜井君が、神妙に言う。
「鬼ってなによ?すっごく丁寧に優しく指示してあげてるじゃないの。」
「え?いやいやいや、綾瀬さんの仕事、けっこうエグイですよ!無理難題とか言い出すし!」
「うーーん。桜井君、まだまだ修行が足りないわね。私ならもっと工数減らしてやれるわ。」
「うわ!ヒドイ!綾瀬さんのイケズ~!一生懸命やってんのにぃ~。林さんヘルプ~!」
泣きマネをして 林さんに縋って見せる桜井君に、林さんは笑った。
神崎さんも、それを見て笑って、静かに私に目を移した。
私はもう、大丈夫。大丈夫なんだよ。
あなたは今、どこですか?
彼は、はにかむように、仕方ないなって言うように笑って言った。
「被災地には、震災翌日から1週間ほど行ってたんだ。通う感じで。」
その言葉に、林さんが驚く。
「えぇ?!仕事はどうしたんですか?」
「当時はまだ、役職も無かったし、有休を全て当てた。」
桜井君が、ヒーローを見るように、尊敬の眼差しを向ける。
「カッコイイ!神崎さんってクールなイメージでしたけど、実は人情味あふれる熱い人だったんすね!」
ブハっと、神崎さんは笑う。
「カッコよくなんかないんだ。親友がそこにいたから。気が付いたら、バイクで走り出してた。」
そう言って、言葉を切ると、東京の夜景に目を移す。
「信じられない光景だった。・・・どこまで行っても、そこは地獄絵図だ。」
桜井君も、林さんも黙り込んで、聞き入る。
「あいつが、どこかに居る。そう思わなければ、前には進めない。軽い気持ちで、人助けの為だけに、行けるような場所では、決してなかった。」
少し言いづらそうに、林さんが言う。
「それで・・・さっき。」
あ!と桜井君も察する。
「今までは平気だったんだけどな。どうやら、ああいう映画はダメみたいだ。みんなに迷惑をかけたな。」
「そうだったんすね。」
「カッコ悪くて、クールでもなくて、ガッカリさせたな、桜井。」
そう言って笑う神崎さんに、桜井君は目を吊り上げて言った。
「そんなことで、神崎さんの凄さは変わらないですよ!入社した時から神崎さんは俺の上司で先輩で、本当に尊敬してるんです!」
神崎さんは、桜井君を見る。
「俺らって1日の殆どを一緒に過ごして仕事して、親友よりも親よりも恋人よりも、誰よりも長い時間を一緒にいるんすよ?チームでしょ?仲間でしょ?なんでも話してくださいよ!ちょっとくらい弱点あっても、幻滅しませんて!」
「桜井・・・。」
「見て下さいよ!俺、神崎さんと同じ時計!同じ名刺入れ!同じボールペン!それから・・・ほら!同じとこの靴!すっごいリスペクトしてんすよ!!」
「・・・おまえ・・・やっぱ、暑苦しくてキモイ。」
私も、たぶん林さんも・・・・・ちょっと引いてる・・・ゴメン。
「神崎さん!俺はずっと尊敬してます!カッコイイ神崎さんも好きですけど、辛い時とか困った時は、助け合える仲になりたいっす!」
「ええい!うっとおしいヤツだな。おまえ、俺の家に立入禁止な。」
「えーーー!!」
林さんも、神崎さんも笑いだす。
目を移すと、東京の夜景が輝いていた。
東京タワーが、いつものようにオレンジ色に灯っている。
いつも、そこにあって、ともし火のように、そこにある。
この温かい景色が、私は大好きだ。
拝啓、
私を1人残して死んだ家族たちよ。私は、大丈夫です。
きっと、私は、彼に出会うべくして出会ったんだと思うのです。
この神崎拓也という、1人で苦しんでいる男を救う為に、婚約者に裏切られて、悲しいかな出向させられて来たのだ。そう考えてみれば、嫌な奴のことも忘れられるというもの。
父さん母さん、私が生きるということは、家族が生きていた証だと気が付いた。この体に流れる血が、そう言うんだ。
ニュースを見るとそうでもないけど、私の周囲だけなのか?
世の中は、優しい人たちで満ち溢れている。
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