今、君に会いたい

月野さと

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第14話 夏休み

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 親友の晃が、日本一周をしようと言い出した。

 俺たちは、性格が正反対だと思う。しかし何故なのか、最初から気が合った。
 比較的、裕福な家庭で育った俺の一人暮らし先は、立地の良い2DKのマンションだった。大学も通いやすい。
 そのマンションに晃を呼んだのは、朝になるまで話をしても飽きなくて、一緒に毎日夜遅くまで飲んでいたからだ。
 

 とにかく、俺1人だったら考えもしなかった冒険を、晃がしたいと言い出したので、それに乗っかった。
 バイクを購入して、静岡や千葉などに慣らし運転を重ねて、それを実行した。

 どうせならと欲をだして、各県の名所めぐりもした。

 海沿いを選んで、北に向かうと、海の色は深く綺麗だった。
 夜は将来の話をしたり、どんな女が好きだとか、くだらない話もした。
 
 時折、晃の話には“あゆみ”という妹の話が登場していた。
「あいつ、そろそろ進路決めたかなぁ。このまえ会った時なんかさ、夢は無いとか言うんだよ。嘘だろって思ったわ。」
「晃は、やりたいことが多すぎんだよ。でも小学生の時に医者になる決意したんだっけ?。」
「そ!拓也は?いつから物理学にはまったわけ?」
 買ったばかりのコーラを開けると、ブシュ!っと噴き出す。晃は、何してんだよって、ケタケタ笑う。

「俺は、漠然と?理工学にそもそも興味があって、まぁ、ハッキリ決めたのは高校の時だったような気がするな。」
「その曖昧な感じとか、ぼーーーっとしてるとこ、あゆみと一緒なんだよなぁ。今度相談のってやってよ。」
「はぁ?ムリ言うな。女子高校生とか、生きる次元が違い過ぎて、普通に話せる気がしない。」

 だけど、実際に会った晃の妹は、素朴な女の子だった。
 夢なんか無いなんてウソで、きっとその胸に真っすぐで清らかな物を隠し持っているような感じに見えた。
 とにかく、真面目そうで、目が綺麗な女の子だった。

 晃くらいしか、面白がって聞いてくれない、物理学の話なんかも、彼女は楽しそうに聞いた。
 
「理工学って、どんなことするんですか?面白いですか?」
「うーーん、どうだろう。でも工学は、まだ無い物を作り上げるのに対して、理学は自然が何故そうあるのか?を調べるものかな。星座とか宇宙とか。それが合わさって理工学。」
 伝わったかな?説明は、こんなんで良いのかな?と彼女の顔を覗き込む。

 その時の、女の子の顔を、俺は今も覚えている。
 それは、ビックバンが起こったかのように、パァっ!と星たちが弾け飛んだような笑顔だった。
 キラキラと輝いて見えた。
「私も、理工学を目指そうかな。」
 そう言って、太陽のように笑った。
 
 
 ウソだろ・・・そう思った。
 心臓がバカみたいに高鳴って、思わず胸を押さえる。
 親友の妹に惚れるとか、そんな気持ち悪いこと有るわけないと即座に否定した。
 
 
 ヒグラシが鳴いているのを縁側で聞いていると、晃が言った。
「拓也~。」
「なに?」
「今日、歩美を誘っといたから、夜に花火しようぜ。」
「・・・・・・・・・・・解った。」
「今の間、何?」
「ぼーーっとしてた。のどかな景色だなと思って。」
「ふーん。」
「なに?」
「あ、歩美が帰ってきた。」
 犬の散歩を終えて、歩いてくる姿が見える。

 何やら大きな袋と、大きなスイカを持っている。
 なんとなく縁側から降りて、近寄ると、スイカをドンと渡される。
「これ、向かいのおばちゃんから!東京から来てるイケメンにって。あははは。」
 そう言って笑いながら、縁側には袋をドサッと置いた。
 袋から、ナスとキュウリが転がる。
 それを拾おうとした彼女から、短い悲鳴が上がる。
「痛っ!」
「あぁ、キュウリのトゲかな?ちょっと見せて、取れそう?」
 彼女の手をとると、細くて柔い指の感触に驚く。瞬間に手をふりほどかれた。
「大丈夫だから!」
 耳まで真っ赤にした顔が、初々しくて可愛くて、こちらまでドキドキしてくる。
 
 それを見た、晃が冷やかす。
「なーに耳まで真っ赤にしてんだよ。拓哉に惚れんなよ!拓也には彼女いんだから。」
「ん?あ~、それもう別れたけど。」
「えぇ!?いつ?なんで?あの超グラマーな、年上美女だよな?!」
「フラれたんだよ。いいだろ何だって!」

 そうなんだ。これでも、大学4年の春までは彼女もいたし、なんなら高校の時だって彼女はいた。
 それなりの付き合いはしてきたし、手を触れるくらいなら女友達でもある気がする、こんなに初々しい反応をされると、戸惑う。
 
 戸惑いは、こそばゆい感覚に変わっていった。

 俺は彼女の、純真で無垢な感じに、強く引きつけられたんだと思う。

 そんな彼女を育んだのは、おそらく、この果てしなく美しい大地なのだろう。

 満点の星空。
 幻想的な蛍の群衆。
 深い深い青の海。 
 
 ちっぽけな俺には尊敬に値する、人の為に医者になるとか、壮大な夢を持つ親友も同じだ。
 今しかできない経験をするんだと、いつも目を輝かせる親友は、バカみたいにキラキラしてた。 

 どうやら俺は、そんな美しい物に弱いらしい。
 そんなものが好きなんだと知った。
 

 バイクで日本一周という旅は、俺にたくさんの経験と気づきをくれた。
 
 そして、日本は凄く美しく、思っていたよりも大きく、愛すべく優しい国なのだと知った。


 
 
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