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第15話
しおりを挟む4人で家を出て、駅まで歩く。
「私は、歩いて帰れるので。」
そう言って、林さんと桜井君に手を振る。
武蔵小杉駅と新丸子駅は、歩いても数分しかかからない程に近いのだ。
改札を通って、2人が見えなくなると、神崎さんが私の手に指を絡めてくる。
「どうする?」
優しく微笑んで、神崎さんは私を見下ろす。
なんか、くすぐったい気持ちになる。
「エヘヘ。何しようか?」
そう言いながら、2人で多摩川の方へ歩き出す。
歩美は1度、川沿いにある自分のマンションに戻って着替えを済ませる。
「多摩川駅の方にいったことある?」
と神崎に聞くと、無いと言うので、散歩しながら行こうと誘う。
「歩いて?少し遠くないか?」
「うん、でも散歩好きなの♪丸子橋もね、好き。」
凄く良く晴れた日だった。
神崎さんの手は大きくて、からめた指が優しく私を包むようだった。
丸子橋の中心まで来ると、空を見上げる。
「ほらほら、見て。」
私が指を刺すと、神崎さんも上を向く。
「丸子橋のブルーと、空の色が好きなの。」
いつも1人で来ていた場所に、神崎さんを連れて歩く。そんなことで、凄く嬉しくなっていた。
「それからね、もう少し歩いたところに絶景があって、もう少し歩ける?」
繋いでいた手を引っ張ると、神崎さんは、逆に私を引き寄せた。
「歩美。」
眩しそうに眼を細めて、名前を呼ばれる。
そして、とてもゆっくりと、確かめるように近づいて、触れるだけのキスをした。
人生で初めてのキスみたいに、すごくドキドキして、恥ずかしくなる。
それは、神崎さんも同じだったみたいで、2人で照れ始める。31歳と26歳の、人生にこなれて来た私たちが、なんか変でおかしかった。
丸子橋を渡って、私たちは多摩川沿いにある神社についた。
「ここ、浅間神社。時々ね1人で来てたんだ。」
今日は、神崎さんはずっと微笑んでた。それが、なんだか嬉しかった。
貴方に見せてあげたい。
この世界の美しい物を全て、全部かき集めて、あなたに見せてあげたい。
貴方が見た、酷い景色を塗り替えるように。これからは、美しい物だけを、その瞳にうつして欲しい。
この神社には、見晴台があるのだ。
そこからは、丸子橋と多摩川、それから自分たちが住んでいる場所が見える。
広がる景色に、自然と深呼吸をする。
神崎さんは、初めて来たのか、景色に見入っていた。
「見て見て!ほら!富士山も見えるの。」
そう言うと、繋いでいた手に力が込められる。
「本当だ。いつも住んでる場所なのに、こんなに綺麗な場所だったとは知らなかったな。」
神崎さんが、楽しそうなのが嬉しくなって、彼の肩に頭を乗せる。
えへへ~と笑うと、彼も目を細めて笑う。
「これからはね、綺麗な景色を探して、いろんな場所に2人で行くの。素敵でしょ?」
私がそう言うと、彼は少し驚いて私の顔を覗き込む。
そして、おかしそうに笑った。
「ふっ、やっぱり、おまえらは兄妹なんだな、晃と全く同じことを言う。」
『綺麗な景色を探しながら、日本一周して歩くんだよ。面白そうだろ?』
晃がそう言って、だからって、なんでバイクで1周なんだと思ったのを思い出す。
その時だった。
「・・?神崎さん?」
神崎さんは、胸を押さえた。
はっ!・・・はっ!っと、苦しそうに短く息を吐き始める。
全身に冷や汗を流し始める。
苦しそうに顔を歪ませて、手すりに手をついたまま、彼はしゃがみ込んだ。慌てて彼の体を支えようとする。
「神崎さん!!」
過呼吸だ!すぐに青山先生を思い出して、同じことをしてみる。
「だ・・・大丈夫です!神崎さん、大丈夫!ゆ・・・ゆっくり、息を・・・息を吐いて、ゆっくり吸ってみてください!」
大丈夫、大丈夫だから。と、何度も口にする。
だけど、私の心臓の方が、絞殺されそうなほどにギュウっとされたようになる。
はぁっ!はぁっ!と呼吸する彼を支えているので、精一杯で、気持ちが焦る。
瞬間に、心の中で、叫び出す。
助けて助けて助けて!お願い助けて!
「だ・・・大丈夫、大丈夫ですから!」そう口では言いながら、恐怖に打ち勝てそうにない。
必死で彼を支えながら、何故かあの言葉を、口走る。
「石虎さん、石虎さん、戦火を潜り抜けた石虎さん。私のお願い聞いて!!この人を助けて!!」
この人を助けて!お願いっ。
これ以上、この人を、苦しませないで!!
ただ、親友を助けたかっただけの、優しいこの人を、これ以上、どうか苦しませないで。
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