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第20話
しおりを挟む鈴を鳴らす。
石虎が、くるくると走り回って、私たちは、元の時間に戻って来た。
だけど、そこに、あなたは居なかった。
気が付いて、周囲を見渡して探したけれど、あなたはいない。
私は、多摩川浅間神社の見晴台に、1人で居た。
1人で、丸子橋まで歩いて来るうちに、1つ1つ、新しい記憶が頭の中に入ってくる。
兄は、震災翌日に、親友のバイクに乗って、東京に避難してくる。そのまま、親友と一緒にルームシェアを、再開するのだ。
神崎さんは、まだ大学時代から住んでいた恵比寿のマンションに居た。だから、武蔵小杉のマンションに居たという事実は無くなる。
程なくして、兄は東京の病院に勤務が決まって、平和な生活を送っていた。
私はというと、兄が存在することで、1人の寂しさから付き合い始めた元カレと恋人関係になることもなく、問題が起きなかったので、元の本社で普通に働いている。
そう、林さんや桜井君と知り合っていない。
携帯電話を確認すると、神崎さんの番号も、林さんや桜井君の番号も無かった。
「・・・無い。」
丸子橋の真ん中で1人、風に当たる。
「そっか・・・・。未来を変えられたんだ。」
声に出して、1人でつぶやくと、頭が、サクサクと理解をし始めた。
私たちは、出会っていないんだ。
あの桜の見える会議室で、出会わなかったんだ。
いや違う。高校生の夏休みに、実家で会った事のある、兄の親友。それだけの関係になったんだ。
でも・・・・。
私は、すぐに兄に電話をした。
日曜だったからか、すぐに電話に出た。
「歩美かぁ?どうした~?」
兄の、能天気な声が響く。
「お兄ちゃん!あのね、お願いがあるんだけど!神崎さんの電話番号教えて欲しいの!」
「うん?神崎?・・・・拓也のこと?なんで?」
「えっと、話があって・・・聞きたい事があって!」
すると、電話の奥から聞こえてくる声があった。
「「どうした?俺の話?」」
神崎さんが近くにいる様子だった。
兄が言う。
「あぁ、なんか妹が拓也に用があるって。」
「「え?なんで?・・・晃の妹って、確か、高校生の時に会ったことある、あの子だよな?」」
「あ~、そう言えば、実家で会った事あったっけ?俺、忘れてたわ。」
「「いや、俺なんて、遠い記憶の片隅だけど・・・何の用だろう?電話、変わった方が良い感じか?」」
「うーーん。なぁ!歩美、拓也に何の用?」
「・・・・ううん。ごめん。・・・やっぱりいい。」
何とか声を絞り出す。
「へ?なに?歩美、声が小さくて聞こえないんだけど?」
「何でもない!!もういいよ!」
ブツンっと電話を切る。
熱いものが目から流れ出して、それが涙だと気づくと、
私はもう、声を上げて泣くしかなかった。
丸子橋の真ん中で、私はひたすらに泣いた。
帳が下りてゆく、夕焼けの中。
私たちが望んだ未来で。
自分に言い聞かせる。
そうだよ。私が望んだことだ。
あの人の苦しみも悲しみも、全て消えて無くなった。
そして、兄が生きている、存在してくれる幸せ。
そうだよ。私たちは、それぞれの、幸せな未来に進んだんだ。
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