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第21話
しおりを挟む過去を変えて帰ってきて、最初に分かち合いたかった・・・会いたかった人と会えずにいる。
あれから1週間が経って、私は兄に会いに行った。
生きている兄に、どうしても会いたくなったからだ。
兄から指定された、恵比寿にあるカジュアルなBarで待っていると、30分ほど遅れて兄が来た。
「歩美!悪い悪い!遅くなった。」
初めて見る、31歳の兄に、驚きと戸惑いを隠せなかったけれど、込み上げる嬉しさに、泣きそうな顔で笑ってしまう。
「?・・・なんだよ、変な顔して、なんかあったのか?」
私は少しうつむいて首を振る。
「なんでもないよ!お兄ちゃんに会いたかったから。」
椅子に腰かけようとした兄が、一瞬止まって、怪訝な顔で私を見る。
「はぁ?なに、おまえ気持ち悪ぃなぁ・・・。先週の電話だって、なんだったんだよ。」
「ごめんて。それよりも、何食べるの?注文しちゃおうよ。」
何から話していいのか、ちょっと思いつかなくて、黙り込んで兄を見つめてしまう。土曜まで病院で仕事という兄は、忙しいらしくて、なんだかんだ彼女ができないらしい。自分の頭に浮かぶ、新しい記憶を確認しながら、実際の兄を見て実感していく。
「なぁ、歩美。」
「ん~?」ワインを口の中に含みながら返事する。
「もしかして、だけど・・・・タイムスリップした?」
そう言われて、息を飲んだはずみで、ワインが喉の変な所に入る。
「ゴホッ!!ゴホゴホ!・・・・・・え?」
「あ~、悪ぃ悪ぃ、今のウソ!最近寝不足で、頭おかしいんだわ。」
無し無し!と言う感じで、兄が手を振る。
今、なんて言った?タイムスリップ?まさか。
「覚えてるの?」
探るように兄を見つめる。兄は、私の言葉にギョっとしたようにこちらを見た。
「・・・・は?覚えてる?って何を?」
「え、いや、あの、っていうか、お兄ちゃんタイムスリップって言ったよね?だからっ!その話!」
「・・・・お・・・おい、ちょっと、落ち着け。」
私たちは、お互いに、一旦、氷の入った水を飲む。
そして、兄から言った。
「やっぱり、そうだよな?今まで夢だったかとか思い始めてたけど、お前ら2人で俺の所に来たよな?被災した日、拓也と歩美で助けに来たよな?」
兄は覚えていた。
考えてみたら、確かにそれは当然なのかもしれない。兄は、あのまま生きているのだから。
嬉しい・・・!Barのカウンターで並んで座っていた私は、嬉しくて嬉しくて、兄に抱きつく。
「ば、バカ!恥ずかしいだろ!」慌てふためきながら、兄はポケットからハンカチを取り出して、私の顔に押し付ける。
「やっぱりそうだったかぁ。なんか2人とも全然記憶無いみたいだし、あの混乱で夢か幻でも見たのかと思ったわ。」
兄は、やっとスッキリしたという顔で、ビールをプハーっと飲み干す。そして、次のお酒を注文すると、少し話ずらそうに私を見る。
「先週、歩美から電話貰ってから、なんとなく・・・もしかしてって思ったんだ。だから、拓也に聞いたけど、やっぱり、何も覚えてないっぽいんだよな。」
私は、先週、過去から戻ってきたことを話す。そして、笑って言う。
「これで良かったんだと思う。神崎さんが、今、幸せなら。」
・・・彼が、幸せなら、これが良かったんだ。
この世界のどこかで、あんな苦しみも無く、笑っているなら。そう、呪文のように毎日唱えて寝ている。
「歩美・・・ごめんな。」
「なんで謝るのよ!私も神崎さんも、望んだ未来なんだよ?」
私は、なんだか、兄の顔を見ていたら、大丈夫な気がしてきた。兄は、らしくなく、申し訳なさそうにする。
「お兄ちゃん、私は今日、過去から帰ってきて、やっと数年ぶりに、お兄ちゃんに会えたんだよ?」
兄が私を見る。
「だから、助けてあげたお礼に、今日は奢りね?」
「奢るの、1回だけじゃ足りねーな。」
1週間ぶりに笑った、その時だった。
「わぁ♪綾瀬先生!会えて嬉しいです。」
背中から、あまりにも聞き覚えのある声に、一瞬首が固まった。
兄が後ろを振り向いて、返事をする。
「あ~、こんばんは、林さん。」
振り向くと、林さんが兄の所に駆け寄ってきた。その後ろには、桜井君も居た。
「綾瀬先生、今日もお仕事だったんですね。お疲れ様です!私たちは、今日はゴルフ接待だったんです。・・・先生は、デートですか?」
林さんが、私を見る。その目が、嫉妬に染まっている・・・。
え?・・え?林さん???
兄がニコニコしながら言う。
「あ、そうそう、デートなんですよ~。妹と。」
「あ!妹さんだったんですね。突然失礼しました。はじめまして。私は、林 裕子と申します。お兄様のお友達の秘書をしているものです。」
「で?拓也は?」
「今、仕事の電話をしている所で、すぐにいらっしゃいますよ。」
そう言って、兄に視線を向ける林さんの目が、とっても甘かった。
・・・この感じは、まさか、林さん兄に惚れてる??
すいっと視線を移して、桜井君を見る。
「あ、はじめまして。同じ職場の桜井です。」丁寧にお辞儀される。私も、即座にお辞儀する。すると、兄が得意げに話し始めた。
「桜井は、拓也の部下で、時々ウチに遊びに来るんだ。歩美と同い年だぞ。」
なんか、嬉しくなって、親しみが溢れ出て、手を差し出しながら、満面の笑みで挨拶をしてしまう。
「桜井君、よろしく!綾瀬歩美です。」
すると、桜井君が少し頬を染めて、私の手を握る。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
これで、この2人とも、前みたいに知り合えたんだ。
それが嬉しく思った。
程なくして、あの人が、お店に入ってくる。
1週間ぶりに見る彼は、見知らぬ、年上の女性と一緒だった。
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