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第22話 再会
しおりを挟む長身の神崎さんは、少し目立つので、目で追いやすい。
でも、彼と同じ位に長身で綺麗な女性が、ピタリと離れずに歩いてくる。
すぐに、兄を見つけて、こちらに歩いて来た。
私の方を見て、表情を変えずに、少し眺められただけだった。
「晃・・・ごめん、デートだった?邪魔した。こいつらが、どうしてもこの店に行くって言うからさ。」
兄が、私の方をチラリと見ながら言う。
「何言ってんだよ。妹だよ。デートなら別の店選ぶわ!」
それを聞いて、神崎さんは、私の方を見て、何かを納得したように言った。
「妹・・・あぁ、なるほど。」
神崎さんは、他人行儀から急に一変させて、優しく笑いかけてくれた。
「確か・・・あゆみちゃん?だったかな。君が高校生の時に、1度会ったことあるんだけど。なんか・・・当たり前だけど、大人になったね。綺麗な女性になってて、気が付かなかった。」
瞬間に、その場にいた全員が、少し驚いたようにした。
「ちょっと拓也!なにそれ?私が居るのに、そんなこと言うなんて!」
神崎さんの、真後ろにピッタリとくっついていた女性が怒る。
兄も驚いたようで、神崎さんを覗き込む。
「・・・拓也、おまえ、どーしたんだよ?女に、綺麗とか言ってんの初めて見たわ。」
そう言われて、神崎さんが、たじろぐ。
「え?そうだったか?いや、そんな変な意味で言ったわけではなくてだな。」
見知らぬ女性は、神崎さんの腕に自分の腕をからめると、神崎さんを引っ張る。
「拓也、こっちで飲もうよ!」
2人で端の席に行ってしまった。
こうして、カウンター席を占領するかのように全員で1列に並んで飲み始めた。
林さんは、兄とばかり話し、桜井君は相変わらずで明るく楽しい会話だった。
神崎さんと彼女さんの会話は、全く聞こえなかったし、聞きたくも見たくも無かった。
とにかくお酒を飲んで、飲んで、飲んで飲みまくる。これが、飲まずにいられる?
すると、林さんが、私のほうに向きなおって言った。
「あの方はですね、社長令嬢の玲子さんです。神崎さんが部長になってから、目を付けられてしまいまして、追いかけまわされているんですよ。」
その話に、桜井君が乗っかる。
「神崎さんも、それなりに避けてるみたいですけどね~、ストーカーみたいに行く場所に現れるんすよ。まぁ、あの2人が並ぶと美男美女でお似合いだし、オーラと迫力ハンパないっすよね。」
兄が、エビのアヒージョを摘まんでから聞く。
「拓也は、どう思ってんだろうな?まんざらでもないのかと思ってたわ。俺が見る限り、ずっと一緒にいるだろ?」
兄がチラリと見る。
分かっている。変に期待するなよという目だ。
て言うか、兄よ。ずっと一緒にいるとか聞かされたく無かった。
どうやら、私の頭の中では、元々あった記憶が夢のような感覚になり、薄れていくようだった。
林さんに会ってから、彼女は神崎さんが好きだったはず・・・?が、夢だったような感覚になる。
こうして、私の中で、いつしか、古い記憶は消滅していくのかもしれない。
「え?歩美さん、親会社の人だったんすね!しかも同じシステム開発!」
桜井君の大きな声を出す。
「良かったら連絡先、交換しませんか?」
そう言われて、いいよ♪とスマホを取り出す。これで、前に少し戻った気持ちになる。
「じゃぁ、桜井君、今日から友達ね♪」
そう言うと、桜井君が何故か顔を赤らめる。
「ヤバイっす。歩美さん可愛すぎる~。」
それを聞いた兄が、振り向く。
「俺の妹が可愛いのは、当たり前だろうが。」
桜井君は、キラキラした目で、急に私の手を握りしめてきた。
「なんか初めて会ったのに、初めてな気がしないっすね!運命を感じる~!」
・・・見るからに酔っぱらっている桜井君は、可愛い男の子になっている。運命とか言うところが、乙女だ(笑)
初めての気がしないのも、気が合うのも、私が桜井君を理解しているからだろう。彼の場合、今のこの感じは、明日は記憶が無い状態だと解る。いつもの酔っ払いだ。まったくもう。
ガタン!と立ち上がる音がして、桜井君は神崎さんに、首根っこを掴まれて持ち上げられて「ぐえ」と言った。
「桜井!初対面で失礼だろ。飲み過ぎだぞ。歩美ちゃんの手を離せ。」
慌てて、神崎さんに訴える。
「だ、大丈夫です!そこまで気にしてないので!」
「・・・だけど・・・ごめんな?兄妹水入らずの所を、邪魔して。」
「・・・・。」
兄妹水入らず・・・ううん。3人に会えて、どんなに嬉しいか。
私は、少し目を伏せてから、神崎さんを見る。
彼の目は、以前のような陰りは無い、明るい表情だった。
良かった。
本当に良かったんだ。これで。
あなたは、1人じゃない。林さんや、桜井君や兄が居て、綺麗なお姉さんに好かれて、幸せにくらしてる。
みんなに記憶が無くったって、みんなの温かさは何も変わらなかった。
「・・・ありがとうございます。」
一緒に、兄を救ってくれた。今まで、私と一緒に居てくれた。
“さようなら”の代わりに、感謝しようと思う。
神崎さんの目を、見ていたら、泣きそうになった。
これ以上、この人の傍にいられない。
目の端に移る。玲子さんの、私を睨む顔・・・。
私は、自分の荷物と上着を持ち上げる。
「お兄ちゃん、私、今日はもう帰るね。」
「ん?・・・あぁ、分かった。またな?」
逃げ出すように、足早に、お店を出て、お店を出ると、走り出す。
みんなと一緒にいたかった。
神崎さんと、一緒にいたかった。
お店の扉が閉まると、林さんが言った。
「御一人で帰してしまって、良かったんですか?」
「ん~、まぁ、大丈夫だろ。それよりさ。」
晃は、拓也をジロリと見る。そして言った。
「拓也、おまえどうしたんだよ?なんか今日変だぞ?何を、そんなにイライラしてんだ?」
「・・・・そんなつもりは。」
すると、玲子が嫌味っぽく言う。
「いつもと違うメンバーが居て、空気が乱されてイライラしたんじゃないの?」
その瞬間に、神崎が低い声で言った。
「玲子さん、もう帰ってくれないか?」
「・・え?な・・なんて言ったの?拓也?」
瞬間に、林さんと桜井君が、冷や汗を流す。
神崎は、玲子を真っすぐに見て言った。
「付きまとわれて迷惑してる。もう2度と、俺に触るな。名前で呼ばないで欲しい。彼女でもなんでもないのだから。」
「な・・・なんですって!!?酷い!!パパに言いつけてやるから!!」
玲子は、意外にも、半泣きで走り去って行った。
その場が、しーーーーんと、静まり返る。
林さんが、戸惑ったように問う。
「神崎さん・・・どうしたんですか?あそこまで言うなんて。」
「社長に言いつけるって言ってましたよ?」桜井君が青ざめる。
神崎は、清々したとでも言いたげに、ため息をついて言う。
「今まで思っていたことを、言ってやったまでだ。」
ケタケタと晃が笑う。
「言ってやったなぁ~?愉快愉快!アハハハ!しっかし、おまえ、本当に今日はどうしたんだよ。酒飲みすぎかぁ?」
晃の言葉に林さんが反論する。
「いえいえ、今日は神崎さん、全然飲んでないですよ?まだ2杯。」
そんな事より、と神崎は晃に言った。
「晃の妹、追いかけた方が良いんじゃないか?酔ってたみたいだし。」
晃は、ニヤリと笑って、言う。
「確かに、なんかフラフラだったよなぁ。俺、兄としてすっげー心配だわ。でも、林さん置いて行けないしー。俺も酔ってるしー。探しに行ってきてくれないか?なぁ、拓也。」
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