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第23話 神崎視点
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お店を出て、駅の方に走り出す。
電話が鳴って、晃から“歩美の電話番号コレ→”とメッセージが届く。
電話番号をタップする。
何回かコールするけれども、出ない。
仕方が無いので、駅の中を、あちこち探す。
どこにも見当たらなかった。
おそらく、もう、電車に乗ったのだろう。
そう考えて、引き返す。
そして、なんとなく、考えていた。
何故、あんなにイライラしたのか。本当に、らしくない。今まで通り、ハッキリさせずに上手く立ち回っていれば良かったと思う。しかし、許せなかった。親友の妹を邪魔者のように言われるのは、許せない。だから、ハッキリと言ってやった。
・・・それだけじゃない。
あの子は、俺の初恋だった。
俺は、たぶん、それなりに女性と付き合ってきた。
中学の時から、告白されては、誰かと付き合ってた気がする。だけど、自分から好きになったことは無かった。
昔から本が好きで、宇宙の本とか物理学とか、化学とか、そんな事ばかりが頭を占めていて。女性に興味は無かったし、得体の知れない生き物だと思っていた。興味を持っても、好きとかそうゆう感情は無かった。全く違う世界で生きる、分かり合えない生き物。それが女なんだと、そう思っていた。
だけど、会った瞬間から、彼女は他の誰とも違った。
大人になって、あれが初恋だったんだと解った。
何の知識も無いくせに、理工学に興味を持って、俺自身の思考回路に入り込んできた。そして、理解しようとしている姿が、健気で可愛かった。着飾ってもいないのに、彼女自身がキラキラと光るように見える感じ。その全てが、俺の心を掴んで、全部持って行かれる感覚。誰かと共有する喜び。そういったものが、胸の高鳴りと共に甘い優しい気持ちを呼び寄せる。
あれから、10年ほど、会おうと思えば会えただろうに、それをしなかった。生活や他の事に追われて、誰かに告白されれば付き合った。
いつしか忘れていたのに、どうしてなんだろう?
さっき、会った時に、胸が高鳴るのを感じた。
忘れていた感情がぶり返すみたいに、懐かしさと親しみと、優しい気持ちになった。
彼女を、暫く見ていて思うのは、晃と似ていて、よく笑って性格も明るい子なんだと思う。なのに、彼女は、どうしてなのか、時折どこか物憂げに寂しそうな表情を浮かべて、俺を見る。
桜井が何か不快な思いをさせているのではと思ったが、違うようだった。
最後に俺を見た、あの目が、何か言いたげだった。
さっきまで、笑っていた彼女が、どうして、あんな目をするのか。
どうして、こんなに、心をかき乱されるのか。
彼女が、出て行ってしまってから、その衝動というか、感情が、体を支配しはじめる。
今、彼女を追いかけなくてはいけない。
何故?・・・そんなの分かるか!自分で意味が解らない。
泣きそうな目で、走って出て行ったんだ。
たぶん、きっと・・・どこかで泣いてる。
お店に戻る間、電話をかけ続ける。
諦めかけた時、プツっと繋がった音がした。
「もしもし?」
話しかけると、携帯の向こうから、ザワザワと人込みの声、それから息づかいが聞こえた。
深いため息だった。
「・・・はい。」
くぐもった声が聞こえる。
「今、どこ?」
「・・・・神崎さん。私・・・。」
彼女は、名乗ってもいない俺の名を呼んだ。
「歩美ちゃん、今・・・どこにいる?」
突然、電話の向こうから、他の声が割り込んで来る。
『あれ~?カノジョ、何泣いてるのぉ?1人なの?オレらと一緒に楽しいトコいかない?ねぇ。』
ゾワリとする。男の声だ。
「歩美ちゃん?!今どこ?どこにいる!?」
『ほらほら~、泣かないで?ね?一緒に遊ぼうよぉ~。俺らで慰めてあげるからさぁ。』
「歩美ちゃん!」
必死で呼びかけても、なんの返答もない。
『ほらぁ、どうしたのぉ?とりあえずさ、道玄坂まで歩こうか?ほら、立って~』
ブツン・・・と、そこで切れた。
目の前のタクシーを使うか迷って、電車の方が早いと判断する。
渋谷は隣だ。
ハチ公前で探し、スクランブル交差点を渡って、道玄坂に走る。
見つからない、道玄坂小路に入ったところで、彼女を見つけた。
男2人に両側から抱え込まれるようにして、フラフラと歩いていた。
「待て!!彼女を離せ!」
片方の男の肩を掴むと、思いっきり殴りかかる。ガツ!!と相手の右頬に命中する。
歩美はその場に倒れた。
「あんだよ!オッサン!」
神崎は、20代と思われる若い、ガラの悪い男を睨みつけた。
「警察呼ぶぞ!強制わいせつ罪で刑務所行きたいか!!!」
周囲に人も多かったせいか、2人は「ちっ!!」と舌打ちをして逃げて行く。
すぐに、歩美の肩を掴んで、抱き起す。
「・・・歩美ちゃん!歩美ちゃん?起きろ!」
歩美はぐったりと眠っていた。
「・・・・・はぁ。参ったな。」
どうしたものかと、少し考えてから、人目に付くので、やはり起こすことにした。
「おーい、起きろー!頼むー。勘弁してくれー。」
何度目かで、歩美が、うっすらと目を開けた。
「歩美ちゃん?起きた?ほら、しっかりして、帰るぞ?」
ボーーーーーっと、数秒、俺を見てから彼女は言った。
「神崎さん・・・どうしたんですか?」
「・・・・・どうって・・・まぁ、無事で良かったよ。さぁ、帰ろう。」
そう言って、立ち上がらせて、なんとか支えて歩き出す。
大通りでタクシーを探す。
ギュウっと胸元のシャツを握りしめられる。
「・・・・。」
なんとなく、タクシーを呼ぶのをやめて、彼女の方を見る。
俺の背中に左腕を回し、右手は胸辺りのシャツを握ったまま、ピッタリと頭をくっつけて、彼女は震えていた。
泣いているのだと分かった。
「どうした?」
彼女は、少しの間の後に、言う。
「私は・・・光のスピードを超えたんです。」
「え?」
「あなたに、会いたくて、今のあなたに。だから、嬉しいんです。」
光のスピード?ん?相対性理論のことか?超えてきたって・・・。
「だけど今度は、お酒のおかげで、重力が増大して、今だけ時間をとめてます。」
???いや、お酒の力じゃ重力変わらないだろ・・・。
「大丈夫?」
そう聞くと、また面白い事を言われる。
「動けない・・・今、ブラックホールにはまってるから。」
「ふふっ。そうか、だから、俺には君が止まって見えるのかな?」
物理のような?おかしなことを話す彼女と、もう少し話をしたくなって、横に座る。
「神崎さんが、好きでした。」
突然の告白に、ドキリとする。
俺を見て、悲しそうに笑う。
「どうして、私が貴方を好きなのか、どんなに、私が貴方を好きなのか、どうしたって、きっと伝わらないでしょう?」
大粒の涙を流して、酷く悲しい顔で泣く。
だから、聞いてみた。
「じゃぁ、わからないから、教えてくれないか?」
泣き崩れそうな顔を見せるから、肩を引き寄せる。そのまま、彼女に抱きつかれて・・・気が付く。
嬉しいという感情。
好きだと言われて、温かい気持ちになった。
何故なのだろう?
空を見上げて、星が見えなくて、それから、彼女の小さい体を抱きしめる。
この子と、話すのは2度目のはずだ。それなのに、なぜこんな気持ちになるのか?
たとえば、“好き”とか、そうゆう感情に、理由や時間なんか必要なのだろうか?
俺自身、この感情をどう説明すればいいのだろう。
“好き”とか、“愛しい”とか、“守ってあげたい”とか、“理解してあげたい”とか、それに近い感情が込み上げてくるのに、これがそうなのか、説明できるのか解らない。
だから、確かめるように、彼女の目を見て、ゆっくりと唇に指を這わす。
そうすると、彼女は目を閉じた。
今の感情を伝えるには、言葉では不可能だと思った。
だから、キスをした。
完全に、彼女の雰囲気に流されたのかもしれない。
唇を重ねてみて、その時に気が付いた。
この行為が、こんなに意味のある事だなんて、今まで知らなかったほどに。
彼女とのキスは、甘く優しくて、切なかった。
電話が鳴って、晃から“歩美の電話番号コレ→”とメッセージが届く。
電話番号をタップする。
何回かコールするけれども、出ない。
仕方が無いので、駅の中を、あちこち探す。
どこにも見当たらなかった。
おそらく、もう、電車に乗ったのだろう。
そう考えて、引き返す。
そして、なんとなく、考えていた。
何故、あんなにイライラしたのか。本当に、らしくない。今まで通り、ハッキリさせずに上手く立ち回っていれば良かったと思う。しかし、許せなかった。親友の妹を邪魔者のように言われるのは、許せない。だから、ハッキリと言ってやった。
・・・それだけじゃない。
あの子は、俺の初恋だった。
俺は、たぶん、それなりに女性と付き合ってきた。
中学の時から、告白されては、誰かと付き合ってた気がする。だけど、自分から好きになったことは無かった。
昔から本が好きで、宇宙の本とか物理学とか、化学とか、そんな事ばかりが頭を占めていて。女性に興味は無かったし、得体の知れない生き物だと思っていた。興味を持っても、好きとかそうゆう感情は無かった。全く違う世界で生きる、分かり合えない生き物。それが女なんだと、そう思っていた。
だけど、会った瞬間から、彼女は他の誰とも違った。
大人になって、あれが初恋だったんだと解った。
何の知識も無いくせに、理工学に興味を持って、俺自身の思考回路に入り込んできた。そして、理解しようとしている姿が、健気で可愛かった。着飾ってもいないのに、彼女自身がキラキラと光るように見える感じ。その全てが、俺の心を掴んで、全部持って行かれる感覚。誰かと共有する喜び。そういったものが、胸の高鳴りと共に甘い優しい気持ちを呼び寄せる。
あれから、10年ほど、会おうと思えば会えただろうに、それをしなかった。生活や他の事に追われて、誰かに告白されれば付き合った。
いつしか忘れていたのに、どうしてなんだろう?
さっき、会った時に、胸が高鳴るのを感じた。
忘れていた感情がぶり返すみたいに、懐かしさと親しみと、優しい気持ちになった。
彼女を、暫く見ていて思うのは、晃と似ていて、よく笑って性格も明るい子なんだと思う。なのに、彼女は、どうしてなのか、時折どこか物憂げに寂しそうな表情を浮かべて、俺を見る。
桜井が何か不快な思いをさせているのではと思ったが、違うようだった。
最後に俺を見た、あの目が、何か言いたげだった。
さっきまで、笑っていた彼女が、どうして、あんな目をするのか。
どうして、こんなに、心をかき乱されるのか。
彼女が、出て行ってしまってから、その衝動というか、感情が、体を支配しはじめる。
今、彼女を追いかけなくてはいけない。
何故?・・・そんなの分かるか!自分で意味が解らない。
泣きそうな目で、走って出て行ったんだ。
たぶん、きっと・・・どこかで泣いてる。
お店に戻る間、電話をかけ続ける。
諦めかけた時、プツっと繋がった音がした。
「もしもし?」
話しかけると、携帯の向こうから、ザワザワと人込みの声、それから息づかいが聞こえた。
深いため息だった。
「・・・はい。」
くぐもった声が聞こえる。
「今、どこ?」
「・・・・神崎さん。私・・・。」
彼女は、名乗ってもいない俺の名を呼んだ。
「歩美ちゃん、今・・・どこにいる?」
突然、電話の向こうから、他の声が割り込んで来る。
『あれ~?カノジョ、何泣いてるのぉ?1人なの?オレらと一緒に楽しいトコいかない?ねぇ。』
ゾワリとする。男の声だ。
「歩美ちゃん?!今どこ?どこにいる!?」
『ほらほら~、泣かないで?ね?一緒に遊ぼうよぉ~。俺らで慰めてあげるからさぁ。』
「歩美ちゃん!」
必死で呼びかけても、なんの返答もない。
『ほらぁ、どうしたのぉ?とりあえずさ、道玄坂まで歩こうか?ほら、立って~』
ブツン・・・と、そこで切れた。
目の前のタクシーを使うか迷って、電車の方が早いと判断する。
渋谷は隣だ。
ハチ公前で探し、スクランブル交差点を渡って、道玄坂に走る。
見つからない、道玄坂小路に入ったところで、彼女を見つけた。
男2人に両側から抱え込まれるようにして、フラフラと歩いていた。
「待て!!彼女を離せ!」
片方の男の肩を掴むと、思いっきり殴りかかる。ガツ!!と相手の右頬に命中する。
歩美はその場に倒れた。
「あんだよ!オッサン!」
神崎は、20代と思われる若い、ガラの悪い男を睨みつけた。
「警察呼ぶぞ!強制わいせつ罪で刑務所行きたいか!!!」
周囲に人も多かったせいか、2人は「ちっ!!」と舌打ちをして逃げて行く。
すぐに、歩美の肩を掴んで、抱き起す。
「・・・歩美ちゃん!歩美ちゃん?起きろ!」
歩美はぐったりと眠っていた。
「・・・・・はぁ。参ったな。」
どうしたものかと、少し考えてから、人目に付くので、やはり起こすことにした。
「おーい、起きろー!頼むー。勘弁してくれー。」
何度目かで、歩美が、うっすらと目を開けた。
「歩美ちゃん?起きた?ほら、しっかりして、帰るぞ?」
ボーーーーーっと、数秒、俺を見てから彼女は言った。
「神崎さん・・・どうしたんですか?」
「・・・・・どうって・・・まぁ、無事で良かったよ。さぁ、帰ろう。」
そう言って、立ち上がらせて、なんとか支えて歩き出す。
大通りでタクシーを探す。
ギュウっと胸元のシャツを握りしめられる。
「・・・・。」
なんとなく、タクシーを呼ぶのをやめて、彼女の方を見る。
俺の背中に左腕を回し、右手は胸辺りのシャツを握ったまま、ピッタリと頭をくっつけて、彼女は震えていた。
泣いているのだと分かった。
「どうした?」
彼女は、少しの間の後に、言う。
「私は・・・光のスピードを超えたんです。」
「え?」
「あなたに、会いたくて、今のあなたに。だから、嬉しいんです。」
光のスピード?ん?相対性理論のことか?超えてきたって・・・。
「だけど今度は、お酒のおかげで、重力が増大して、今だけ時間をとめてます。」
???いや、お酒の力じゃ重力変わらないだろ・・・。
「大丈夫?」
そう聞くと、また面白い事を言われる。
「動けない・・・今、ブラックホールにはまってるから。」
「ふふっ。そうか、だから、俺には君が止まって見えるのかな?」
物理のような?おかしなことを話す彼女と、もう少し話をしたくなって、横に座る。
「神崎さんが、好きでした。」
突然の告白に、ドキリとする。
俺を見て、悲しそうに笑う。
「どうして、私が貴方を好きなのか、どんなに、私が貴方を好きなのか、どうしたって、きっと伝わらないでしょう?」
大粒の涙を流して、酷く悲しい顔で泣く。
だから、聞いてみた。
「じゃぁ、わからないから、教えてくれないか?」
泣き崩れそうな顔を見せるから、肩を引き寄せる。そのまま、彼女に抱きつかれて・・・気が付く。
嬉しいという感情。
好きだと言われて、温かい気持ちになった。
何故なのだろう?
空を見上げて、星が見えなくて、それから、彼女の小さい体を抱きしめる。
この子と、話すのは2度目のはずだ。それなのに、なぜこんな気持ちになるのか?
たとえば、“好き”とか、そうゆう感情に、理由や時間なんか必要なのだろうか?
俺自身、この感情をどう説明すればいいのだろう。
“好き”とか、“愛しい”とか、“守ってあげたい”とか、“理解してあげたい”とか、それに近い感情が込み上げてくるのに、これがそうなのか、説明できるのか解らない。
だから、確かめるように、彼女の目を見て、ゆっくりと唇に指を這わす。
そうすると、彼女は目を閉じた。
今の感情を伝えるには、言葉では不可能だと思った。
だから、キスをした。
完全に、彼女の雰囲気に流されたのかもしれない。
唇を重ねてみて、その時に気が付いた。
この行為が、こんなに意味のある事だなんて、今まで知らなかったほどに。
彼女とのキスは、甘く優しくて、切なかった。
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