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第24話 最終話
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大量のお酒を飲んでから、駅まで走ったせいで、お酒が回った。
気が付いた時には、渋谷のハチ公前だった。
なぜ渋谷?私は、乗る電車を間違えたのだと気が付く。
もう、なんか疲れてしまって、ハチの足元に座り込む。
神崎さんには、彼女が居た。社長令嬢で、大人で綺麗で・・・。きっと将来も約束されているのだろう。
絶望的だ。
彼にとって、あの女性と過ごした時間は、私との時間よりもはるかに長い筈だ。
そう、私との時間は全て消えて無くなったんだから。
何もかも。
記憶は人の全てだ。
その人を作り上げる、人となりを形成する全てだ。
気持ちも考えも、経験や記憶からくる。
だから、もう、あの人は、いない。
どこにも。いないんだ。
未来を変えたことで、あの人を消滅させたんだ。
私を探してくれた。辛い過去を抱えて笑う、優しいあの人を、消したんだ。
電話が鳴ったので、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
神崎さんの声だ。
込み上げてくる想いを、何とか抑えて声を出す。
「・・・はい。」
「今、どこ?」
耳元から聞こえる、大好きな人の声。
どこ?って・・・もう1度会いたい。そんな期待にかられる。
「・・・・神崎さん。私・・・。」
会いたい。本当は、側にいてほしい。今すぐ、あなたに会いたい。でも、あなたの隣には、あの人が居る・・・。
これからは、神崎さんが他の女性と一緒にいるのを、見なきゃいけないんだ。
「歩美ちゃん、今・・・どこにいる?」
“ちゃん” 付けで呼ばれると、なんか、子供扱いされてる気分になる。
声が聞けて嬉しいのに、同時に辛さと悲しさが込み上げて、涙が溢れ出てくる。
しかも・・・ぐわんぐわんと、お酒が回って、朦朧とする。
「あれ~?カノジョ、何泣いてるのぉ?1人なの?オレらと一緒に楽しいトコいかない?ねぇ。」
突然、若い男の子たちが、しゃがみ込んで私の顔を覗いてくる。
「ほらほら~、泣かないで?ね?一緒に遊ぼうよぉ~。俺らで慰めてあげるからさぁ。」
一人が隣に座り、私の肩を抱く。
飲み過ぎの気持ち悪さと、激しく泣いたせいで、頭が痛くて、簡単に体制を崩して、男の方に倒れ込む。
歩美ちゃん!
遠くで、神崎さんの声がする。ような、気がする。
「ほらぁ、どうしたのぉ?とりあえずさ、道玄坂まで歩こうか?ほら、立って~」
ふと思う。
知らない男に触れられて不快なのに、その腕は大きくて、1人で立ち上がれなかった私を、簡単に歩かせる。
私は、こんなふうに、いつかは、神崎さんではない、他の誰かに、肩を抱かれて笑う日が来るのかな?
この男が言うように、誰かに慰められたら、忘れられるのかな?
忘れたい。
忘れられるなら。
もう、苦しくて苦しくて、立っていられないよ。
他の女性と腕を絡めて歩く、あなたを見たくなかった。
その姿は、私を打ちのめして、簡単に地獄に突き落とした。
もう、どうなってもいい。
そこで、プツリと意識が途切れた。
次に意識が浮上してくると、なんか、神崎さんの声がする?
・・・あれ?この匂いは、この腕の安堵感は・・・。
目を開けると、神崎さんの心配そうな顔。わたし、どうしたんだっけ?
「・・・まぁ、無事で良かったよ。さぁ、帰ろう。」
帰る??帰るってどこに?
また、あの女性が居る所に?
ギュウっと胸元のシャツを握りしめる。
ここに居て。あの人の所には、行かないで。
もう少しだけ、2人でいたい。
気持ちが伝わったのか、タクシーを呼ぼうとしていた彼は、私を支えなおして、こちらを向く。
「どうした?」
前と同じように、優しい声が私に響いてくる。
こうして2人でいると、何も変わらないように思えるのに、何もかもが違う。
私は、覚えている。私の中では何も変わらない。あなたと過ごした奇跡のような時間を。
「私は・・・光のスピードを超えたんです。」
光の速度を超えて、時間を超える。タイムトラベルは、論理的に可能だ。昔、あなたが教えてくれた。
「え?」
もしも、再び、あの瞬間に戻ったとしても、私は何度でも同じようにすると思う。
だって、私は、兄も神崎さんも救いたいと思うから。
これでいい。忘れてしまっても・・・。
いや、待って、
忘れる?
消えてしまったあの時間は、私があなたを好きになった全てだ。理由だ。
忘れたくなんかない。何があっても、忘れたくない。失いたくなんかない。
まるで、ブラックホールだ。
私だけ、あの時間に取り残されてる。
お兄ちゃんを、神崎さんを救いたかった。だけど、ずっと、そばにいたい。追いかけて落ちて行くけど、辿り着かない。
「動けない・・・今、ブラックホールにはまってるから。」
「ふふっ。そうか、だから、俺には君が止まって見えるのかな?」
・・・あなたが笑う、その顔が好き。
「神崎さんが、好きでした。」
時間が、止まればいいのに。そう思う。
「どうして、私が貴方を好きなのか、どんなに、私が貴方を好きなのか、どうしたって、きっと伝わらないでしょう?」
行き場の無い、私の想いは、どうしたらいいのだろう。
私が、あなたに言えるのは、こうして酔った勢いで、ここまでだ。
そう思ったのに、あなたは言った。
「じゃぁ、わからないから、教えてくれないか?」
思いもしなかった、その言葉は、私を勇気づけた。
私の話を聞いてくれる?
何も覚えていないくせに、手を差し伸べてくれているように、錯覚する。
嬉しいという感情。
それから、彼に肩を引き寄せられて、胸は高鳴った。
これが夢なら覚めないで。
確かめるように見つめ合って、彼の指が、ゆっくりと唇に触れる。
早く早く。欲しい。
唇を重ねてみて、その時に気が付いた。
あぁ、そうだ。
諦める事なんてできない。手放すなんて出来ない。
はじめから、やり直せばいい。
何度だって、始めればいい。
あなたが、本気で私を好きだと言ってくれたなら、きっと。
私たちは、何度、『はじめまして』を繰り返しても、なんど出会いをやりなおしても。
お互いに好きになる。
あなたが忘れてしまったなら、私があなたを探しに行く。
傍にいる。
あなたに、精一杯の愛してるをこめて。
会いに行くから。
気が付いた時には、渋谷のハチ公前だった。
なぜ渋谷?私は、乗る電車を間違えたのだと気が付く。
もう、なんか疲れてしまって、ハチの足元に座り込む。
神崎さんには、彼女が居た。社長令嬢で、大人で綺麗で・・・。きっと将来も約束されているのだろう。
絶望的だ。
彼にとって、あの女性と過ごした時間は、私との時間よりもはるかに長い筈だ。
そう、私との時間は全て消えて無くなったんだから。
何もかも。
記憶は人の全てだ。
その人を作り上げる、人となりを形成する全てだ。
気持ちも考えも、経験や記憶からくる。
だから、もう、あの人は、いない。
どこにも。いないんだ。
未来を変えたことで、あの人を消滅させたんだ。
私を探してくれた。辛い過去を抱えて笑う、優しいあの人を、消したんだ。
電話が鳴ったので、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
神崎さんの声だ。
込み上げてくる想いを、何とか抑えて声を出す。
「・・・はい。」
「今、どこ?」
耳元から聞こえる、大好きな人の声。
どこ?って・・・もう1度会いたい。そんな期待にかられる。
「・・・・神崎さん。私・・・。」
会いたい。本当は、側にいてほしい。今すぐ、あなたに会いたい。でも、あなたの隣には、あの人が居る・・・。
これからは、神崎さんが他の女性と一緒にいるのを、見なきゃいけないんだ。
「歩美ちゃん、今・・・どこにいる?」
“ちゃん” 付けで呼ばれると、なんか、子供扱いされてる気分になる。
声が聞けて嬉しいのに、同時に辛さと悲しさが込み上げて、涙が溢れ出てくる。
しかも・・・ぐわんぐわんと、お酒が回って、朦朧とする。
「あれ~?カノジョ、何泣いてるのぉ?1人なの?オレらと一緒に楽しいトコいかない?ねぇ。」
突然、若い男の子たちが、しゃがみ込んで私の顔を覗いてくる。
「ほらほら~、泣かないで?ね?一緒に遊ぼうよぉ~。俺らで慰めてあげるからさぁ。」
一人が隣に座り、私の肩を抱く。
飲み過ぎの気持ち悪さと、激しく泣いたせいで、頭が痛くて、簡単に体制を崩して、男の方に倒れ込む。
歩美ちゃん!
遠くで、神崎さんの声がする。ような、気がする。
「ほらぁ、どうしたのぉ?とりあえずさ、道玄坂まで歩こうか?ほら、立って~」
ふと思う。
知らない男に触れられて不快なのに、その腕は大きくて、1人で立ち上がれなかった私を、簡単に歩かせる。
私は、こんなふうに、いつかは、神崎さんではない、他の誰かに、肩を抱かれて笑う日が来るのかな?
この男が言うように、誰かに慰められたら、忘れられるのかな?
忘れたい。
忘れられるなら。
もう、苦しくて苦しくて、立っていられないよ。
他の女性と腕を絡めて歩く、あなたを見たくなかった。
その姿は、私を打ちのめして、簡単に地獄に突き落とした。
もう、どうなってもいい。
そこで、プツリと意識が途切れた。
次に意識が浮上してくると、なんか、神崎さんの声がする?
・・・あれ?この匂いは、この腕の安堵感は・・・。
目を開けると、神崎さんの心配そうな顔。わたし、どうしたんだっけ?
「・・・まぁ、無事で良かったよ。さぁ、帰ろう。」
帰る??帰るってどこに?
また、あの女性が居る所に?
ギュウっと胸元のシャツを握りしめる。
ここに居て。あの人の所には、行かないで。
もう少しだけ、2人でいたい。
気持ちが伝わったのか、タクシーを呼ぼうとしていた彼は、私を支えなおして、こちらを向く。
「どうした?」
前と同じように、優しい声が私に響いてくる。
こうして2人でいると、何も変わらないように思えるのに、何もかもが違う。
私は、覚えている。私の中では何も変わらない。あなたと過ごした奇跡のような時間を。
「私は・・・光のスピードを超えたんです。」
光の速度を超えて、時間を超える。タイムトラベルは、論理的に可能だ。昔、あなたが教えてくれた。
「え?」
もしも、再び、あの瞬間に戻ったとしても、私は何度でも同じようにすると思う。
だって、私は、兄も神崎さんも救いたいと思うから。
これでいい。忘れてしまっても・・・。
いや、待って、
忘れる?
消えてしまったあの時間は、私があなたを好きになった全てだ。理由だ。
忘れたくなんかない。何があっても、忘れたくない。失いたくなんかない。
まるで、ブラックホールだ。
私だけ、あの時間に取り残されてる。
お兄ちゃんを、神崎さんを救いたかった。だけど、ずっと、そばにいたい。追いかけて落ちて行くけど、辿り着かない。
「動けない・・・今、ブラックホールにはまってるから。」
「ふふっ。そうか、だから、俺には君が止まって見えるのかな?」
・・・あなたが笑う、その顔が好き。
「神崎さんが、好きでした。」
時間が、止まればいいのに。そう思う。
「どうして、私が貴方を好きなのか、どんなに、私が貴方を好きなのか、どうしたって、きっと伝わらないでしょう?」
行き場の無い、私の想いは、どうしたらいいのだろう。
私が、あなたに言えるのは、こうして酔った勢いで、ここまでだ。
そう思ったのに、あなたは言った。
「じゃぁ、わからないから、教えてくれないか?」
思いもしなかった、その言葉は、私を勇気づけた。
私の話を聞いてくれる?
何も覚えていないくせに、手を差し伸べてくれているように、錯覚する。
嬉しいという感情。
それから、彼に肩を引き寄せられて、胸は高鳴った。
これが夢なら覚めないで。
確かめるように見つめ合って、彼の指が、ゆっくりと唇に触れる。
早く早く。欲しい。
唇を重ねてみて、その時に気が付いた。
あぁ、そうだ。
諦める事なんてできない。手放すなんて出来ない。
はじめから、やり直せばいい。
何度だって、始めればいい。
あなたが、本気で私を好きだと言ってくれたなら、きっと。
私たちは、何度、『はじめまして』を繰り返しても、なんど出会いをやりなおしても。
お互いに好きになる。
あなたが忘れてしまったなら、私があなたを探しに行く。
傍にいる。
あなたに、精一杯の愛してるをこめて。
会いに行くから。
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作者様へ
こちらの完結もおめでとうございます㊗️
そしてお疲れ様でした。
初めはどうかな?と言う感じで読んでいましたら、いつのまにか話に引き込まれてしまいました。しかも半分?実話との事!と言う事は作者様は大変な辛い経験をされて今、話を書かれているのですね。私は震災の経験は無いから想像でしか分かりませんが💦
だから、その辛い経験を経てこんなお話を書いている作者様を尊敬しています(^○^)
次回作はいつ頃になりますか?ゆっくりで良いから掲載を宜しくお願いします🙇♀️
楽しみにしていますね😍
キノコ♪様へ
なんと、こちらもお読み下さり、ありがとうございます(人'▽`)☆
この話は、私の大好きな美しい東京を登場させまくったので、結構楽しく書けました♪
いやいや~、尊敬されるような人間ではない(笑)無駄に経験と年齢だけを重ねていってる(^^;)
次回作は、早めに掲載できるように頑張ります!