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3話
しおりを挟むカツン、カツン。
硬くて冷たい足音が響いている。
あれ?また夢の中??
その足音は、どんどん大きく確かなものになっていく。
暗い寒い、どこかの広い場所みたい。
「ぐぅぅ!!」
獣のような、何かの呻き声がした。
「王妃陛下。これは身から出た錆ですね。」
低い声が響いた。そこで、紗良の視界が開ける。
姿を見せたのは、金髪の青い目をした男性だった。
あ!この前みた夢の中の人だ!
私、またこの人の夢を見てるんだ。
「アーサー・・・。おのれ!呪いをかけたな!」
這いつくばる女性は、苦しそうに声を出す。その口からは血がにじんでいた。目も血走り鬼の形相で睨みつけている。
「わたくしが、何故そのようなことを?」
何の感情も無い表情を浮かべて、冷たく言い放つ。
「王妃陛下、国王陛下に毒を盛ったのは、あなただな。証拠がある。」
王妃は、アーサーを睨みつける。
「ぐぅぅ・・・お前などいなければ!お前を呪い殺してやる!」
女性が手を伸ばしたその時、軽い手さばきで、アーサーが剣をふる。
バサリと女性が血を噴き出して倒れた。剣を鞘に納めると、すぐに踵を返した。
「王妃陛下を丁重に棺に納めよ。」
バタバタバタ・・・・!誰かが走りこんでくる音。
アーサーの私兵たちが剣を構える。
丸腰で何も武器を持っていない男性が走りこんでくる。
広間を見渡し、血に濡れたアーサーと目を合わせる。
「母上!!・・・兄上、これはいったい・・・。」
アーサーは、手をあげて、兵士たちの警戒をとかせる。
「アドルフか。正式な報告は、後日行う。国王陛下が崩御され、王妃の関与が明白になり、抵抗されたので見ての通りだ。」
「謀反ですぞ!!これは、謀反です!!」
髭がもじゃもじゃの、ツルッパゲ爺さんが、叫びながら飛び出してくる。
唾を巻き散らかしながら叫ぶ。
「アドルフ皇太子殿下!!母上様は!王妃様は、見ての通りアーサー殿下に殺されたのです!一目瞭然じゃ!!」
アドルフの私兵たちが剣を構える。
アーサーの私兵たちも身構える。
え?殺し合い?え・・・?まってまって!物々しい感じに驚いてしまう。
どうやら、私は広場の上から幽霊のようにフワフワと浮いて見ているだけの存在。
下に降りたいと思うと、ふわりと2人の間に降り立った。
誰にも見えていない様子。
つい先日、夢で会った金髪の青い目が、私をすり抜けて目の前の男性を見ている。
別人のように、とても表情は冷たい。
「私は国王陛下をお守りする、近衛兵隊長です。陛下毒殺に関与された王妃陛下を問い詰める権利がありました。また王妃陛下は、その事実を知った私を殺そうとしたのです。正当防衛ですよ。」
髭もじゃのツルッパゲ爺ちゃんが叫んだ。
「ええい!何をしておるのじゃ!アーサー殿下をとらえろ!!!」
鋭い鋼の音と共に、兵士たちが剣を一斉に向け始める。
あ。危ない!
私はとっさに、アーサー殿下と呼ばれるその人の体に触れた。
その瞬間だった。
アーサーの体から、強い光がほとばしる。
「な!?なんだ???!!!」
その場に居た、全員がアーサーを見る。
アーサーは、手袋を外し、指にはめられていた指輪を見た。
「それは・・・!!女神の指輪!」
爺ちゃんが、食い入るように指輪を見る。
私も、間近で食い入るように見てしまう。
何この指輪!?すごい光ってる・・・!
すると、アーサーと目が合った。
「おまえは・・・。」
「・・・・・え?。」
アーサーは、私の目を見ていた。
あ、見えるんだ?
何か言おうとした瞬間、天井に引っ張られるように体が宙に浮く。
慌ててアーサーの手を握る。
天井に吸い込まれるようにして、足が持って行かれる。
驚いてアーサーの手を強く握る。アーサーも反射的に手を握り返した。
何か言おうとして口を開くと、視界がぼやけて来た。
指輪の光が薄れて消えたのと同時に、何も見えなくなった。
女の子が現れて、一瞬で消えてしまい、その場に居た誰もが狼狽えて呆然としていた。
アーサーすらも呆然とした。しかし、アーサーの隣に居たウィルが声を上げる。
「女神の降臨です!王家代々に伝わる女神の指輪が示されたのです!!」
アドルフ殿下がハッとしたように目を見張る。
髭の爺ちゃんは、汗を流しながら歯を食いしばる。
その様子を見てウィルはニヤリと笑い。更に声を張り上げる。
「女神は、アーサー殿下の元に降り立った!!次期国王は、第1王子であるアーサー殿下であると!!」
近衛兵たちは、足を踏み鳴らして声を上げた。
「アーサー殿下万歳!アーサー殿下に女神が降り立った!」
「アーサー殿下こそ、次期国王に相応しい!!」
アーサーは、指輪を見つめた。
あの娘は、確かに夢で見た娘だった。
夢の中の娘が現実に現れて、そして消えたのだ。
アーサーは、夢と現実に戸惑いを感じていた。
◇◇◇◇◇
「紗良!紗良!起きなさい!」
母親の声で目を覚ますと、顔が痛い。
制服姿のまま、参考書に手をつけて、いつの間にか眠っていたみたいだった。
参考書とノートの間に顔を突っ伏していたから、顔に変な跡がついてる。
「着替えてお風呂に入っちゃいなさい。」
「はぁ~い。」
あくびをしながら、制服を脱いでいく。
時計を見ると、もう時間は夜の10時だった。
なんか、また変な夢を見た。
同じ人の夢を見るとか、凄すぎる。
ささっとお風呂に入って、今日はもう勉強をやめてベッドに入り込むことにした。
その夜、部屋を暗くすると、夢の事を思い出した。
金髪の青い目の人、アーサーって言うんだ。
そう呟いて再び眠りについた。
疲れているのか、夕方に寝たはずなのに不思議とすぐに深い眠りへと入った。
そこには、
花畑が広がっていた。
まさかの、今日2度目の夢だった。
それこそ女神と言える女性が、イギリス庭園のような庭の椅子に座っている。
目の前には、金髪の青い目の可愛い男の子が花束を持っている。
笑い声が、響いている。
その光景を、少し離れた場所で見ている男性がいる。
金髪が風に揺れている。アーサーだとすぐにわかった。
私は、そっと歩いて行って、彼の隣に立つ。
彼は、視線を動かさないで景色を見たまま、話しかけてきた。
「これは私の夢だ。なぜ、おまえが居る?」
ちらりとも見ないのに、私だと分かったようだった。
夢の中で夢だ、と言われる。本当に、私は疲れているのだと思った。
「これは私の夢でもあるわ。」
そう返すと、彼はこちらを見た。
「おまえは女神なのか?」
目を細めて少し疎ましそうに言う彼に、何故か悪意は感じない。
「私は普通の高校生!」
「コーコ・・・セイ?」
「あ~、どこにでもいる17歳の人間!」
「普通の人間は、突然現れて消えたりなどしないがな。」
「うーん。あれも、夢を見てただけなんだけどなぁ。あなたには現実なの?あの後、大丈夫だった?」
心配して顔を覗き込むと、「さあてな。」と青い瞳が笑って私を見ていた。
「あそこにいるのは、幼い頃の私と母上だ。」
「母親似なのね!すっごく綺麗な人。」
「母上は女神の声を聴く、聖女だった。」
「セイジョ??」なにそれ?
「王家は代々、聖女を王妃にする。聖女である母は、突然王宮に押し込められて王と結婚させられたわけだが。すでに私を妊娠していたのだ。」
急に、映像が変わって、辺りが暗くなる。
王冠を被った男性が、金髪の男の子と対峙している。
「おまえは私の息子ではない。王位は継がせぬ。」
真っ黒い影が、私たちの周囲を囲う。
「王妃様に次の男子を生ませて、第1王子は殺してしまえばよいのです。」
次々と黒い影が現れて、次々と言葉を発していく。
「お生まれになったか!」「あやつを始末しろ!」「抹殺するのだ。」
「才能はあるが、王家の血ではない。惜しいが仕方あるまい」
これが、この人の子供の頃?
そっと彼の手を握る。冷たい大きな手。
再び映像が、がらりと変わる。
子供の頃のアーサーが、ベッドで苦しそうにもがいている。
「はは・・・うえ」
「ごめんなさい。アーサー!ごめんね。どうか死なないで。あなたは、私が愛した人の子。あなたがいないと母上は生きていけないの。」
ベッドに付き添う母親に見守られて、小さいアーサーは苦しそうに息をして泣いている。
目が離せないまま、隣にいるアーサーに聞く。
「病気?」
「毒を盛られたんだ。幼い頃から、もう何度もな。私を殺したい人間は腐るほどいるのだ。取るに足らない、王家の血も引いていない、価値もない人間なのだがな。」
そう言った、アーサーの手を強く握る。彼の目を見上げて、私は言った。
「・・・そんなことない!あなたはお母さんにとって、宝物じゃない!それだけで十分価値があるでしょ?偉い人の血とかどーでもいいし!というか、王様だかなんだか知らないけど、あのクソジジイの血を引いてる方が嫌じゃない?!」
感情のままに、思ったことをぶつける。
すると、アーサーが笑いだした。
「・・・・・ふふふ。あはははは!」
見上げると、本当におかしそうに笑っていた。
「あははっ!夢だから良いものを、国王をクソジジイとは、なかなかに愉快だぞ。」
始めて見る彼の笑い声も、表情も、なんだか少年のように見える。
急に、周囲が真っ白になる。
あ--------。
マンションの下。
母と知らない男性が話している。
「ここは・・・・なんだ・・・?」
アーサーが私の隣に並んで立っている。
今度は私が説明する。
「あーー、私の記憶・・・かな。」
「おまえの?・・・・お前の世界か。」
そう、これは数日前の出来事だ。
紗良の母親が少し声を荒げる。
「困るわ!マンションまで来ないでって言ったじゃない!」
「ごめん。でも、どうしても話したくて。」
知らない男性が、少し焦ったように、困ったように言う。
「・・・もう別れましょう。紗良はまだ高校2年なのよ。受験もあるし。」
「わかってる!でも、俺も数か月したら海外赴任だ。どうしても結婚してほしい。一緒に暮らしたい。紗良ちゃんに話だけでもさせてくれないか?」
「ダメよ!私の都合で、あの子は今まで辛い思いをしてきたわ!これ以上、あの子の人生を振り回したくないのよ!」
「わかってる。分かってるけど・・・・。」
男性は、母親を強く抱きしめた。
そのまま泣き崩れる母。
「・・・ははは。あれが私の母親。」
頭をポリポリかきながら説明してみる。
「私さえいなければ、あの二人は幸せに結婚して、新しい生活を送れるってわけ。」
アーサーの家庭事情と、なんか壮絶さが違うし、なんか恥ずかしいんだけどね。
「・・・お前を1番に考えているようだが?」
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「はぁ、なんかさ。全部、投げ出したくなる時ない?」
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自分が思ったことを、そのまま包み隠さすに、素直に誰かに言える。
いつも、どこかで、相手がどう思うのか、気を使って話している。
だけど、夢の中では、この人の前では、なんでも話せてしまう。
そっと、見上げてみると、アーサーは黙って紗良を見ていた。
何を話しても、何を言っても、動じない、この顔が好き。
何も考えずに、言葉に出来る。ただ、聞いてくれる。それがとても心地いい。
「もう、本当に変な夢。」
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