女神なんかじゃない

月野さと

文字の大きさ
9 / 83

9話 戴冠式

しおりを挟む
 何度、目を覚ましても、そこは異世界だった。

 5日後、アーサーの戴冠式が行われる事になり、バタバタした。
 私も“女神”としてドレスを用意されて、式典での手順を覚えさせられた。戴冠式の当日までは忙しいらしく、アーサーとは会えなかった。

 ヒラヒラとしたドレスは、雪の女王のようなデザインだと思った。髪型も綺麗に結い上げられて、化粧に装飾品と、どんどん飾られていく。鏡に映る自分は、今まで見たこともないお姫様に仕立て上げられていた。

 ドアをノックして、入ってきたのはゴードンだった。
「準備は、よろしいで・・・。」
 ゴードンは、サラを見て言葉を失った。
 後ろからウィルが顔を出す。
「サラ様!これは、とても美しいです!どこから見ても女神様ですね!」
 テルマがニヤリと笑った。
「サラ様は、元が良いのです。赤ちゃんみたいな柔らかい肌。大きな瞳に、このツヤツヤで流れるように輝く髪。」
 いやいや、たぶん、あれだよね。現代社会の高校生はですね、スキンケアも美容もシャンプーも、それなりに良いもの使ってるし、その差なのでは??と思う(笑)そして、テルマさんが磨きに磨いてくれて、化粧も上手だったんですよ~。

 ゴードンは少し咳ばらいをする。
「サラ様、手順は覚えられましたか?くれぐれもお間違えの無いようにお願いしますよ?神聖な儀式ですからね。」
 サラは、素直に頷く。
「はい。このドレスで歩くのが心配ですけど。・・・頑張ります!!」
 ゴードンは、冷たい目つきのまま、言葉を続ける。
「殿下は、正式にこの国の王となられます。我々は、この日を夢にみて、命をかけてきたのです。どんな手を使おうとも、この国の平和と安定を、平等と自由を夢に見て、ここまで来ました。アーサー殿下に全てをかけて、我々はここにいるのです。」
 ゴードンさんの言葉に、身を引き締める。
「くれぐれも、失敗無きようにお願いいたします。」

 国の為に命をかける。そうして今まで生きてきた人たち。
 見回すと、いつの間にかレオンさんも来ていた。レオンさんの目も真剣で、テルマさんも頷きながら聞いていた。

 レオンさんが口を開く。
「私も同じです。アーサー王の誕生を夢に見て、全てをかけてここまで来ました。身分など関係なく、志し有る者は、その力を発揮できる国。理不尽に命を奪われない国。今日はその第一歩です。」
 刺すような冷たい視線を、私に向ける。
「女神様にはご興味ないでしょうが。やっとここまで来たのです。邪魔をすれば、たとえ神であれ容赦はしません。」

 少しムッとして、言い返そうとした時だった。 

「お前たち、ここで何をしている?」
 低い声で部屋に入ってきたのは、アーサーだった。
 スタスタと、アーサーが近寄ってくる。
「サラに勝手な事を言うのをやめるんだ。彼女に責任は無い。こうして、協力してくれるだけ、ありがたいと思え。」

 心臓が止まるかと思うほど、・・・・カッコイイ。

 正装した姿は、王様そのもので、威厳があって光り輝いて見える。軍服に似たキリっとした服で、金の刺繍が入った赤いマントには、白い毛皮もついていて、絵本から出てきた王様だと思った。
 その場にいた全員が跪く。

 アーサーは、サラを見て微笑んだ。
「とても綺麗だよ。緊張せずに、皆に任せて、居てくれるだけでいい。」
 優しいアーサーに、なんか申し訳なくなる。
「私は、約束通り“女神”を演じるだけです。皆さんの不利になるようなことは、しないように頑張ります。」
 アーサーが手を伸ばし、私の頬を撫でた。
「サラ。ありがとう。」
 その時の笑顔は、なんだか寂しそうに見えた。


 戴冠式は神殿で行われた。

 讃美歌が神殿を包み込む中、祭壇の前に立つ私の所までアーサーが進み出る。立膝をついて頭を下げた王に対し、女神の名において、アーサーを王とすることを宣言する。
 神官から受け取った王冠を、ゆっくりとアーサーにかぶせた。顔を上げたアーサーは、サラの目を見た。

 その青い目は優しく細められて、少しだけ不適にほほ笑んだ。

 その後は、神官たちやらがやってくれるので、終わるまで待つのみ。王座についたアーサーの隣に、私はずっと座っているだけ。踊り子さんたちが踊ったり、お祝いの席となった。


「サラ」
急に声をかけられて、驚く。
「はい」
 アーサーは、穏やかな口調だった。
「この国は、今、とても荒れているんだ」
「そうなの?」
「あぁ、貴族たちの傲慢な行い、汚職にまみれている。今、ここにいる連中の殆どがそうだ。私はこれからそれを一掃する。奴隷制度の廃止、法整備をしなくてはならない。暫くは忙しくなる。」
 無表情であるものの、彼の目には力があった。
「アーサーは、その為に王様になりたかったの?」

 アーサーは、サラの瞳を見る。

 サラの、子供のようにあどけない表情。遠慮の無い、真正直な発言。
 サラの大きな黒い瞳の中には、いつも、鏡のように自分がハッキリ写りこむ。その目で見られると、何もかもを見透かされてしまいそうだと、感じることがあった。
 王になりたいと思ったのは、・・・おそらく母を救いたかったからだ。国と国の争い、運命、そんなくだらなくて理不尽な全てから守りたかった人。

「そうだな。私は幸いにも人に恵まれていた。教養とは最大の財産であると、ゴードンの父親から教わった。国益とは人であると。」

 側近たちに導かれて、2人でバルコニーに移動する。
 アーサーは、話を続けた。
「ウィルやレオン、ゴードンもそうだ。私の周囲には有能な人材がいた。努力する者。能力の有る者。どんな過酷な場所に居ても、その光を失わない者達だ。そんな人達の為に、この国を変えたかった。」

 豪華なドレスに足をとられて、上手く歩けない私を、アーサーは少し笑って、手を取り支えてくれる。
 お城のバルコニーからは、国を一望できるほどの景色が広がっていた。

「平和と人権を守りたい。そんな国に、世界に住みたいんだ。」

 民衆たちが、王の出現に歓声を上げている。アーサーは王様らしく手をふった。

「あの赤い山。トルネ山と言う。あそこには魔獣がいる。常に山を下りてきては、荒らされるので、大地は焼けこげだ。襲われて命を落とすものも絶えない。私の治世で、この問題も解決させるつもりだ。」

 アーサーの、その志に触れて、尊敬と同時に、あなたを遠く感じてしまう。
 遠くを見ると、赤黒い大地が広がっていた。緑なんて無い。
「私が見た夢では、あの辺は緑の大地で、川が流れていたわ。鳥も。きっとアーサーが王様になったら実現するよ。」
 指で指し示してアーサーを見上げると、満面の笑みで、私を見ていた。

「それが本当なら、どれだけの民を救えるだろうか。サラ、ありがとう。」
 その、爽やかな笑顔に、胸がときめく。
「私は何も・・・していない」
「協力してくれただろう?」
「でも!」
 ふわりと微笑んで、アーサーは言った。
「わけのわからない世界に連れてこられて、それでも、お前は私たちの話を聞いて、こうして協力してくれた。」

 まさか、そんな事を優しく言われたら。目が熱くなっていく。
 アーサーの冷たくて大きな手が、頬を包み込む。
「サラが居てくれただけで、本当に助かったんだ。」

 その言葉で、私の視界は涙で、何も見えなくなった。
 自分の存在を、ただそれだけを認めてくれる。何もしていないのに、ただ存在だけを認めてくれる。この人の優しさに触れて、ぎゅうっと胸が締め付けられる。


「サラ、すまない。」
 アーサーは、そう言って、私の額にキスをした。

 それが合図だったかのように、群衆たちが歓声をあげる。

 女神様万歳!!新国王万歳!!
 女神様万歳!!新国王万歳!!



 この時、私の心の中に、何かが芽生えたんだと思う。

 それは、私の心を突き動かす、原動力のような。
 目標や夢や希望の無かった私を、突き動かすような。

 何かが・・・。 


 この人の役に立ちたい。と、そう思った。





しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...