女神なんかじゃない

月野さと

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26話★すれ違う

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 目が覚める。

 薄暗い部屋の中。ベッドの中で、サラは、目だけをを動かして周囲を見る。

 さっきのは、ただの夢?

 ゆっくりと体を起こして、隣で眠るアーサーを見る。
「・・・。」 
 違和感に気が付いて、自分の左手に目を移す。
 手の中に、竜のウロコが握られたままだった。

 夢・・・じゃない。

 隣で眠るアーサーを、再度確認する。
 起こさないようにベッドから降りて、部屋のバルコニーに出る。

 月がぽっかり出ていて、まだ真夜中だ。
 満点の星空が広がっていて、いつも通りの静かな夜。

 サラは、大きなため息をつく。

 白い竜の言葉を思い出す。
 『争いの種になる』そんなことは、少し考えればわかる。
 この世界は、私の居る場所じゃない。それも分かってる。
 アーサーが言った平和が訪れたとしても、誰かは女神の力を欲しがる。
 みんなの為にも、
 たぶん、元の世界に帰るのが、正解。

「サラ?」
 背後から、アーサーの声がした。
 振り返ると、そこにアーサーが立っていた。とっさに、竜のウロコを背中に隠す。
「あの、ちょっと、目が覚めちゃって。」
 少しだけ声が、震えてしまった。
 アーサーは何も言わずに、ゆっくりと歩いてくると、腕を背中に回して私の肩を抱き寄せながら、片方の手で手首を掴んだ。
「あ・・!」
 ウロコを握りしめた私の手を、持ち上げる。

 銀色のウロコは、月明かりに照らされて、虹色に煌めいた。

 アーサーは目を細めて、眉をひそめた。
「白竜の鱗か。」
 その言葉の意味を理解するのに、少しの時間がかかる。
「え?・・・アーサーも、あの夢、見てた?」
 鱗からサラに視線を移すと、横抱きに持ち上げられた。
「すまん。魔術を使って、おまえの夢の中に入り込んだ。」
「・・・え?」
 スタスタと部屋の中に運ばれ、ベッドの上に下ろされる。
「あの白竜は、おそらく竜神だ。」
 アーサーは話を続けながら、お茶を入れ始める。
「この大地を作ったのは白い竜なのだそうだ。創世記という本に、女神の事も一緒に書かれてある。嘘か本当か分からぬ物語ばかりだが。」
 そう言って、温かいお茶を私に手渡してくれた。
「・・・私の存在もウソみたいな本当の話ね。」
 ふふっと笑って見上げると、アーサーは悲しそうな眼をしていた。
 何も言わずに、隣に腰掛ける。

「サラ。」
 薄暗い部屋の中で、そのアーサーの声は、切羽詰まったように聞こえた。
「私の傍に居ろ。必ず守ってやる。」
 私は、温かいコップから口を離して、うつむく。
「・・・でも。」
「考えるな!お前は私の傍に居たくないのか?帰りたいのか?」
 畳みかけられる言葉に、彼らしくないと思いながらも、感情に流される。
「傍にいたいよ?アーサーの傍にいたい!ここにいたい!・・・だけど!あの竜が言ってることは正しいよ!私はこのままじゃ、ずっと誰かに死ぬまで狙われ続ける。」
 ブルリと体が震える。
 そんな自分の体を支えるように、両腕を抱える。

「それに、それに考えれば考えるほど、私の存在がわからなくなるの!みんなの為に、女神の力を使いたい!だけど、使えば使うほど、きっと皆が女神の力に魅せられていく。私は私としてじゃなくて、女神としてしか生きられなくなるんだ・・・。」
 女神の力に、自分自身を守る力は無い。誰かに守ってもらうより他に無い。こんな女神の力なんて要らない。怖い。怖くて投げ出したい。
 だけど、それが無くなっても、必要としてくれる?アーサーの隣に居られる?この世界に居られる?
「アーサー。本当に私のこと、好き?何もなくっても、愛してる?弱虫で、意気地なしで、面倒くさい性格で、自分自身も守れない!今だって、争いと戦争を呼ぶ女神だよ!!」
 言ってて、自分が何を言いたいのか、分からなくなる。
 ただただ、漠然とした恐怖に、飲み込まれそうになる。

 その瞬間、
 口をキスでふさがれた。
 口内に舌が入れられて、いっぱいいっぱいになる。
 アーサーはキスをしたまま、私の手から飲み物のカップを取り上げて、ナイトテーブルに置いた。何度か角度を変えてキスをすると、私を押し倒しながら言った。

「私が愛したのは、弱虫のくせに、その真っ直ぐな目で物事を見ようとする強さだ。そうやって、不安に押しつぶされそうな時すら、他人のことを思いやれるおまえが・・・。」
 苦しそうに青い瞳が揺れて、噛みつくようにキスをされる。
 いつの間にか、アーサーの手が足の付け根をまさぐり、ツプリと指を入れられる。
「あ・・・!」
 慌てて逃れようとすると、後ろから押し倒されて、指で愛撫されると、すぐにグチュグチュと音が鳴りはじめた。濡れているのを確認すると、一気に奥まで挿入される。サラは、たまらず声を上げてしまう。
「あ!あん!んん!!はっ、あん!あっ!」
 最奥を突かれる度に、意識がとびそうになる。
 アーサーは、サラの首筋に何度もキスをして、耳元で繰り返し言った。
「もう、何も考えるな。おまえは、ただの女だ!私の女だ!」
 胸の先端とクリトリスを同時に指で愛撫されて、気持ちよくて、ビクビクと感じてしまう。
「あ・・!あう、あ!ダメ!いく、いっちゃう!あぁん!」
 立て続けに、弱い所を攻め立てられる。

 何も考えられなくなって、途中からは記憶がない。





◇◇◇◇◇


 翌朝、ベッドから出られたのは、もうお昼過ぎてた。

 アーサーは、きちんと朝から仕事をしに、部屋を出て行ってしまった。
 起き上がれない私を見て、また今夜話をしようと言い残して。


 私は暫くベッドの中で考えた。
 
 いや、その考えに至るまでに、さして時間はかからなかった。

 ベッドから降りて、隣にある衣装部屋から簡単な服を選んで着替える。資金になりそうな、金目の物を拝借して、大きな風呂敷のサイズの布を探し出して、その布に包む。肩から反対側の脇腹にかけて胸元で縛る。

 辺りを少し探すと、竜の鱗を見つけた。それは、ドレッサーの中にしまう。

 腹を決めて、城の外を目指し、人の目を盗んで脱出を図る。
 誰かに相談するべきなのかもしれない。
 でも『女神の力を捨てる為』だなんて話をしたら、反対されたら、二度と外に行かせてもらえなくなってしまう可能性がある。

 アーサーに相談したら、秘密裏に女神の真珠を探そうとしてくれるかもしれない。でも、女神の力を手放そうとする王様なんて、周囲に不信感を買うだろう。そうすれば、アーサーの立場が悪くなる。

 だから、自分で探し出すしかない。アーサーの立場を守るために、1人でやるしかない。
 なんとかして、女神の真珠とやらを手に入れなきゃ!
 戻ってきたら、いつの間にか女神の力を失っていたことにすれば良い。

 以前、騎士団の見学で、人員の場所と時間を把握していた私は、簡単にお城の建物を抜け出した。

 残るは、城門だ。 
 物陰に隠れて考えたけれど、どうしても城門を抜けれそうになかった。
 こうなったらと、堂々と門を通ることにしてみた。
 女官か下働きだと思ったのか、兵士たちは最初は何も言わなかった。

 最後の2人が、槍を横にして「待て」という。

「身分を証明しろ。身分証を出せ。」
 精一杯の、冷静さを装う。
「お城の下働きの者です!急に実家に帰らなくてはいけなくなりまして。」
「・・・・所属と名前は?」
 ここで、テルマさんの名前が脳裏に浮かんだけれど、ダメだ彼女の名前じゃ申し訳ないなどと考えてしまう。

 一瞬の間があって、「女神様?!」とどよめきが起こる。
 そうか、騎士団の視察などに行っていたので、顔が割れてしまっていたのだ。
「何故このようなところに?」
 慌てて、サラは言う。
「ちょっと外に出たいだけなの!少しの間だけで良いから、すぐ戻るから見逃してくれない?」
 兵士たちが、ご報告を!と城へと戻っていく。
 その一瞬の、警戒をゆるめた瞬間を見て、ダッシュで逃走する。

「あ、女神様!!」

 目の前に馬車を見つけて、乗り込み、馬にムチを打つ。
 勢いよく走りだし、必死で何度もムチ打ち馬を走らせ、そうして追っ手は見えなくなった。後ろを見て、ホッとしたのも束の間。

 止まり方がわからない・・・・。

 そのまま、よくわからない森に入って行く。
 どんどん加速して森の中へ中へと進んで行く。

「ギャーー!!止まってーーー!!」

 その時、勢いよく馬車が大木の根っこに引っかかって、体を投げ出される。

 体が勢いよく空を飛ぶ。

 も・・・もうだめだ~~!!!


 急に、そのまま空気が止まる。

 目を開けると、ステッキをかざしている魔術師の青年がいた。

「あ・・・・あなたは。」
 レオン団長のところにいた、いつかの魔術師の青年だった。
「え?女神様?」

 空中でブランと浮いたまま、こんにちは~と挨拶してみる。
「どうなさったんです??!」
 ゆっくりと地上に下ろされて、青年魔術師にすがりつく。

「お願い!お城を抜け出してきたの!見逃して?わたし、行かなくちゃいけないの!お願いします!私を助けると思って!!!」
 人生初の土下座をして、懇願する。
「め、女神様!とにかく立ってください!とりあえず、お話を伺わせてください。」





◇◇◇◇


 魔法省は静まり返っていた。


 窓の外を見ると、太陽がだいぶ傾いて、夕刻に差し掛かるところだった。
 サラのおなかが、ぐぅ~と鳴る。
 ・・・オヤツ持ってくればよかったな、とか考える。
 
 程なくして、さっきの青年が、お茶とお茶菓子を持って来てくれる。
 「わぁ~♪」と喜び勇んで、ぱくぱくと頬張っていると、部屋のドアが開いた。

 レオン団長が入室して来た。


 レオンの額には、青筋が立ち、目は鋭く吊り上がっていた。
 ・・・あ~、怒ってる?
 眉間に深い深い皺を作って、睨まれる。
 深い重いため息をつきながら、椅子に座って、レオンは腕を組んだ。

「どうゆうことか、説明していただきましょうか?」

 これ、
 蛇に睨まれた蛙だ。









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