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49話 サラのその後
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あの日、
真珠を、口移しでアーサーに飲み込ませた。
間もなくして、サラの体は煙のように消えていった。
アーサーに最後のお別れを言うことも無く。
サラは消えた。
意識は遠のいて、ふわふわと、サラは雲の上を漂っている感覚だった。
「天国かなぁ~。」
という間抜けな声に、返事があった。
『おまえは、あの世界で消滅した。』
真っ白い空間で、現れたのは白竜だった。
「あ、白い竜!」
サラは、竜の方に向きなおる。
『おまえは、元の世界に戻るのだ。』
「へ?」
思ってもいなかった言葉に、驚きが隠せない。
「死ぬのではなくて?帰るの?!」
『そうだ。あの世界で消滅したおまえは、元の世界へ帰る。』
「消滅・・・」
サラは、自然とおなかに手を当ててしまう。
そのしぐさに、竜が視線を移す。
そして言った。
『その子も、消滅する。』
「・・・」
複雑な気持ちだった。死を決意した時に、私はこの子を見殺しにしたのだ。
だけど・・・。
「この子と、一緒じゃダメ?・・・かな?」
竜が、怖い目でこちらを見る。
「せ・・世界を移動したのは、私のせいじゃないわ!私にも、この子にも罪はないはずよ!この子を産ませてほしいの!だ・・だいたい、神様が人の生き死にに、そこまで関わっていいの?!私も、この子も、自然の原理よ!」
サラは必至だった。なんとか竜を説得させたかったけれど、ハチャメチャな言葉しか出てこない。
竜は、黙り込んで、少ししてから言った。
『確かに一理ある。』
竜は身動きをとるように、八の字に体をくねらせてから言った。
『おまえは、何もかもを捨てたのだったな。それでは、今までの記憶を抜き、女神の力も魔力も無い、ただの人間として、その子と一緒に生かしてやろう。』
「わかった。それでいいわ。この子が居れば、それだけでいい。」
あ、この言葉、どこかで聞いた。
そうだ、マルグレーテ様だ。彼女の気持ちが、少しだけ解った気がした。
うん。だって、アーサーの子だ。手放したくないよ。
『では、これでさらばだ。』
竜が、サラのおでこにキスをした。
そのまま、サラは眠りにつく。
最後に思った。
神様だって、気分屋で身勝手なんだって。
◇◇◇◇◇
そこは、ガルーダ王国ともウォステリアとも遠く離れた、小国。
温かく、海に近い港町。
「エマ!今日はもう仕事上がっていいよ。」
「はーい!じゃぁ、この洗い物が終わってから!」
ニコニコと笑顔で返す。
大衆食堂の店の端っこで、子供の遊び相手をしている老婆が言う。
「エマはよく働くね。いつも笑顔で仕事してて、本当に良い子だよ。近所にも、客にも人気者さ。」
店主のニーナおばさんが、厨房で食器を洗うエマを見ながら返事する。
「全くねぇ。最初は記憶喪失の上に、妊娠までしていて、放っとくにも放っておけなくて面倒見ることになったけど、今じゃ私の娘だと思ってるんだ。」
それを聞いて、老婆が笑う。
「あんたは、エマの名づけ親だし、まぁ、本当に親子のようだよ。しかし・・・・」
まだ、2歳半の男の子を眺めて言う。
「しかし、この子を見てごらんよ。これは遠い異国の子だね。」
ニーナおばさんも、男の子の輝くばかりの金髪と、透き通る青い目を見て困った顔をする。
「何か訳アリの子なのかも、しれないねぇ。」
パタパタと、エマが走ってくる!
「子守していただいて、ありがとうございました!本当に助かりました!」
ぺこり、と老婆に頭を下げる。
老婆は、フォッフォと笑う。
「こんなかわいい子の子守りなんて、楽しいだけだよ。またいつでも見てあげるよ。」
ニーナおばさんも、微笑む。
「ルカは大人しいし、手がかからないからねぇ。」
みんなに頭を撫でられて、ルカは嬉しいのかキャッキャと笑う。
そうして、2人に別れを告げると、ルカを連れて、家に向かう。
「かーさま。かーさま。」
ルカがテクテク歩きながら、エマの手を引く。
「なーに?」
「ニーナおばちゃん、かーさまのこと娘って言ってた。」
エマは、少し驚いて、満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいな♪」
ルカを抱き上げる。
私は、自分の名前も、何も覚えていない。
そんな私を、支えてくれた食堂の人たち。
ニーナおばさんは、自宅の2階に私達を住まわせてくれて、家族のように接してくれる。
妊娠していることに気が付いてパニックだった時も、不安な出産のときも、ずっとそばに付き添ってくれた。
ただ、ルカのこの容姿が、気がかりでならない。
1度、人さらいに連れて行かれそうになって、それからは警戒して生活している。
こんなに綺麗な金髪に宝石のような青い目。この辺の地域には居ないのだ。目立って仕方がない。
周囲を警戒しながら、街を歩かなくてはいけなかった。
それでも、何故だか、この子が居れば幸せを感じられた。
家に戻って、ニーナおばさんの分も夕飯を作って、置いておく。
お風呂に入ってから、いつものように、ベッドにもぐりこんで、ルカの好きな絵本を読んであげる。
穏やかな、こんな生活が続いてくれればいいと、毎日願いながら眠りにつく。
それが、最近、夢を見るようになった。
それはとても不思議な夢だった。
いつものように近くの海辺で、ルカと一緒に遊んで、砂遊びをして、水遊びして、ふと気が付くと、誰かがこちらを見ていることに気がつく。
ルカと同じ、青い目と、金髪を持つ男性が、こちらを見て、何か言っている。
だいぶ距離があって、海の波の音で聞こえないのか、何を言っているのか、よくわからない。
私は、なんとなく近づく事が出来ずに、その男性を遠くから眺める。
いつも、ここまでの夢。
今日も、この夢を見ていた。
ガシャン!!!!
突然、ガラスが割れるような音が1階からしてきて、エマは飛び起きる。
暗い部屋の中、周囲を見渡して、聞き耳をたてる。
時計を見て、不審に思った。
今はまだ、食堂は夜の営業中だ。ニーナおばさんが帰宅する時間じゃない。
ベッドから、そっと降りると、ルカが起きた。
「かーさま?今の音、なに?」
しっ!と小さい声で制止する。
「ルカ、ちょっと下を見てくるから、ここで待ってて?」
部屋を出て行こうとすると、トテトテとベッドから降りてくる。
「やだやだ!怖いよ!」
そう言って、ルカが近寄ってきた時だった。
バタン!と、部屋の扉が開く。
とっさに、ルカを抱きしめる。
薄暗い部屋の扉の前に、大きな男2人が現れた。
「あ・・・あなたたちは!!なんなんですか?!」
エマが大きな声を上げると、大きな男1人がサラの腕を掴んだ。
もう一人が、ルカを掴む。
男は、ルカを眺めながら大きな声で言った。
「こいつかぁ!こりゃ珍しいな。高く売れそうだ」
大きな男が、薄暗い部屋の中で、ニヤリと笑ったのが見えた。
「ルカ!!!誰か!!誰かきて----!!!!」
エマは渾身の力を込めて、叫んだ。
その瞬間、もう一人の大男に平手打ちをされる。
壁にたたきつけられて、エマはうめき声を上げる。
「!!かーさまっ!かーさまぁ!!」
ルカの叫ぶ声。
エマは、大男の足にしがみつく。
「その子を離して!!誰か!誰かー---!!!」
男の一人が、剣を抜いて、エマに向ける。
その瞬間だった。
ルカの体から、強い光と風が巻き起こる。
「かーさまに、触るなー---!!!」
エマは、何が起きたのか分からなかった。
男2人は、バタバタと倒れた。
エマは、すぐにルカに駆け寄って抱きしめる。
「・・・・今のは、何??」
倒れた男たちは、ピクリとも動かなくなっていた。
真珠を、口移しでアーサーに飲み込ませた。
間もなくして、サラの体は煙のように消えていった。
アーサーに最後のお別れを言うことも無く。
サラは消えた。
意識は遠のいて、ふわふわと、サラは雲の上を漂っている感覚だった。
「天国かなぁ~。」
という間抜けな声に、返事があった。
『おまえは、あの世界で消滅した。』
真っ白い空間で、現れたのは白竜だった。
「あ、白い竜!」
サラは、竜の方に向きなおる。
『おまえは、元の世界に戻るのだ。』
「へ?」
思ってもいなかった言葉に、驚きが隠せない。
「死ぬのではなくて?帰るの?!」
『そうだ。あの世界で消滅したおまえは、元の世界へ帰る。』
「消滅・・・」
サラは、自然とおなかに手を当ててしまう。
そのしぐさに、竜が視線を移す。
そして言った。
『その子も、消滅する。』
「・・・」
複雑な気持ちだった。死を決意した時に、私はこの子を見殺しにしたのだ。
だけど・・・。
「この子と、一緒じゃダメ?・・・かな?」
竜が、怖い目でこちらを見る。
「せ・・世界を移動したのは、私のせいじゃないわ!私にも、この子にも罪はないはずよ!この子を産ませてほしいの!だ・・だいたい、神様が人の生き死にに、そこまで関わっていいの?!私も、この子も、自然の原理よ!」
サラは必至だった。なんとか竜を説得させたかったけれど、ハチャメチャな言葉しか出てこない。
竜は、黙り込んで、少ししてから言った。
『確かに一理ある。』
竜は身動きをとるように、八の字に体をくねらせてから言った。
『おまえは、何もかもを捨てたのだったな。それでは、今までの記憶を抜き、女神の力も魔力も無い、ただの人間として、その子と一緒に生かしてやろう。』
「わかった。それでいいわ。この子が居れば、それだけでいい。」
あ、この言葉、どこかで聞いた。
そうだ、マルグレーテ様だ。彼女の気持ちが、少しだけ解った気がした。
うん。だって、アーサーの子だ。手放したくないよ。
『では、これでさらばだ。』
竜が、サラのおでこにキスをした。
そのまま、サラは眠りにつく。
最後に思った。
神様だって、気分屋で身勝手なんだって。
◇◇◇◇◇
そこは、ガルーダ王国ともウォステリアとも遠く離れた、小国。
温かく、海に近い港町。
「エマ!今日はもう仕事上がっていいよ。」
「はーい!じゃぁ、この洗い物が終わってから!」
ニコニコと笑顔で返す。
大衆食堂の店の端っこで、子供の遊び相手をしている老婆が言う。
「エマはよく働くね。いつも笑顔で仕事してて、本当に良い子だよ。近所にも、客にも人気者さ。」
店主のニーナおばさんが、厨房で食器を洗うエマを見ながら返事する。
「全くねぇ。最初は記憶喪失の上に、妊娠までしていて、放っとくにも放っておけなくて面倒見ることになったけど、今じゃ私の娘だと思ってるんだ。」
それを聞いて、老婆が笑う。
「あんたは、エマの名づけ親だし、まぁ、本当に親子のようだよ。しかし・・・・」
まだ、2歳半の男の子を眺めて言う。
「しかし、この子を見てごらんよ。これは遠い異国の子だね。」
ニーナおばさんも、男の子の輝くばかりの金髪と、透き通る青い目を見て困った顔をする。
「何か訳アリの子なのかも、しれないねぇ。」
パタパタと、エマが走ってくる!
「子守していただいて、ありがとうございました!本当に助かりました!」
ぺこり、と老婆に頭を下げる。
老婆は、フォッフォと笑う。
「こんなかわいい子の子守りなんて、楽しいだけだよ。またいつでも見てあげるよ。」
ニーナおばさんも、微笑む。
「ルカは大人しいし、手がかからないからねぇ。」
みんなに頭を撫でられて、ルカは嬉しいのかキャッキャと笑う。
そうして、2人に別れを告げると、ルカを連れて、家に向かう。
「かーさま。かーさま。」
ルカがテクテク歩きながら、エマの手を引く。
「なーに?」
「ニーナおばちゃん、かーさまのこと娘って言ってた。」
エマは、少し驚いて、満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいな♪」
ルカを抱き上げる。
私は、自分の名前も、何も覚えていない。
そんな私を、支えてくれた食堂の人たち。
ニーナおばさんは、自宅の2階に私達を住まわせてくれて、家族のように接してくれる。
妊娠していることに気が付いてパニックだった時も、不安な出産のときも、ずっとそばに付き添ってくれた。
ただ、ルカのこの容姿が、気がかりでならない。
1度、人さらいに連れて行かれそうになって、それからは警戒して生活している。
こんなに綺麗な金髪に宝石のような青い目。この辺の地域には居ないのだ。目立って仕方がない。
周囲を警戒しながら、街を歩かなくてはいけなかった。
それでも、何故だか、この子が居れば幸せを感じられた。
家に戻って、ニーナおばさんの分も夕飯を作って、置いておく。
お風呂に入ってから、いつものように、ベッドにもぐりこんで、ルカの好きな絵本を読んであげる。
穏やかな、こんな生活が続いてくれればいいと、毎日願いながら眠りにつく。
それが、最近、夢を見るようになった。
それはとても不思議な夢だった。
いつものように近くの海辺で、ルカと一緒に遊んで、砂遊びをして、水遊びして、ふと気が付くと、誰かがこちらを見ていることに気がつく。
ルカと同じ、青い目と、金髪を持つ男性が、こちらを見て、何か言っている。
だいぶ距離があって、海の波の音で聞こえないのか、何を言っているのか、よくわからない。
私は、なんとなく近づく事が出来ずに、その男性を遠くから眺める。
いつも、ここまでの夢。
今日も、この夢を見ていた。
ガシャン!!!!
突然、ガラスが割れるような音が1階からしてきて、エマは飛び起きる。
暗い部屋の中、周囲を見渡して、聞き耳をたてる。
時計を見て、不審に思った。
今はまだ、食堂は夜の営業中だ。ニーナおばさんが帰宅する時間じゃない。
ベッドから、そっと降りると、ルカが起きた。
「かーさま?今の音、なに?」
しっ!と小さい声で制止する。
「ルカ、ちょっと下を見てくるから、ここで待ってて?」
部屋を出て行こうとすると、トテトテとベッドから降りてくる。
「やだやだ!怖いよ!」
そう言って、ルカが近寄ってきた時だった。
バタン!と、部屋の扉が開く。
とっさに、ルカを抱きしめる。
薄暗い部屋の扉の前に、大きな男2人が現れた。
「あ・・・あなたたちは!!なんなんですか?!」
エマが大きな声を上げると、大きな男1人がサラの腕を掴んだ。
もう一人が、ルカを掴む。
男は、ルカを眺めながら大きな声で言った。
「こいつかぁ!こりゃ珍しいな。高く売れそうだ」
大きな男が、薄暗い部屋の中で、ニヤリと笑ったのが見えた。
「ルカ!!!誰か!!誰かきて----!!!!」
エマは渾身の力を込めて、叫んだ。
その瞬間、もう一人の大男に平手打ちをされる。
壁にたたきつけられて、エマはうめき声を上げる。
「!!かーさまっ!かーさまぁ!!」
ルカの叫ぶ声。
エマは、大男の足にしがみつく。
「その子を離して!!誰か!誰かー---!!!」
男の一人が、剣を抜いて、エマに向ける。
その瞬間だった。
ルカの体から、強い光と風が巻き起こる。
「かーさまに、触るなー---!!!」
エマは、何が起きたのか分からなかった。
男2人は、バタバタと倒れた。
エマは、すぐにルカに駆け寄って抱きしめる。
「・・・・今のは、何??」
倒れた男たちは、ピクリとも動かなくなっていた。
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