女神なんかじゃない

月野さと

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51話 教会

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 もうすぐ目的地のウォステリアだというのに、お金がつきてしまいそうだった。
 特にガルーダ王国に入ってからは、物価が高く、一気に財布の底がついた。
「今日は、野宿かな・・・。」
 エマのボヤキに、ルカが答える。
「かあさま、おなか減った。おなか減った。おなか減ったー。」
 そうなのである。朝から何も食べていない。とにかく、何か食べものをルカに食べさせなくては。と、街を彷徨っていた。
 パンを買うか、ルカの苦手な非常食を買って、2日もたせるか…悩む。  
「おなかへったよぉ~~!」
 ルカが、しびれを切らした時だった。
 突然声をかけられた。

「よかったら、これを食べませんか?」 

 見上げると、明るい栗色の青い目をした男性が立っていた。
 パンを差し出して、その男性は微笑んだけれども、エマを見て驚いたような顔をした。
「わぁ~!!パンだ!おじさんくれるの?」
 ルカは嬉しそうに目を輝かせる。
「あ、あぁ、どうぞ。」
 修道士の恰好をした男性は、エマを食い入るように見つめる。エマも、その雰囲気に飲まれながらも、彼を見た。とても綺麗な顔立ちで、同じくらいの年齢に見えた。
 すぐに深々とお辞儀をする。
「ありがとうございます!長旅でお金もつきはじめてまして、子供がお腹を空かせていたので、助かります。本当にありがとうございます。」
 本当におなかがペコペコだったルカは、パンを手に取ると、瞬間にかじりついた。
 修道士の後ろに居た、同じような修道士が声をかける。
「クリス様、さぁ、戻りましょう。決められた時間通りに戻らなければなりません。」
「あ、あぁ。」
 クリスと呼ばれた男性は、エマの顔から目を逸らす事が出来なかった。そして、彼はこう言った。
「あの、行く所が無いのであれば、修道院が開放されておりますよ。今日は少し空きがあったはずです。」
「えっ!本当ですか?」
「・・・はい。路頭に迷われた方や、旅人を受け入れてます。」

 エマは、この修道士2人に案内されて、修道院でお世話になることにした。
 道中、この修道士と話をした。遠い小国から旅してきたこと。自分には記憶が無いこと。子供には不思議な力があること。修道士に聞かれるままに、素直に話をした。

「なるほど。それは大変でしたね。さぁ、ここです。」
 目の前には、修道院の入り口があった。 
 一緒に居た修道士が、また声をかける。
「クリス様、さぁ、我々はここで・・・。」
「・・・彼女たちを、案内させてくれ。これも修道士の仕事だろう?」
「・・・」
 クリス様についてきていた修道士は、そのまま黙ると、1人で修道院へ入って、どこかへ行ってしまった。
 
 修道院の長い廊下を歩いて行く。
 その間に、彼は、急に自分の話を始めた。

「私は、罪人としてウォステリアからガルーダに強制送還されて、どうやら多めに見てもらえたようで、この修道院で、神に仕えています。」
 エマは黙って聞いた。ルカも、なんとなく黙っていた。
「元は罪人ですから、自由はありません。しかし、私の愛した人は女神様でしたから、神に仕えることは私にとって苦ではありませんでした。」
 この綺麗な修道士は、何の話をしているのだろう?そう思ったけれど、黙って聞いていた。どこかで聞いたような、そんな声だった。
 そして、ルカの方を見て、言った。
「その首にかけられている指輪は、誰の目にも触れさせてはなりません。隠してください。」
「え?」
 大きな扉の前で立ち止まると、中から修道女が出てきた。
「あら、旅の方かしら?お泊りですか?」
 そう聞かれて、クリス様が頷く。そして、彼は最後に笑ってこう言った。

「ウォステリアに行けば、あなたを助けてくれる人が、必ず現れます。王都へ向かわれるのが良いでしょう。あなたの友人として、幸運を祈ります。どうかご無事で。会えて良かった。」

 
 それっきり。
 それっきり、だった。
 
 手続きを済ませて、1泊させてもらい、食事もさせてもらえた。お手伝い程度の仕事もさせてくれて少しの給金を頂いた。
 気になって、クリス様と、もう1度会いたいとお願いしても、お会いできないと誰もが首を振った。 

 エマは、寝る直前まで考えた。
 指輪を隠せと言った。あの指輪は、記憶を無くす前から持っていたものだ。おそらく、彼は何かを知っているのだろう。友人としてと言っていた。罪人だとも。ウォステリアから来たのだとも。

 少し前までは、ルカの父親はガルーダ人で、私はガルーダ王国に住んでいたのではないか?と予想していた。だけど、違うのかもしれない。

 自分の本当の名前を知りたい。どこの誰なのか、ルカの父親はどんな人なのか?今まで気にはなっていた。だけど、だけど怖かった。何か理由があって、私は記憶を無くし、あの海辺の町にたどり着いたのだと思う。

 私はどうして記憶が無いのだろう?
 記憶が無い事と、指輪を隠さなくてはいけない理由が、なんだか怖くなってきていた。

 食堂のみんなの所に帰りたい。だけど、あの町では、ルカを守る事が出来ない。
 
 進むしか無いんだ。このまま、ウォステリアへ。


 

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