女神なんかじゃない

月野さと

文字の大きさ
81 / 83

番外編_ルカ編2

しおりを挟む
 最後の自由を楽しんだ、一日の終わり。
 ルカ王子は、清々しい顔をしていた。
 その表情に、辛さとかは無かった。

「ずっと、ずっとね、本当は、行きたい場所があるんだ。だけど、行けない。」
 ルカは、夕焼けを見ながら遠い過去を思い出していた。
 ダイアナは、口を開きかけて、やっぱりやめた。
 ルカ王子は、遠い目をしていて、ダイアナが側にいるのを忘れているような気がした。

「もう、殆ど覚えていないけど、断片的に、思い出すんだ。」
 ルカは目を閉じる。そして続けた。
「青い空。透き通る青い海。真っ白い砂浜。それから、楽しそうな人たちの声。旅の楽師たちの音楽。みんなが、代わる代わる抱きしめて、笑いかけてくれる。」
 目を閉じたまま、ルカは微笑む。
「夕焼けを背に、母上と手を繋いで歩く海辺の街。」
 ルカは目を、うっすらと開いた。そして言う。
「それしか・・・覚えていない。」

 夕日の中、吐露していく彼を見守る。はじめて聞く、彼の心に、耳を傾ける。いつも明るくて、強くて、優しい兄のような人が、はじめて見せた、せつなそうな表情だった。

「それしか、覚えていないのに、無性に、懐かしくて、恋しく思う時があるんだ。」

 ダイアナは、ふと思った。
 ルカ王子は、第一王子で、もうすぐ皇太子になり、いずれは王になる身だ。おそらく、出会う人間の全てから、期待や思惑のある目で見られてるのだろう。常に人に監視され、常に気を配り、人の思惑を考察し、常に気を張っていなければならないんだ。
 そこから、時々は抜け出したいと思うのは、至極当然のことだったんだ。
 そして、何より。
 何よりも、彼は・・・。

「それは、ルカ王子の産まれた故郷ですか?」
 ダイアナの言葉に、ルカは振り向いて微笑む。
「うん。この国に来る前の、幼かった頃の記憶だと思う。」
「ルカ王子は、神の世界に帰りたいのですか?」
「・・・・ん?・・・え?」
 ダイアナの言葉に、ルカは戸惑う。
「ルカ王子が産まれた、神の世界は、それは綺麗だし楽園だったんだと思います!でも、神の世界に帰るなんて、お父様にお願いしても、難しいですよね。」
「・・・??・・・えーと、ダイアナ?」
 ルカは、必死に、ダイアナの思考回路を探った。いや、ちょっと、何言ってるのかな?と困惑した。そして、なんとなく察した。

「もしかして君・・・女神だった母上が、天上界である神の世界で、俺を産んだと信じている??」
 ルカの言葉に、ダイアナは目をパチクリさせる。
「??違うんですか?」

 ぶはっ!!と、ルカは笑った。
 ケタケタと笑いが止まらないらしくて、ベンチから転げ落ちそうなほどに笑う。

「え?なんで笑うんですか?違うの?だってだって、ばあやも言ってたし、お母様もそう言ってたわ。他のみんなだって!!」
 ダイアナが恥ずかしそうに、弁明すると、ルカはヒーヒー笑いながら言う。
「いや、そうだね。そうだった。でも、でもさ、ダイアナ。ぷぷ!それじゃぁ、俺が、半分人間じゃないみたいじゃないか。君は、俺をどう思っていたの。」

 ダイアナは、何が本当なのか、分からなくなった。
 彼から溢れる神々しさは、まるで他の人とは比べ物にならないし、人間ではないようにさえ思えた。彼の悪戯は、“天使の悪戯”のようにしか思えなかった。ルカから香る爽やかな香りは、他の男の子とは、そもそもが違うからだと思っていた。半分人間じゃなくても、天使でも何でもいい。そのくらい、ダイアナは恋に落ちていた。 

 “俺を、どう思っていたの”
 彼のその言葉だけが、ぐるぐると頭をまわりはじめる。

「私は、ルカ王子が好き。」

 ダイアナの突然の告白に、ルカは目を見開いて、確かめるように彼女を見た。

「私は、ルカ王子が大好き。神様でも人間じゃなくても、何者でもいい!」
 そう叫んで、ダイアナはルカに抱きついた。

 なんだかよく分からないけれど、ルカ王子が大好きなことに変わりが無かった。この2年間、会えなくて本当に寂しかった。皇太子になると聞いて、お祝いしてあげたいけど、やっぱり寂しかった。

「他の誰かを、婚約者にしたら嫌です。私が、ルカ王子のお嫁さんになる!」
 ずっと一緒に居たい。ルカに抱きついたまま、ダイアナは叫んだ。

「ダイアナ・・・」
 ルカは、なだめるようにダイアナの頭を撫でた。


 

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...