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2 日本人の血筋
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星と夜の神ニュイスの宵闇のしとねを、たなびく暁の雲がさざ波のように地平線へと運び去ってゆく。そうして空は、女神ドイリが薄紫のカーテンを開いたかのように、隅々まで優しい光を染み渡らせていった。
すでに一日の仕事を始めているパン屋や、家畜の乳から温かな飲み物を作る店の煙突から立ち上る煙が、朝のしっとりした空気に混じる。城下町の正門を守る衛兵は交代の時刻、そんな空気に鼻をうごめかせて朝食を思い浮かべながら、馬の蹄の音をのんびりと石畳に響かせて城へと帰還していった。
そんな、穏やかな中に忙しさを内包する朝の風景に、いくつかの荒々しい足音が混じった。
濃い緑の制服を着たこの国の兵士が二人、まだ薄暗い街の裏路地を走っていた。二人の視線は、前方を走るもう一つの人影に向けられているが、曲がり角が現れるたびに人影が前触れなく曲がったり、家と家の間をすり抜けたりするので、追うのに必死の様子だ。
兵士に追われているのは、一人の子ども。年の頃は十歳前後――白いシャツに紺色のズボン、黒のブーツというごく普通の少年の格好をしているが、上質な生地が育ちの良さを物語っている。頭巾のついた外套を羽織っているが、角を曲がった拍子に頭巾が大きくひるがえった。
一瞬現れた前髪と瞳――その色は、黒。
この国ハーヴェステスでは、黒髪黒目は王妃の生んだ子どもである証拠である。なぜなら、それは異世界人王妃から一代限り受け継がれる色だからだ。
いたずらっぽく笑んだ口元をさっと覆うようにして頭巾を左手で抑え、子どもは右手を外套の懐に差し入れた。腰帯から抜いた細長い棒のようなものが光をはじく。それは金属性の横笛だった。
「それっ」
角を曲がって振り向きざま、銀色の横笛を大きく振るう。ちょうど後を追って現れた兵士に向かって、横笛の先から小さな黒い固まりがいくつも飛び出した。
「!!」
兵士の顔にぶつかってきたそれは、いくつものトゲを持つ親指の先ほどの黒い物体。人を傷つけるには重みも鋭さも足りないが、無視できない程度には、地味に、痛い。
思わず顔を覆った兵士の歩調がゆるむ。その隙に子どもはまた別の路地に駆け込み――
追跡を再開した兵士が路地に入ったときには、子どもの姿はそこにはすでになかった。
◇ ◇ ◇
城下街の山の手に、貴族や裕福な家の子どもが通う学舎があった。
正門を入ると、正面は煉瓦の壁のほとんどを蔦に覆われた二階建ての校舎だ。一部が空中廊下になっており、くぐると中庭がある。
そこを突っ切った真っ正面の建物に、学舎の様々な手続きを担う事務室があった。
「いくら楽器が苦手だからって、そんな武器に改造なさらなくても」
事務員のイェノンが、壁にかけられた石版に石筆で行事予定を書き込みながら苦笑する。
「改造ってほどじゃないよ」
その後ろ、ついたての向こうから、黒い瞳の子どもが姿を現した。ついたての中で着替えたため、先ほど兵士から逃げた時とは全く違う格好をしている。
白銀の髪のカツラはふんわりと波打って流れ落ち、光沢のある生成のブラウスは胸元に大きなリボンが結ばれている。さらに、エンジ色のやや広がるスカートに茶色の編み上げ長靴。これら一式はこの事務室に前もって置かせてもらっていたもので、その格好はいかにも良家のご令嬢といった趣だ。
『ご令嬢』は、にんまりと笑って横笛を持ち上げた。
「ほら。笛の内側に沿って、紙を入れてあるだけだよ。紙を回転させれば、笛の穴がふさがる。これで笛を振れば、中に仕込んだものが引っかからずにすんなり外に飛び出すわけ」
振り向いたイェノンに子どもが説明してみせると、
「まさかビスの実をそんな風に使うとは……」
彼は眼鏡を外してベストの胸ポケットに引っかけながら、澄んだ青空の色の瞳を子どもに向けた。子どもはちょっと得意そうに腕を組み、彼を見上げる。
「トゲトゲのある実の話は、母上に聞いたことがあったんだよね。母上の国では『マキビシ』って呼ばれてて、『ニンジャ』って呼ばれる間諜たちが逃走用に使うんだって。しかも、茹でれば食べられるから非常食にもなる。ほら、ビスの実と同じ」
「学舎の庭にビスの木が生えてる、なんて教えるんじゃなかったですね」
イェノンは受付台に寄りかかり、『ご令嬢』を見つめた。
「……それはさておき、そういう服装、お似合いですよ」
「似合わなきゃ変装にならないよ」
子どもはさらりと答えてから、大きな窓から外を眺めて太陽の位置を確認した。
「あ、もうすぐ『ソレスの執務』の時間だ、生物の授業にお邪魔させてもらってこよう! 生物の先生なら、生徒じゃなくても何も言わずに受講させて下さるんだよねー」
スカートをひるがえし、子どもは小柄な身体で両開きの木の扉を一度に開こうと押した。長身のイェノンは身体を起こして苦笑し、後ろから手を伸ばして手伝う。
扉を開ききって中庭が見えたとき、子どもは顔をしかめた。
「……げ。見つかった」
中庭の芝生の中央には、十代前半に見える少年が立っていた。
長い白髪は後ろで一本にまとめているが、よくよく見るとその瞳は『ご令嬢』と同じ、黒。
驚いて目を見張るイェノンの前に立ったまま、子どもはぶすっとした声で少年に呼びかけた。
「何でここがわかったの。ツバサ兄さん」
ツバサと呼ばれた少年は、カツラの前髪をうるさそうにかきあげながらも優しく微笑んで言った。
「いつも父上に頼まれて母上を探し出す僕に、お前の居場所くらいわからないと思う? シノブ」
シノブと呼ばれた子どもは舌打ちをした。
この国の王妃シーゼには逃亡癖があり、気まぐれでふらっとどこかへでかけてしまうことがある。
聖樹の力を借りて魔力を操るシノブの兄――ハーヴェステス王太子ウィンガリオン(日本名ツバサ)、十四歳――は、母を見つけ出すことのできる数少ない捜査官でもあった。
「さあシノブ、行こう。女装してたならちょうどいい、このまま出発できる」
「女の子が女の子の服を着てるのに、女装とは言わないと思います」
減らず口を叩くシノブに、ツバサは肩をすくめた。
「しょうがないじゃないか、城ではいつも男の子みたいな格好してるんだから。お陰で、こんな格好してると一瞬シノブだとわからなかったよ、考えたね。なかなか見つからなかったわけだ」
そして、正門の方へ軽く手を向ける。
「ほら、アスカが馬車で待ってるよ」
「シノブー! 早くー!」
空中廊下の向こう、車寄せに停められた黒塗りの馬車の窓から、少女が身を乗り出して手を振っていた。レースのふんだんにあしらわれたつば付きボンネットから、豊かな黒髪が見え隠れしている。
シノブと年の頃の同じその少女の顔は、シノブにうり二つだった。
「あちらがアスカ様……本当にシノブ様とそっくりですね」
馬車に向けて軽く頭を下げてから、イェノンがつぶやく。
「……そりゃ双子だからね。あー行きたくないー小姓喫茶なんて。何でアスカはあんなところが好きなの……。でも、お城の外にお忍びで出歩くなら、警備のちゃんとしてるあそこしかダメって父上に言われてるんだよね……」
ガックリと肩を落とすシノブ。イェノンはちょっと視線を上げた。
「ああ、そういえば小姓喫茶『うるおい』が王都にできて五周年ですか」
「何で知ってんの五周年とか!」
シノブが目を剥く。
「チラシをもらいましたから……」
「そーなの、その五周年記念のパーティにアスカがどうしても行きたいって。父上と母上は用事があるから行けなくて、アスカとツバサ兄さんとで行けばいいのに、私だけ城に残しとくと何をしでかすかわからないから一緒に行動しろって言うんだよぉ」
シノブが頭をぐしゃぐしゃとかきまぜると、カツラが少しずれた。つややかな黒髪がのぞく。
「行きたくないから逃げたのに。あそこは女の子の格好してないと浮くー、でもアスカみたいなフリフリドレスはイヤー」
「だから、その格好でいいって言ってるじゃないか」
いつの間にか近くに来ていたツバサが、シノブの手を取る。諦めたのか大人しくされるがままになりながらも、シノブの口は止まらない。
「服装は良くても! 自分と同じ顔したアスカが小姓にデレデレするの見るのが嫌なんだって! うわーん」
「小姓もわきまえてるから、大丈夫だよ」
「何が大丈夫!?」
「それはまあ色々。あ、どうも、妹がお世話に」
「お世話などと、とんでもないことでございます。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるイェノンに、「うらぎりものー!」と叫びながらシノブは馬車に引きずられていった。
「もーシノブったら早く! パーティに遅れちゃうわ」
馬車の扉が開いた時に、アスカ王女のヒラヒラフリフリの黒いドレスが見えた。それもつかの間、王太子とシノブ王女を乗せて扉を閉めた馬車は颯爽と走り去る。周囲を護衛の騎士たちの馬が囲み、優雅につき従って走り去った。
「……性格は、似ていない、んですね……」
シノブの落としたカツラを拾い上げ、イェノンは馬車を優しい視線で見送ったのだった。
ハーヴェステス王国第百二十三代国王フェザリオンと、王妃シーゼの双子の娘は、シーゼ王妃がつけた「シノブ」「アスカ」という名前で国民に親しまれた。
なお、王太子ウィンガリオンが、シノブ王女の横笛にシーゼ王妃の髪を一本仕込んでいるために王女の居場所が丸わかりなのだ……という事実は、王女はまだ知らない。
【日本人の血筋 完】
すでに一日の仕事を始めているパン屋や、家畜の乳から温かな飲み物を作る店の煙突から立ち上る煙が、朝のしっとりした空気に混じる。城下町の正門を守る衛兵は交代の時刻、そんな空気に鼻をうごめかせて朝食を思い浮かべながら、馬の蹄の音をのんびりと石畳に響かせて城へと帰還していった。
そんな、穏やかな中に忙しさを内包する朝の風景に、いくつかの荒々しい足音が混じった。
濃い緑の制服を着たこの国の兵士が二人、まだ薄暗い街の裏路地を走っていた。二人の視線は、前方を走るもう一つの人影に向けられているが、曲がり角が現れるたびに人影が前触れなく曲がったり、家と家の間をすり抜けたりするので、追うのに必死の様子だ。
兵士に追われているのは、一人の子ども。年の頃は十歳前後――白いシャツに紺色のズボン、黒のブーツというごく普通の少年の格好をしているが、上質な生地が育ちの良さを物語っている。頭巾のついた外套を羽織っているが、角を曲がった拍子に頭巾が大きくひるがえった。
一瞬現れた前髪と瞳――その色は、黒。
この国ハーヴェステスでは、黒髪黒目は王妃の生んだ子どもである証拠である。なぜなら、それは異世界人王妃から一代限り受け継がれる色だからだ。
いたずらっぽく笑んだ口元をさっと覆うようにして頭巾を左手で抑え、子どもは右手を外套の懐に差し入れた。腰帯から抜いた細長い棒のようなものが光をはじく。それは金属性の横笛だった。
「それっ」
角を曲がって振り向きざま、銀色の横笛を大きく振るう。ちょうど後を追って現れた兵士に向かって、横笛の先から小さな黒い固まりがいくつも飛び出した。
「!!」
兵士の顔にぶつかってきたそれは、いくつものトゲを持つ親指の先ほどの黒い物体。人を傷つけるには重みも鋭さも足りないが、無視できない程度には、地味に、痛い。
思わず顔を覆った兵士の歩調がゆるむ。その隙に子どもはまた別の路地に駆け込み――
追跡を再開した兵士が路地に入ったときには、子どもの姿はそこにはすでになかった。
◇ ◇ ◇
城下街の山の手に、貴族や裕福な家の子どもが通う学舎があった。
正門を入ると、正面は煉瓦の壁のほとんどを蔦に覆われた二階建ての校舎だ。一部が空中廊下になっており、くぐると中庭がある。
そこを突っ切った真っ正面の建物に、学舎の様々な手続きを担う事務室があった。
「いくら楽器が苦手だからって、そんな武器に改造なさらなくても」
事務員のイェノンが、壁にかけられた石版に石筆で行事予定を書き込みながら苦笑する。
「改造ってほどじゃないよ」
その後ろ、ついたての向こうから、黒い瞳の子どもが姿を現した。ついたての中で着替えたため、先ほど兵士から逃げた時とは全く違う格好をしている。
白銀の髪のカツラはふんわりと波打って流れ落ち、光沢のある生成のブラウスは胸元に大きなリボンが結ばれている。さらに、エンジ色のやや広がるスカートに茶色の編み上げ長靴。これら一式はこの事務室に前もって置かせてもらっていたもので、その格好はいかにも良家のご令嬢といった趣だ。
『ご令嬢』は、にんまりと笑って横笛を持ち上げた。
「ほら。笛の内側に沿って、紙を入れてあるだけだよ。紙を回転させれば、笛の穴がふさがる。これで笛を振れば、中に仕込んだものが引っかからずにすんなり外に飛び出すわけ」
振り向いたイェノンに子どもが説明してみせると、
「まさかビスの実をそんな風に使うとは……」
彼は眼鏡を外してベストの胸ポケットに引っかけながら、澄んだ青空の色の瞳を子どもに向けた。子どもはちょっと得意そうに腕を組み、彼を見上げる。
「トゲトゲのある実の話は、母上に聞いたことがあったんだよね。母上の国では『マキビシ』って呼ばれてて、『ニンジャ』って呼ばれる間諜たちが逃走用に使うんだって。しかも、茹でれば食べられるから非常食にもなる。ほら、ビスの実と同じ」
「学舎の庭にビスの木が生えてる、なんて教えるんじゃなかったですね」
イェノンは受付台に寄りかかり、『ご令嬢』を見つめた。
「……それはさておき、そういう服装、お似合いですよ」
「似合わなきゃ変装にならないよ」
子どもはさらりと答えてから、大きな窓から外を眺めて太陽の位置を確認した。
「あ、もうすぐ『ソレスの執務』の時間だ、生物の授業にお邪魔させてもらってこよう! 生物の先生なら、生徒じゃなくても何も言わずに受講させて下さるんだよねー」
スカートをひるがえし、子どもは小柄な身体で両開きの木の扉を一度に開こうと押した。長身のイェノンは身体を起こして苦笑し、後ろから手を伸ばして手伝う。
扉を開ききって中庭が見えたとき、子どもは顔をしかめた。
「……げ。見つかった」
中庭の芝生の中央には、十代前半に見える少年が立っていた。
長い白髪は後ろで一本にまとめているが、よくよく見るとその瞳は『ご令嬢』と同じ、黒。
驚いて目を見張るイェノンの前に立ったまま、子どもはぶすっとした声で少年に呼びかけた。
「何でここがわかったの。ツバサ兄さん」
ツバサと呼ばれた少年は、カツラの前髪をうるさそうにかきあげながらも優しく微笑んで言った。
「いつも父上に頼まれて母上を探し出す僕に、お前の居場所くらいわからないと思う? シノブ」
シノブと呼ばれた子どもは舌打ちをした。
この国の王妃シーゼには逃亡癖があり、気まぐれでふらっとどこかへでかけてしまうことがある。
聖樹の力を借りて魔力を操るシノブの兄――ハーヴェステス王太子ウィンガリオン(日本名ツバサ)、十四歳――は、母を見つけ出すことのできる数少ない捜査官でもあった。
「さあシノブ、行こう。女装してたならちょうどいい、このまま出発できる」
「女の子が女の子の服を着てるのに、女装とは言わないと思います」
減らず口を叩くシノブに、ツバサは肩をすくめた。
「しょうがないじゃないか、城ではいつも男の子みたいな格好してるんだから。お陰で、こんな格好してると一瞬シノブだとわからなかったよ、考えたね。なかなか見つからなかったわけだ」
そして、正門の方へ軽く手を向ける。
「ほら、アスカが馬車で待ってるよ」
「シノブー! 早くー!」
空中廊下の向こう、車寄せに停められた黒塗りの馬車の窓から、少女が身を乗り出して手を振っていた。レースのふんだんにあしらわれたつば付きボンネットから、豊かな黒髪が見え隠れしている。
シノブと年の頃の同じその少女の顔は、シノブにうり二つだった。
「あちらがアスカ様……本当にシノブ様とそっくりですね」
馬車に向けて軽く頭を下げてから、イェノンがつぶやく。
「……そりゃ双子だからね。あー行きたくないー小姓喫茶なんて。何でアスカはあんなところが好きなの……。でも、お城の外にお忍びで出歩くなら、警備のちゃんとしてるあそこしかダメって父上に言われてるんだよね……」
ガックリと肩を落とすシノブ。イェノンはちょっと視線を上げた。
「ああ、そういえば小姓喫茶『うるおい』が王都にできて五周年ですか」
「何で知ってんの五周年とか!」
シノブが目を剥く。
「チラシをもらいましたから……」
「そーなの、その五周年記念のパーティにアスカがどうしても行きたいって。父上と母上は用事があるから行けなくて、アスカとツバサ兄さんとで行けばいいのに、私だけ城に残しとくと何をしでかすかわからないから一緒に行動しろって言うんだよぉ」
シノブが頭をぐしゃぐしゃとかきまぜると、カツラが少しずれた。つややかな黒髪がのぞく。
「行きたくないから逃げたのに。あそこは女の子の格好してないと浮くー、でもアスカみたいなフリフリドレスはイヤー」
「だから、その格好でいいって言ってるじゃないか」
いつの間にか近くに来ていたツバサが、シノブの手を取る。諦めたのか大人しくされるがままになりながらも、シノブの口は止まらない。
「服装は良くても! 自分と同じ顔したアスカが小姓にデレデレするの見るのが嫌なんだって! うわーん」
「小姓もわきまえてるから、大丈夫だよ」
「何が大丈夫!?」
「それはまあ色々。あ、どうも、妹がお世話に」
「お世話などと、とんでもないことでございます。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるイェノンに、「うらぎりものー!」と叫びながらシノブは馬車に引きずられていった。
「もーシノブったら早く! パーティに遅れちゃうわ」
馬車の扉が開いた時に、アスカ王女のヒラヒラフリフリの黒いドレスが見えた。それもつかの間、王太子とシノブ王女を乗せて扉を閉めた馬車は颯爽と走り去る。周囲を護衛の騎士たちの馬が囲み、優雅につき従って走り去った。
「……性格は、似ていない、んですね……」
シノブの落としたカツラを拾い上げ、イェノンは馬車を優しい視線で見送ったのだった。
ハーヴェステス王国第百二十三代国王フェザリオンと、王妃シーゼの双子の娘は、シーゼ王妃がつけた「シノブ」「アスカ」という名前で国民に親しまれた。
なお、王太子ウィンガリオンが、シノブ王女の横笛にシーゼ王妃の髪を一本仕込んでいるために王女の居場所が丸わかりなのだ……という事実は、王女はまだ知らない。
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